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第十章
442:行き違い
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IMPUの代表としてアカシが期待されていたとすれば、「OP社グループ労働者組合」の前委員長であることと、「タブーなきエンジニア集団」との関係であった。
組合の委員長であれば、経営陣と直接の交渉ができる可能性がある。
現在の社長は絶対王政のハドリではなく、(未だ本人は社長代行と名乗っているが)ヤマガタである。
ヤマガタは堅物で知られていたが、ハドリよりは話が通じるであろうと思われていた。
少なくとも全面服従を求めるハドリよりはましだろう、という程度であったが。
そして、「タブーなきエンジニア集団」のナンバーツーは、現在ECN社の社長代行である。
「タブーなきエンジニア集団」ともに戦ったアカシに対して、何らかの便宜が図られるのではないかという期待があった。
「しかし、所詮は系列会社の一従業員に過ぎないし、所属会社に大した力があるわけでもない。それに『タブーなきエンジニア集団』のトップは故人だ。どこまで相手にされるのだか……」
このような声もあった。
言われていることは完全に事実であったから、アカシもそれは否定していない。
「俺の能力ややり方を疑うのなら、参加しろとは言わない。自分で直接交渉するなり、別団体を立ち上げるなり自由にしてくれればいい。IMPUに参加するのなら、俺を信じてもらうしかない。選ぶのは自由だ」
疑問を投げかける声に対して、アカシは常にこう答えてきた。
IMPUを構成する企業のほとんどは小規模なものであり、単独で動くだけの余裕がない。
そして、アカシはIMPUへの参加に対して、一切の金銭を求めなかった。
求めたのは理事を含めたわずかな数の人材の派遣と、執務室の提供のみである。
参加したところで失うものはほとんどない。
あわよくば、取引先の獲得による利益を望むことができる。
これが決め手となって参加した企業は多かった。
だから、IMPUの活動に対して様子見の態度をとる企業が多かったのである。
ECN社との取引が成立したことで、やや期待はずれながらも一定の成果は得た。
今後はIMPUとしての活動もやりやすくなるはずだ、とアカシは考えていた。
アカシは現在捜索中のハドリ、ヌマタ、オイゲンの三人のうち一人でも発見しておけば、更に事態は良い方向に進むはずだ、とも思っている。
ハドリであるならば、OP社に恩を売り、取引打ち切りを撤回させる。
取引打ち切りはヤマガタが行ったことである。
そこに付け入る隙があるはずだ。
ヌマタが見つかれば、IMPUの理事に迎えるつもりである。
彼の能力であれば自分よりも上手にIMPUを運営するだろう、とアカシは思う。
オイゲンならばECN社への働きかけが可能だ。
亡くなったウォーリーから聞いている限りでは、比較的物わかりの良い人間だと聞いているので、交渉の余地は十分にあるだろう。
既に三人が行方不明になってから半年以上が経過しているのだが、誰かしらは生きた状態で発見できると信じて疑わないアカシであった。
(……これからが勝負だな)
アカシは今年LH五一年のはじめにOP社のグループ会社における従業員の代表になった。
そして、今年の終わりはどうやら企業そのものの集団の代表で迎えることになりそうだ。
(どちらにせよ、仕事で忙しくはなりそうだ。暇を持て余すよりはよほど良いが)
当分の間、アカシに休息の日は訪れそうもなかった。
(事態はよい方向に向かっているさ)
アカシは将来について敢えて楽観的に考えるようにしていた。
しかし、彼は気付いていなかった。
OP社に対し、行き場のない怒りを感じている者の多さに。
IMPU設立の数日前、OP社の元系列会社の社長が自殺した。
OP社に取引を打ち切られ、経営が立ち行かなくなったのである。
アカシもこの事件は知っており、近くにいた若い職員にこう漏らした。少々迂闊であったことは否めないが、アカシ自身はそれに気づいていなかった。
「生きていればできることもあったろうに。ただ、多少は理解できるが、同情はできない。心を鍛えていれば折れることもなく、従業員に対する責任を果たし続けただろう。その責任から逃げるために死を選ぶのは心が弱すぎる」
アカシからすれば当然過ぎる言葉であったが、この言葉が引き金を引いてしまった。
苦境にある者たちへの激励の意味もあったのだが、受け取る側が必ずしもそう受け取らなかったのだ。配慮に欠ける言葉であることは否定できないから、一方的に受け取る側を非難するのは筋違いであろう。
アカシの話を聞いた若い職員は知り合いにその言葉を伝えた。
それから徐々に広がっていき、多くの者がこのアカシの言葉を知ることとなる。
アカシの言葉を正面だって批判するものはなかった。
実際、言葉に賛同するものが多数であった。
しかし、一部はアカシに対する不満や不信感を持った。
また、事件に対してOP社に不満を持つ者もあった。
これらの不満や不信感が化学反応を起こすまでにそれほどの時間を要さなかった。
そして反応の結果生じた何かがインデストにおける新たな勢力の萌芽につながるのである。
組合の委員長であれば、経営陣と直接の交渉ができる可能性がある。
現在の社長は絶対王政のハドリではなく、(未だ本人は社長代行と名乗っているが)ヤマガタである。
ヤマガタは堅物で知られていたが、ハドリよりは話が通じるであろうと思われていた。
少なくとも全面服従を求めるハドリよりはましだろう、という程度であったが。
そして、「タブーなきエンジニア集団」のナンバーツーは、現在ECN社の社長代行である。
「タブーなきエンジニア集団」ともに戦ったアカシに対して、何らかの便宜が図られるのではないかという期待があった。
「しかし、所詮は系列会社の一従業員に過ぎないし、所属会社に大した力があるわけでもない。それに『タブーなきエンジニア集団』のトップは故人だ。どこまで相手にされるのだか……」
このような声もあった。
言われていることは完全に事実であったから、アカシもそれは否定していない。
「俺の能力ややり方を疑うのなら、参加しろとは言わない。自分で直接交渉するなり、別団体を立ち上げるなり自由にしてくれればいい。IMPUに参加するのなら、俺を信じてもらうしかない。選ぶのは自由だ」
疑問を投げかける声に対して、アカシは常にこう答えてきた。
IMPUを構成する企業のほとんどは小規模なものであり、単独で動くだけの余裕がない。
そして、アカシはIMPUへの参加に対して、一切の金銭を求めなかった。
求めたのは理事を含めたわずかな数の人材の派遣と、執務室の提供のみである。
参加したところで失うものはほとんどない。
あわよくば、取引先の獲得による利益を望むことができる。
これが決め手となって参加した企業は多かった。
だから、IMPUの活動に対して様子見の態度をとる企業が多かったのである。
ECN社との取引が成立したことで、やや期待はずれながらも一定の成果は得た。
今後はIMPUとしての活動もやりやすくなるはずだ、とアカシは考えていた。
アカシは現在捜索中のハドリ、ヌマタ、オイゲンの三人のうち一人でも発見しておけば、更に事態は良い方向に進むはずだ、とも思っている。
ハドリであるならば、OP社に恩を売り、取引打ち切りを撤回させる。
取引打ち切りはヤマガタが行ったことである。
そこに付け入る隙があるはずだ。
ヌマタが見つかれば、IMPUの理事に迎えるつもりである。
彼の能力であれば自分よりも上手にIMPUを運営するだろう、とアカシは思う。
オイゲンならばECN社への働きかけが可能だ。
亡くなったウォーリーから聞いている限りでは、比較的物わかりの良い人間だと聞いているので、交渉の余地は十分にあるだろう。
既に三人が行方不明になってから半年以上が経過しているのだが、誰かしらは生きた状態で発見できると信じて疑わないアカシであった。
(……これからが勝負だな)
アカシは今年LH五一年のはじめにOP社のグループ会社における従業員の代表になった。
そして、今年の終わりはどうやら企業そのものの集団の代表で迎えることになりそうだ。
(どちらにせよ、仕事で忙しくはなりそうだ。暇を持て余すよりはよほど良いが)
当分の間、アカシに休息の日は訪れそうもなかった。
(事態はよい方向に向かっているさ)
アカシは将来について敢えて楽観的に考えるようにしていた。
しかし、彼は気付いていなかった。
OP社に対し、行き場のない怒りを感じている者の多さに。
IMPU設立の数日前、OP社の元系列会社の社長が自殺した。
OP社に取引を打ち切られ、経営が立ち行かなくなったのである。
アカシもこの事件は知っており、近くにいた若い職員にこう漏らした。少々迂闊であったことは否めないが、アカシ自身はそれに気づいていなかった。
「生きていればできることもあったろうに。ただ、多少は理解できるが、同情はできない。心を鍛えていれば折れることもなく、従業員に対する責任を果たし続けただろう。その責任から逃げるために死を選ぶのは心が弱すぎる」
アカシからすれば当然過ぎる言葉であったが、この言葉が引き金を引いてしまった。
苦境にある者たちへの激励の意味もあったのだが、受け取る側が必ずしもそう受け取らなかったのだ。配慮に欠ける言葉であることは否定できないから、一方的に受け取る側を非難するのは筋違いであろう。
アカシの話を聞いた若い職員は知り合いにその言葉を伝えた。
それから徐々に広がっていき、多くの者がこのアカシの言葉を知ることとなる。
アカシの言葉を正面だって批判するものはなかった。
実際、言葉に賛同するものが多数であった。
しかし、一部はアカシに対する不満や不信感を持った。
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