48 / 304
第十章
471:電力不足を願う者?
しおりを挟む
場を重苦しい空気が支配している。
通信を挟んでインデスト側はサン・アカシら、ハモネスのECN者側にはミヤハラ、サクライ、エリック、レイカが無言でただ時が過ぎるのを待っている。
アカシとミヤハラ宛に送られた抗議文の発信者が火災に関係しているとするならば……
今のところ発電所の坑道の火災で死亡した者はいないが、一歩間違えば大惨事になった可能性も考えられる。
アカシ率いるIMPUの応援部隊が予定通りの時刻に到着していたら、彼らも火災に巻き込まれた可能性が十分に考えられる。
むしろ坑道に入っていた人数が少なかったおかげで、迅速な避難が可能になった面もある。
もし、抗議文と火災との間に関連性があるのであれば、IMPU内部の不祥事、ということになりかねない。
そうであれば、トップであるアカシの責任は免れないであろうし、その後始末にECN社の助力を仰がなければならないアカシの心情は察するに余りある。
幸いにして通信に参加しているECN社のメンバーはアカシの立場の厳しさをよく知っており、彼を責めるつもりは微塵もない。
しかし、それによってアカシの責任が軽くなるわけでもなかった。
通信に参加している皆がその場に立ち尽くしているだけに見えたが、一人の例外があった。
エリックである。
(あの通信は一体何だったのだろうか? 何かあるはず……)
エリックは必死で携帯端末を操作し、火災発生直前の非常通信を追っていた。
火災がIMPUの責によらないものであるならば、話は変わってくる。
エリックの調査は、火災がIMPUの責によるものと判明した場合、後に引けなくなるという点で諸刃の剣ではあったが、一縷の望みを賭けて、エリックは端末の画面に映し出される情報と格闘していた。
(何か、何かわからないだろうか……)
※※
「予定通り『勉強会』は、IMPUの上層部に向けて抗議行動を開始しました」
「地熱発電所では火災が発生した模様です。現在、消火活動中とのことです」
最初に女性が次に男性が何者かに向けてそう報告した。
「いいでしょう、状況に変化があればその時点で、何もなければ二時間後に再度、状況を報告してください」
「承知しました」
「わかりました」
一方で報告者の男女は報告相手に一礼し、その場を去った。
周囲を見回すと、この場所が二〇平方メートルほどの部屋であることがわかる。
奥に大きな机があり、こげ茶のコートのようなものを羽織った人物が横向きに席に着いている。
机の脇には大きな棚が置かれており、この棚が席の主の顔を隠していた、
この人物が二人から報告を受けていた。
「今、発電を回復させるなどもってのほか……
人はもっと危機を味わうべき……」
わずかに漏れた声は、明らかに女性のものであった。
口調は落ち着いているが、声のトーンから年配の者ではないかと思われた。報告者の二人よりも年上、かつ上位の立場の者と思われる。
「『勉強会』の皆様がどこまでできるのか……楽しみなこと」
報告を受けた女性が報告者にそう言ってゆっくりと席を立った。
その髪は短く切り揃えられており、目には意思の強さを感じさせる光があった。年のころは七〇を超えていると思われる老女であったが、足腰はしっかりしている。
背はそれほど高くないが、何か存在感を感じさせる空気を持つように思われた。
「これでようやく……始まった」
老女は静かに告げると、再び席に着いた。
そして、席に置かれた端末のキーボードをせわしなく叩き始めた……
通信を挟んでインデスト側はサン・アカシら、ハモネスのECN者側にはミヤハラ、サクライ、エリック、レイカが無言でただ時が過ぎるのを待っている。
アカシとミヤハラ宛に送られた抗議文の発信者が火災に関係しているとするならば……
今のところ発電所の坑道の火災で死亡した者はいないが、一歩間違えば大惨事になった可能性も考えられる。
アカシ率いるIMPUの応援部隊が予定通りの時刻に到着していたら、彼らも火災に巻き込まれた可能性が十分に考えられる。
むしろ坑道に入っていた人数が少なかったおかげで、迅速な避難が可能になった面もある。
もし、抗議文と火災との間に関連性があるのであれば、IMPU内部の不祥事、ということになりかねない。
そうであれば、トップであるアカシの責任は免れないであろうし、その後始末にECN社の助力を仰がなければならないアカシの心情は察するに余りある。
幸いにして通信に参加しているECN社のメンバーはアカシの立場の厳しさをよく知っており、彼を責めるつもりは微塵もない。
しかし、それによってアカシの責任が軽くなるわけでもなかった。
通信に参加している皆がその場に立ち尽くしているだけに見えたが、一人の例外があった。
エリックである。
(あの通信は一体何だったのだろうか? 何かあるはず……)
エリックは必死で携帯端末を操作し、火災発生直前の非常通信を追っていた。
火災がIMPUの責によらないものであるならば、話は変わってくる。
エリックの調査は、火災がIMPUの責によるものと判明した場合、後に引けなくなるという点で諸刃の剣ではあったが、一縷の望みを賭けて、エリックは端末の画面に映し出される情報と格闘していた。
(何か、何かわからないだろうか……)
※※
「予定通り『勉強会』は、IMPUの上層部に向けて抗議行動を開始しました」
「地熱発電所では火災が発生した模様です。現在、消火活動中とのことです」
最初に女性が次に男性が何者かに向けてそう報告した。
「いいでしょう、状況に変化があればその時点で、何もなければ二時間後に再度、状況を報告してください」
「承知しました」
「わかりました」
一方で報告者の男女は報告相手に一礼し、その場を去った。
周囲を見回すと、この場所が二〇平方メートルほどの部屋であることがわかる。
奥に大きな机があり、こげ茶のコートのようなものを羽織った人物が横向きに席に着いている。
机の脇には大きな棚が置かれており、この棚が席の主の顔を隠していた、
この人物が二人から報告を受けていた。
「今、発電を回復させるなどもってのほか……
人はもっと危機を味わうべき……」
わずかに漏れた声は、明らかに女性のものであった。
口調は落ち着いているが、声のトーンから年配の者ではないかと思われた。報告者の二人よりも年上、かつ上位の立場の者と思われる。
「『勉強会』の皆様がどこまでできるのか……楽しみなこと」
報告を受けた女性が報告者にそう言ってゆっくりと席を立った。
その髪は短く切り揃えられており、目には意思の強さを感じさせる光があった。年のころは七〇を超えていると思われる老女であったが、足腰はしっかりしている。
背はそれほど高くないが、何か存在感を感じさせる空気を持つように思われた。
「これでようやく……始まった」
老女は静かに告げると、再び席に着いた。
そして、席に置かれた端末のキーボードをせわしなく叩き始めた……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる