ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十章

456:エリックの評価

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 エリックがかつての仲間の連絡先を探し出したころ……

「ねぇ、モトムラマネージャーってあんな感じの人だっけ?」
「戻ってくる前はもうちょっと口の悪い人だと思っていたけど……?」
「何かあんたが言っていたのと、イメージが違うからどうしたかと思っているわよ!」
 ECN社本社近くの居酒屋で、数名のグループがエリックを肴に酒を楽しんでいた。
 ECN社の社員のようで、年のころは皆エリックと同じくらいか少し上に見える。
「昔、一緒に作業したことあるけど、亡くなったトワマネージャーにすら嫌味を言うくらいの人だったんだけどね……」
「全然そんな感じじゃないわよ。面白みも何にもないって言うか」
「そうだなぁ。もともと『いい感じの人』だったけど、前はその嫌味が面白かったし、もう少し何ていうか……要領が悪くて不器用な感じの人だったと思うんだけどな」
「何か小器用でそつがない、って感じに見えるわよ! 面白くもなんともない!」

 彼女らはエリックのタスクユニットに所属する社員たちであった。
 会話から想像するに、「タブーなきエンジニア集団」には参加せずに、ECN社に残り続けていたメンバーのようだ。
「まあ、仕事がやりにくい、って訳じゃないから、文句を言っても仕方ないかもな。セキノサブマネみたいに口うるさい爺さんじゃないし」
 セキノというのはエリックの部下のサブマネージャーである。
 宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」移住者募集に応じたという七〇歳近くの老人である。
 ここエクザロームには七〇歳以上の者と三〇歳未満の者が多く、ECN社もその例外ではない。
 社会の前線で戦う世代の人口が極端に少ないので、先ほどのような「老人に使われる若者」という構図もここでは決して珍しいものではない。
「サブマネなんて関係ないじゃない。『タブーなきエンジニア集団』で活躍した、っていうからどんな人かと思ったら、目立たない真面目な感じの人でさ、つまらない。マネージャーならもうちょっと悪くても面白い感じの人じゃないと。そうじゃないと、何で私よりも年下なのにマネージャーやっているのかわからないわよ」
「マネージャーだとなかなか現場には出られないからなぁ。技術的には確かな人なのは間違いないよ。忙しそうだから現場になかなか来ないけど、技術者の立場からはもうちょっと現場を助けて欲しいな、という気分だけどね」
「そうなの?」
「でも、コストコストとばかりいっていたヘンミTMよりはましだよ。あの人も目立たない人だったけど、コストにだけはうるさかったからなぁ」
「技術じゃない私にはよくわからないけどね。前の上司よりはまし、ってことか……」
 職場におけるエリックの評判は大体彼らの会話のようなものであった。
 どこの職場にも上司に対する不満というものはあるもので、エリックについても例外ではなかった。
 前任のヘンミは営業や顧客に対するウケがよいタイプではあったが、他の従業員━━特に現場の技術者━━からのウケはよくなかった。
 その点、エリックはバランスが取れているが、現場の技術者たちはヘンミの前任であるウォーリーのときのような扱いを期待していた。その点ではやや期待外れ、といったところだった。
 面白み、という点については、エリックの嫌味がウォーリーやミヤハラ、サクライなどといった上司という触媒を必要としたことが原因であったかもしれない。
 タスクユニットの長となった現在では、触媒を得ることが難しいのだ。

 彼のエリックはウォーリーより一歳下の二五歳で上級チームマネージャーとなった。これより上の役職はECN社には社長副社長を含めた役員しかない。
 エリックは約二ヶ月前に上級チームマネージャーとして二六歳の誕生日を迎えたが、過去にも現在にも二六歳で上級チームマネージャーだった者はこの二人だけなのだ。
 オイゲンは二〇代で社長になったが、彼は前の社長の長男であった。それに彼はECN社で上級チームマネージャーの地位に就いたことがない。
 その彼ですら、二六歳の時点では上級チームマネージャーのふたつ下のサブマネージャーでしかなかった。
 そう考えれば、ウォーリーやエリックの出世速度は異例のものであった。
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