1 / 65
第一章
プロローグ
しおりを挟む
「エリス様、おめでとうございます」
「婚約披露パーティー楽しみにしております」
仲の良い令嬢同士が集まるお茶会で、令嬢たちはエリスに祝いの言葉をかけた。
名門貴族であるスチュアート伯爵家の娘エリスは、第二王子のエドワードとの婚約を発表したばかりだった。
婚約者のエドワードは、第二王子であるが、第一王子のジョンが行方不明であるため、実質的には皇太子の立場にあるとされている。したがって、このまま何事もなければ、エリスは将来、王妃になることが約束されている。
婚約披露パーティーの日が近づいてきたある日、エリスは侍女を連れ、街に来ていた。
婚約披露パーティーで着る予定のドレスを受け取りに来たのである。
「せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」
エリスは侍女のメアリーに尋ねた。
「そろそろお帰りにならないと……」
「それはわかっているけど……。もう少ししたら、私は自由に外を歩けなくなるのよ。もうこれが最後になるかも。ねえ、いいでしょ?」
エリスに目を潤ませながらお願い事をされると、断れなくなる。
「少しだけですよ」
とうとう――というか、いつものことだが、メアリーはエリスに根負けした。
「どうもありがとう! 大好きよ」
エリスは破顔した。
「ねえ、あそこのカフェにしましょう!」
エリスは、今にも走り出しそうな様子で、かなり早足で歩いている。
まだ少女と言って差支えの無いエリスが、もうすぐエドワードと結婚し、そして国母となる。メアリーにはまだ実感がなかったが、エリスのそばにいられるのもあと少しかと思うと寂しくもあった。
「エリス様、お待ちください!」
メアリーも早足になって、エリスを追いかけた。
「そこのお嬢さん」
「私のことですか?」
エリスは、カフェの手前で占い師の老婆に声をかけられた。
街で知らない人に声をかけられても、相手にしてはいけないとメアリーに口を酸っぱくして言われており、エリスも普段はその言いつけを守っているのだが、不思議なことに、この老婆の言うことは聞かなくてはならないような気がした。
エリスは、磁石で引き寄せられるように老婆の前に立った。
老婆は先ほどから水晶玉の中をじっと見つめている。
「あの、おばあさん、私、あまり時間がないの」
「あんた、近い将来に大変なことが待ち受けているよ……」
老婆が声を振り絞るようにして言った。
「大変なこと? もしかして『結婚』のことかしら? 確かに『結婚』は大変なことよね」
「いや……もっと別なことだよ。あんたの人生を変えてしまうほどのね……」
「婚約披露パーティー楽しみにしております」
仲の良い令嬢同士が集まるお茶会で、令嬢たちはエリスに祝いの言葉をかけた。
名門貴族であるスチュアート伯爵家の娘エリスは、第二王子のエドワードとの婚約を発表したばかりだった。
婚約者のエドワードは、第二王子であるが、第一王子のジョンが行方不明であるため、実質的には皇太子の立場にあるとされている。したがって、このまま何事もなければ、エリスは将来、王妃になることが約束されている。
婚約披露パーティーの日が近づいてきたある日、エリスは侍女を連れ、街に来ていた。
婚約披露パーティーで着る予定のドレスを受け取りに来たのである。
「せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」
エリスは侍女のメアリーに尋ねた。
「そろそろお帰りにならないと……」
「それはわかっているけど……。もう少ししたら、私は自由に外を歩けなくなるのよ。もうこれが最後になるかも。ねえ、いいでしょ?」
エリスに目を潤ませながらお願い事をされると、断れなくなる。
「少しだけですよ」
とうとう――というか、いつものことだが、メアリーはエリスに根負けした。
「どうもありがとう! 大好きよ」
エリスは破顔した。
「ねえ、あそこのカフェにしましょう!」
エリスは、今にも走り出しそうな様子で、かなり早足で歩いている。
まだ少女と言って差支えの無いエリスが、もうすぐエドワードと結婚し、そして国母となる。メアリーにはまだ実感がなかったが、エリスのそばにいられるのもあと少しかと思うと寂しくもあった。
「エリス様、お待ちください!」
メアリーも早足になって、エリスを追いかけた。
「そこのお嬢さん」
「私のことですか?」
エリスは、カフェの手前で占い師の老婆に声をかけられた。
街で知らない人に声をかけられても、相手にしてはいけないとメアリーに口を酸っぱくして言われており、エリスも普段はその言いつけを守っているのだが、不思議なことに、この老婆の言うことは聞かなくてはならないような気がした。
エリスは、磁石で引き寄せられるように老婆の前に立った。
老婆は先ほどから水晶玉の中をじっと見つめている。
「あの、おばあさん、私、あまり時間がないの」
「あんた、近い将来に大変なことが待ち受けているよ……」
老婆が声を振り絞るようにして言った。
「大変なこと? もしかして『結婚』のことかしら? 確かに『結婚』は大変なことよね」
「いや……もっと別なことだよ。あんたの人生を変えてしまうほどのね……」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王宮図書館の司書は、第二王子のお気に入りです
碧井 汐桜香
恋愛
格上であるサーベンディリアンヌ公爵家とその令嬢ファメリアについて、蔑んで語るファメリアの婚約者ナッツル・キリグランド伯爵令息。
いつものように友人たちに嘆いていると、第二王子であるメルフラッツォがその会話に混ざってきた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる