伝説上の老人

笠井小太郎

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伝説上の老人

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「おとっつぁん、おっかさん。これで餅を買って年が越せるね。良かったね」

「大五郎、おめぇも一緒になって働いてくれたおかげだよ。おめぇはほんとに良い子だよ。おとっつぁんとおっかさんの自慢のせがれだよ」

 ほんの少し前、家族で涙を流して喜んだばかりなのに、こんなことになるとは。

「お願いだ! うちにある金を全部お渡しするんで、どうかせがれの命だけは助けておくんなせぇ!」

 強盗の前に正月の準備のために必死で働いて貯めた有り金を全部差し出し、夫婦は床に頭をこすり付けて懇願した。

 貧しい家族の家に突然強盗が押し入り、子供に刃物を突きつけ金を要求している。大五郎は、恐れのあまり失神していた。

「けっ、たったこれだけかよ。この小僧を売り飛ばして、金の足しにするか」

 強盗は、足元の金をつかんで懐へ入れ、大五郎を連れていこうとした。

「大五郎! あぁ、神様……」

 そのとき、床に転がっていた円筒状の物が強盗の方へ転がっていった。貧しい中、夫婦が大五郎へ買い与えた唯一の玩具の赤い万華鏡だった。

 「パン」と火薬の破裂音のような音が鳴った瞬間、そこへ赤備えの甲冑に身を包んだ一人の武者が現れた。長く白い髭をはやしているのが印象的な老人だった。強盗が驚いた隙をつき、老人は強盗から大五郎を奪い返した。

「良い子を苦しめる不届き者め! 拙者が成敗してくれる。めりー、めりー、める、めれ!」

 老人が強盗の方へ手をかざし、呪文を唱えるとツノが生えた大きなシカのような獣が出現し、強盗に飛びかかり消えた。気を失い、ばたっと床に倒れた強盗は、全身を縄で縛られていた。

 老人は、強盗を大国さまが持っているような大きな白い袋へ入れた。

「せがれを助けて下さってありがとうございます」

 夫婦は泣きながら老人に感謝した。

「礼には及ばぬ。拙者は良い子の味方でござる」

 老人は、ニコニコと微笑んだ。

「大切な万華鏡を壊してしまってすまぬ。拙者は円筒状のものからしか出てこれぬゆえ。代わりに新しい万華鏡をお渡しする。それと、大五郎殿は、しもやけで足が赤くはれているようでござる。今日も雪が降ってとても寒い。この足袋を履かせてやりなされ」

 老人は強盗に奪われたお金とともに、新しい万華鏡と真新しい足袋を夫婦に渡した。

「それでは失礼つかまつる。良き年をお迎え下され」

 強盗が入った大きな袋を背負い上げ、老人の姿は徐々に消え始めた。

「あの、あなた様のお名前は?」

散田九郎サンタクロウと申す」

 名前を言い終えるか否かのところで、老人は姿を消した。

「さんたくろう……す?」

 夫婦は名前をよく聞き取れず、顔を見合わせ、首をかしげた。

 その後、人口を膾炙カイシャするうちに話が円筒から煙突に一部変わる等しながら、この老人の伝説は、世界中に広まったとのことである。(了)
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