「君を愛することはない」からの溺愛展開ってデフォルト設定だと思ってたんですが違いますか?

つかさ文研

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街の噂

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「できた……」
 光の入らない無数の機械音と幼い声が鳴る不気味な部屋に、リールの満足気な声が響いた。

―――

「おはようございます。奥様」
 ハレアが薄く目を開くと、目の前にはモーネが立っていた。
「旦那様はもう時計塔に行かれましたよ」
 隣を見るとシーツが寄れて、キルシュがそこにいた形跡だけが残っていた。
「別にウェルのことはどうでもいいし……」
 ハレアは寝起きの不機嫌さと昨夜のことを思い出したことで口を尖らせた。
「ふふ、奥様も旦那様と喧嘩するようになったんですね」
 モーネは微笑ましくハレアのことを見たが、ハレアはそれすら疎ましく思った。
「あっ、奥様にお手紙が来てましたよ!えっと……、お兄様のソレート様と、コレット様からです」
「えっ?コレットさん!?」
 ハレアは二通の手紙を受け取ると、兄からの手紙はベッドの上に無造作に置き、コレットの手紙を丁寧に開いた。

〈ハレアさんへ。お元気ですか?街の南のはずれでは千日紅という花が満開に咲いています。一輪だととても小さく可愛らしいお花ですが、一面に咲いているととても圧巻です。本題ですが、今帝都の中心ではハレアさんの話題で持ち切りです。第三皇子殿下と学生時代から身分違いの恋をしていたのに、ハレアさんが魔術師団長との政略結婚によって引き裂かれた、という内容のものです。ハレアさんと皇子殿下の恋を応援する声もあれば、皇子殿下を捨て魔術師団長を選んだというハレアさんに対する批判も多くあります。もちろん、私はそんな噂は嘘だと分かっています。しかし、このような状態で帝都中心にハレアさんが訪れるのはとても危険だと思いますので、どうか噂が収まるまではこちらに来られない方がよろしいかと思います。今後、新刊が入荷した場合は直接インハート家にお送りしますね!お気をつけて。いつでも私はハレアさんの味方です。コレットより〉

「えっ!?こんなことになってんの~」
 読み終えたハレアはすっかり目が覚めたようだった。
「どうかされました?」
「街で私がフェイリス殿下と学生時代に恋人関係だったみたいなあらぬ疑いが噂になっているみたいで……」
「ああ、私も学校で聞かれましたよ。否定しておきましたけど。ホント皆さん暇なんですね!そんな噂に踊らされるなんて!」
「はぁ……。これじゃあ、今まで以上に引きこもりになっちゃう……」

―――

 コンコンッ――
「失礼いたします」
「まあ、かけてくれ」
 その頃、キルシュは皇帝陛下に呼び出されていた。
「申し訳ないね、朝から。忙しいのに」
 申し訳の欠片もなさそうな声色だった。穏やかな口調だが、どこか少し冷たさを感じる。
 メイルス・トハコ・リックヨルンド、第七代リックヨルンド皇帝。若干二十歳にして皇帝になり、それまで続いていた侵略戦争を終わらせた平和主義者として知られている人だ。
「いえ、第一隊長の任を降りてからはだいぶ余裕が出てきました」
「それは良かった。今日は君に謝りたくてね。私の愚息が奥様に大変失礼なことを。息子にはキツく言い聞かせたので……」
(言い聞かせた?昨日うちに押しかけて来たのは知らないのか?)
「いえ、お気になさらずに……」
「ところで、夫婦仲はどうかね?」
「最近は特に良好です」
「それなら良かった。私も君たちの子どもには期待しているぞ?」
「……期待とは?」
「君は私にとって、もう一人の息子のように思っているからね」
「やはりお孫さんは可愛いですか?皇太子殿下にはお子さんがいらっしゃいますよね?」
「ああ、そうだなぁ~。今いくつだったかなぁ……」
 その声は冷たさをはらんでいて、全く興味のないものを語る口調だった。
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