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第二章
浴室
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「ここで汚れを落とすといい。自由に使ってくれ」
「ここは……?」
「ああ、ここは泊まり込みで作業するときに使っているんだ。わざわざ寮に戻るのは面倒だからね」
「あの、お構いなく。部屋の浴室を使いますので……」
ルードヴィッヒは、エリスに気を使わせないよう説明をしたが、その説明を聞いた上でもエリスは浴室の使用を固辞した。自室以外で着ているものを脱ぐことは避けたかったのだ。たとえ自分しかいない密室であっても。
「遠慮することはない。それに、君の部屋はここから遠いだろう? その格好で部屋まで戻るつもりか?」
「……」
そう言われてしまうと、ぐうの音も出なかった。
エリスがルードヴィッヒに連れて来られた生徒会の建物は、講堂のすぐ近くにあるが、エリスの自室はその対極にある。
「それでは、クロードを呼んできて下さいませんか? 着替えが必要なので」
最後の手段だった。
「それなら俺が取りに行こう」
ルードヴィッヒの反応は、エリスが予期していないものであった。
「着替えを持ってきたら、わかるところに置いておくから、ドアに鍵をかけないでおいてくれ。なに、心配することはない。入り口にはロイがいるから誰も入って来やしないよ」
ルードヴィッヒは、エリスを浴室に残し、さっさとクロードの元に向かってしまった。
一人きりになると、様々な考えがエリスの頭に浮かんでは打ち消されていった。
しかし、何れも現実的ではなく、エリスは大人しくルードヴィッヒの厚意に甘えるしかなかった。
いくら〈誰も入って来ない〉と言われていても、ドアに鍵もかけずに入浴するのは不安であった。バスタブの前には、目隠しのための衝立が辛うじてある程度だ。
エリスは、極力裸でいる時間を短くしたかった。ルードヴィッヒが着替えを受け取って帰ってくるまで、三十分程度かかると予測し、ぎりぎりまで風呂に入らないことにした。
(先輩、まだ帰って来ないのかしら……? それとも、私が気がつかなかっただけかしら?)
一通り全身を洗い終えたエリスは、湯の張ってあるバスタブに浸かり、ルードヴィッヒの帰りを待っていた。
(それにしても熱い、お湯が熱すぎたみたい……)
長い時間、熱い湯に浸かっていたせいか、エリスの体は完全にのぼせ上ってしまっていた。
(もう耐えられないわ……)
エリスは、立ち上がりバスタブから出た。次の瞬間、エリスは立ち眩みを起こし、気を失い倒れた。
そこにルードヴィッヒが、着替えを持って帰って来た。
「ここは……?」
「ああ、ここは泊まり込みで作業するときに使っているんだ。わざわざ寮に戻るのは面倒だからね」
「あの、お構いなく。部屋の浴室を使いますので……」
ルードヴィッヒは、エリスに気を使わせないよう説明をしたが、その説明を聞いた上でもエリスは浴室の使用を固辞した。自室以外で着ているものを脱ぐことは避けたかったのだ。たとえ自分しかいない密室であっても。
「遠慮することはない。それに、君の部屋はここから遠いだろう? その格好で部屋まで戻るつもりか?」
「……」
そう言われてしまうと、ぐうの音も出なかった。
エリスがルードヴィッヒに連れて来られた生徒会の建物は、講堂のすぐ近くにあるが、エリスの自室はその対極にある。
「それでは、クロードを呼んできて下さいませんか? 着替えが必要なので」
最後の手段だった。
「それなら俺が取りに行こう」
ルードヴィッヒの反応は、エリスが予期していないものであった。
「着替えを持ってきたら、わかるところに置いておくから、ドアに鍵をかけないでおいてくれ。なに、心配することはない。入り口にはロイがいるから誰も入って来やしないよ」
ルードヴィッヒは、エリスを浴室に残し、さっさとクロードの元に向かってしまった。
一人きりになると、様々な考えがエリスの頭に浮かんでは打ち消されていった。
しかし、何れも現実的ではなく、エリスは大人しくルードヴィッヒの厚意に甘えるしかなかった。
いくら〈誰も入って来ない〉と言われていても、ドアに鍵もかけずに入浴するのは不安であった。バスタブの前には、目隠しのための衝立が辛うじてある程度だ。
エリスは、極力裸でいる時間を短くしたかった。ルードヴィッヒが着替えを受け取って帰ってくるまで、三十分程度かかると予測し、ぎりぎりまで風呂に入らないことにした。
(先輩、まだ帰って来ないのかしら……? それとも、私が気がつかなかっただけかしら?)
一通り全身を洗い終えたエリスは、湯の張ってあるバスタブに浸かり、ルードヴィッヒの帰りを待っていた。
(それにしても熱い、お湯が熱すぎたみたい……)
長い時間、熱い湯に浸かっていたせいか、エリスの体は完全にのぼせ上ってしまっていた。
(もう耐えられないわ……)
エリスは、立ち上がりバスタブから出た。次の瞬間、エリスは立ち眩みを起こし、気を失い倒れた。
そこにルードヴィッヒが、着替えを持って帰って来た。
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