魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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9章 天術士

#64 恐怖

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 「ねえ、カーター。本のメモ書きの読めなかったところ、分かったの」
 「何だった?」
 「ナターシャの封印を解く方法。それは……フェアリーの血を石に与えること。使者はアルトゥールにその内容を伝えることができなかった……」

  カーターはアルルのその言葉を頭の中に叩き込んだ。フェアリーの血とはそのままのことか?要するにフェアリーの人間を殺すということと同じだ。しかし、そんなことがサングスターに出来るわけがない。もしもそれをカーターがアルトゥールに伝えたことで実行されたらアルルが殺されてしまう可能性がある。もしくはルークの恋人が当てはまる。
  そんなことはいけない。嫌だ。カーターは伝えることはやめようと思った。

 「今日は良い夜だね、アルル」
 「ええ。……寒いの、早くカーターも来て」

  ベッドにもぐりながらアルルは言った。ようやく明日、本来の形に全てが戻るのだ。カーターは拳を握り心を落ち着かせた。この間のレンとの戦いは自分1人だけだったが、今回はアルルが居るのだ。主にアルルのサポート役を務めることになるだろう。
  ふとアルルの方に目をやった。ラファウルに貰った血の薬は効果覿面だった。これからはカーターの行動によって、左右されていくのだ。今ベッドの中にいるアルルは本物のアルルだ。カーターのことを愛してくれている、本物のアルル。

 「もう寝ましょ、明日はたくさん戦うんだから……」

  2人は翌日の昼近くまでたっぷりと眠った。とはいえカーターは、何度も目が覚めた。ある意味アルルは警戒心が本当に無いのだとつくづく思った。昼近く、ドアを叩く音がして、カーターは目を覚ました。寝ぼけた頭でドアの方を見つめていると、男女の声がした。

 「また留守なの?具合悪くなって倒れてたりして」
 「ここ宿舎だし、開けてもらおうと思えば開けられるけど……確かお金かかるような気がする」
 「ええ……大金とアルルの安否、どっちを取る?レン」
 「俺そんなに金持ってな……ベティもちょっと協力してくれない?」

  レンとベティ。カーターはちらりとアルルの様子を見たが、アルルは眠ったままだった。起こすのは可哀想だ。

 「私だってあんまり……あ、ツバサは?ツバサはまだ帰ってないの?」
 「分からないな」
 「ツバサの部屋尋ねてみる?あ、でもここ女子寮だからアスカの方が近いか……私、アスカの部屋どこだかわかんないわ」
 「俺も知らん」
 「もう駄目駄目じゃん私達。ツバサの部屋に行ってみようか」
 「だね」

  2人の声と足音が遠ざかっていく。ツバサも留守にしているのか。カーターは少し残念に思った。ツバサがいれば、もっと戦力が増えるからだ。
  そこでようやくアルルが目を覚ました。

 「うわもうお昼じゃん……ちょっと寝過ぎたなぁ」
 「アルル、さっき友達が来てたよ。もう帰っていったけど」
 「あら」
 「今日の戦いの事だけど、アルルは暗闇駄目なんだよね?」
 「うん、ごめんなさい。どうしても動きが鈍くなっちゃって」
 「いやいや気にしないで。じゃあ夜はやめた方が良いね。それに夜だと相手が有利になっちゃうもんね。さあこれからランニングだよ!最高のバトルにしなくちゃ!」



 「……居ない」
 「やっぱ開けてもらう?アルルの部屋。ルークに忠告された通り、早く本も返さなきゃだし……」
 「ま、まあ……ツバサ帰ってきたら速攻で依頼を探しに行かないとな」

  2人はため息をついて、アルルの部屋の方へ引き返した。その時2人はすぐに気づいた。アルルの部屋のロックが解除されているのだ。

 「あれ……?」

  レンがドアをおそるおそる開くと、もぬけの殻の部屋があった。テーブルの上には本が置かれていた。その本をパラパラとめくるが、昨日挟まっていたメモ書きが無い。

 「ナターシャの絵が貼ってあったメモが無い。あのメモ無くて大丈夫なのか」
 「メモ?でも挟まっていただけなんでしょう?ページの切れ端とかじゃないなら別にわからないんじゃない?」

  レンは首をかしげて、本をローブのポケットに入れた。ポケットは無限に広い。たまにどこに入れてしまったのか分からなくなるのがオチだ。

 「でもこれで本は返却できそうね」
 「そうだな。もう図書館へ返しに行っちゃうか」
 「……あ、アルルじゃないと返せないんじゃないの?その本」
 「うーん……そしたらルークを探す」
 「名案だわ」

  2人は宿舎を後にして、王宮図書館へと向かった。空気が澄んでいた昨夜と違って、今日は1日中空が雲で覆われている。雨が降りそう、とベティは空を見上げて呟いた。
  その時だった。レンはハッとして、ベティの肩を掴んだ。どこからともなく魔術が飛んできた。

 「な、何?!」
 「どこだ?どこから飛んできたんだ?!」

  レンは意識を集中させ、辺りを観察した。見当たらない。そう思っているうちに次の攻撃が来た。寸でのところで2人は攻撃を避けた。

 「毒!まさか!」
 「……ピンピンしてるね、レン・グレイ」

  レンとベティがとっさに振り向くとそこにはカーターと、それからアルルが居た。

 「カーター・サングスター……お前、アルルに何を……」
 「いつまでも浮かれてんなよ。俺は正しい向きに戻しに来た。それだけだ」

  途端にアルルは魔術を発動させ、眩しく光る天術の光線を大量に発射した。レンは片腕を額の上にやりながら、攻撃を交わそうとしたがそれは無理だった。足を光線が貫いて、レンは地面に倒れるように転んだ。

 「レン!」

  ベティは駆け寄り、レンの身体を起こした。レンはすぐに立ち上がり魔術を発動させた。しかしすぐにアルルは攻撃をした。すぐさまベティが雷のバリアを作るが、あっという間に壊されてしまう。

 「アルル!!何で攻撃をしてくるの?!」
 「ベティ、危ないから隅に避けていて」

  アルルがいつもの声でそう言うと、ベティは思わずレンの方を見た。ベティとレンは、アルルのそのいつもの声色にゾッとしていた。

 「私は今、自分のやるべきことをやってるだけよ。穢らわしいグレイの一族を排除する。レン・グレイを殺すの」
 「アルル……やっぱり……君は」

  レンの手から魔術が消える。お構い無しにアルルは魔術をレンに向けて発射する。レンは避けることも無く、バリアを発動させることも無く攻撃を受けた。レンの体は宙に投げられる。
  飛んでいくレンの体をアルルはロープのように太くなった光線で捕まえ、自分の方へ戻すとまた攻撃をした。何度も何度も。レンはずっと目をつぶったまま痛みに絶叫した。
  レンの体が地面に投げつけられる。全身が痛み、レンは丸まって歯を食いしばっていた。

 「レン……魔術を……使えないの?このままだと貴方……」

  思わずベティはそう声をかけてしまった。レンは小さな声で言った。

 「足が……すくんで……動けないんだ……怖い……俺……怖いん……」
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