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第十章
443:OP社インデスト支店の苦境
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LH五一年一二月下旬、インデストには師走の風が吹き荒れていた。
例年であれば人々は建物の中にいる限り、こうした風の冷たさを感じることなく、科学による温もりの恩恵を享受できるはずであった。
しかし、この年に得られた恩恵は、例年と比較して著しく少なかった。
一二月の半ばごろからインデストでは頻繁に停電が発生するようになっていたのである。
OP社が不足する発電関係の技術者を確保するため、インデストに勤務していた技術者を本社のあるポータル・シティに呼び寄せた。
これが二ヶ月ほど前の話である。
潮流を利用した発電設備は運用を誤ると発言効率が著しく低下する場合があり、これが運用に熟練を要する要因となっている。
熟練技術者の抜けたインデストの発電所では発電量が徐々に低下していった。
この結果、一二月の半ばに入って発電量が従来より三割以上低下した。
一方、電力需要は冬の暖房によるものや、IMPUによる鉄鋼事業の展開などにより増加していった。
そして、一二月一六日、ついに電力の供給と需要が逆転するときがきたのである。
アカシはOP社に苦情を投げつけながらも、市民生活の快適性確保のためIMPUでの電力使用量を減らす対策━━操業時間の一部夜間振り替えや短縮など━━を実施した。
OP社側も必死に対応し発電量の低下は食い止めたが、この水準を維持するのに手一杯で、発電量が増加に転じるところまでには至らなかった。
一六日の停電はすぐに解消されたが、三日後の一九日に再び停電が発生した。
この停電は四時間近くに渡って断続的に発生し、IMPUの事業や市民生活に大きな影響を及ぼした。
IMPUは再び操業時間の短縮を実施したが、これにも限度がある。
特に溶鉱炉の停止はIMPUとしても絶対に避けたいところである。
一度火を消した炉を再度立ち上げるためには相応の時間と労力を要する。
溶鉱炉で鉄鉱石を鉄に変えなければ、インデストは他の都市から資金を得るための大部分の手段を失う。
少なくない生活のための品物を他の都市からの買い入れに頼っているインデストにとって、これは死活問題である。
そのため、IMPUは事業維持のために絶対譲れないライン近くまで電力消費量を減らした。
稼働率に換算すると最大時の三〇パーセント、通常操業時の半分弱である。
これ以上の稼働率の低下が起これば、電力供給が回復してもすぐに稼働率を戻せなくなることになる。
それでも停電は度々発生し、市民生活を脅かしていった。
徐々に市民の不安が高まり、不満が募っていった。
市民の怒りの矛先は、まず電力供給者であるOP社に向かった。
現在のインデストにあるOP社の事業所は、かつてアカシやウォーリーが自陣営の本拠地とするために占拠したサウスセンターにあるインデスト支店と、海沿いにある発電所のみだ。
インデスト支店についてはOP社治安改革部隊と「タブーなきエンジニア集団」「OP社グループ労働者組合」連合軍が和解した際にOP社に明け渡され、現在もそのまま支店事務所として使われている。
建物の中では、ひっきりなしに苦情を伝える通信が入っており、OP社の従業員が対応に追われている。
苦情の数に対し、対応する従業員の数が少なすぎたのだ。
これが「対応が遅い」と新たな苦情を呼ぶ要因となった。
埒があかない、とポータル・シティのOP社本社に苦情を申し立てた者も少なくなかった。
しかし、事態は好転しなかった。
本社をはじめとしたOP社の他の事業所も、インデストと大して状況に差がなかったからだ。
むしろインデストの方がまし、と言えないこともなかった。
インデストと異なり、他の地域ではそれほど頻繁に停電が発生していたわけではない。
それは、発電を支える技術者が、ほとんど不眠不休に近い体制で発電量を維持していたからであった。
厳しいハドリ、几帳面なヤマガタと二代の社長が、発電量の低下を許さなかったのだ。
二人ともが発電技術者数の不足を労働時間の増加で補ったのである。
当初、治安改革部隊はフジミ・タウン解放とインデストの治安回復を実現した時点で縮小させる予定であった。
縮小により生じた余剰人員を発電事業に戻し、発電技術者不足による発電量の低下を食い止められるはずだったのだ。
そもそも治安改革部隊の隊員の多くは発電関係の業務に従事していた者であり、発電事業に戻せばそれほどの時間を要さずとも発電技術者に復帰できたはずだった。
誤算が生じたのは、治安改革部隊の隊員が発電技術者の労働環境が劣悪なことを知り、発電技術者への復帰を拒んだためである。
彼らが治安改革部隊へ転じる前と比較して、発電技術者の労働環境が著しく悪化していた。復帰を拒むのも当然であった。
事実、彼らが発電関係の業務に従事していたときと比較して、発電技術者の労働時間が大きく増加していた。
OP社のトップであるヤマガタはハドリと異なり、復帰を望まない者を無理矢理復帰させるという手段に訴えることはなかった。
彼はあくまでルールの人であった。
ハドリ健在のときはハドリがルールであったが、ハドリが行方不明の今、ヤマガタが従う相手は社の規程であったのだ。
例年であれば人々は建物の中にいる限り、こうした風の冷たさを感じることなく、科学による温もりの恩恵を享受できるはずであった。
しかし、この年に得られた恩恵は、例年と比較して著しく少なかった。
一二月の半ばごろからインデストでは頻繁に停電が発生するようになっていたのである。
OP社が不足する発電関係の技術者を確保するため、インデストに勤務していた技術者を本社のあるポータル・シティに呼び寄せた。
これが二ヶ月ほど前の話である。
潮流を利用した発電設備は運用を誤ると発言効率が著しく低下する場合があり、これが運用に熟練を要する要因となっている。
熟練技術者の抜けたインデストの発電所では発電量が徐々に低下していった。
この結果、一二月の半ばに入って発電量が従来より三割以上低下した。
一方、電力需要は冬の暖房によるものや、IMPUによる鉄鋼事業の展開などにより増加していった。
そして、一二月一六日、ついに電力の供給と需要が逆転するときがきたのである。
アカシはOP社に苦情を投げつけながらも、市民生活の快適性確保のためIMPUでの電力使用量を減らす対策━━操業時間の一部夜間振り替えや短縮など━━を実施した。
OP社側も必死に対応し発電量の低下は食い止めたが、この水準を維持するのに手一杯で、発電量が増加に転じるところまでには至らなかった。
一六日の停電はすぐに解消されたが、三日後の一九日に再び停電が発生した。
この停電は四時間近くに渡って断続的に発生し、IMPUの事業や市民生活に大きな影響を及ぼした。
IMPUは再び操業時間の短縮を実施したが、これにも限度がある。
特に溶鉱炉の停止はIMPUとしても絶対に避けたいところである。
一度火を消した炉を再度立ち上げるためには相応の時間と労力を要する。
溶鉱炉で鉄鉱石を鉄に変えなければ、インデストは他の都市から資金を得るための大部分の手段を失う。
少なくない生活のための品物を他の都市からの買い入れに頼っているインデストにとって、これは死活問題である。
そのため、IMPUは事業維持のために絶対譲れないライン近くまで電力消費量を減らした。
稼働率に換算すると最大時の三〇パーセント、通常操業時の半分弱である。
これ以上の稼働率の低下が起これば、電力供給が回復してもすぐに稼働率を戻せなくなることになる。
それでも停電は度々発生し、市民生活を脅かしていった。
徐々に市民の不安が高まり、不満が募っていった。
市民の怒りの矛先は、まず電力供給者であるOP社に向かった。
現在のインデストにあるOP社の事業所は、かつてアカシやウォーリーが自陣営の本拠地とするために占拠したサウスセンターにあるインデスト支店と、海沿いにある発電所のみだ。
インデスト支店についてはOP社治安改革部隊と「タブーなきエンジニア集団」「OP社グループ労働者組合」連合軍が和解した際にOP社に明け渡され、現在もそのまま支店事務所として使われている。
建物の中では、ひっきりなしに苦情を伝える通信が入っており、OP社の従業員が対応に追われている。
苦情の数に対し、対応する従業員の数が少なすぎたのだ。
これが「対応が遅い」と新たな苦情を呼ぶ要因となった。
埒があかない、とポータル・シティのOP社本社に苦情を申し立てた者も少なくなかった。
しかし、事態は好転しなかった。
本社をはじめとしたOP社の他の事業所も、インデストと大して状況に差がなかったからだ。
むしろインデストの方がまし、と言えないこともなかった。
インデストと異なり、他の地域ではそれほど頻繁に停電が発生していたわけではない。
それは、発電を支える技術者が、ほとんど不眠不休に近い体制で発電量を維持していたからであった。
厳しいハドリ、几帳面なヤマガタと二代の社長が、発電量の低下を許さなかったのだ。
二人ともが発電技術者数の不足を労働時間の増加で補ったのである。
当初、治安改革部隊はフジミ・タウン解放とインデストの治安回復を実現した時点で縮小させる予定であった。
縮小により生じた余剰人員を発電事業に戻し、発電技術者不足による発電量の低下を食い止められるはずだったのだ。
そもそも治安改革部隊の隊員の多くは発電関係の業務に従事していた者であり、発電事業に戻せばそれほどの時間を要さずとも発電技術者に復帰できたはずだった。
誤算が生じたのは、治安改革部隊の隊員が発電技術者の労働環境が劣悪なことを知り、発電技術者への復帰を拒んだためである。
彼らが治安改革部隊へ転じる前と比較して、発電技術者の労働環境が著しく悪化していた。復帰を拒むのも当然であった。
事実、彼らが発電関係の業務に従事していたときと比較して、発電技術者の労働時間が大きく増加していた。
OP社のトップであるヤマガタはハドリと異なり、復帰を望まない者を無理矢理復帰させるという手段に訴えることはなかった。
彼はあくまでルールの人であった。
ハドリ健在のときはハドリがルールであったが、ハドリが行方不明の今、ヤマガタが従う相手は社の規程であったのだ。
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