ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

477:妙な配送先

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 ヌマタがインデストに向けて道を進んでいく。
 舗装された道ではないが、物流業者が頻繁に行き来するため、地面は踏み固められている。
 雨が降るとぬかるんで進みにくくなるが、最近は好天に恵まれていた。移動に何の支障もない。
 これから少なくとも約一ヶ月は、気に入らない上司と顔を合わせないで済むので、ヌマタは上機嫌である。天候と同じく晴れやかな気分というやつだ。
 道もよく知ったところなので、ヌマタの足取りは軽い。

 (そういえば、相手先をいくつか確認していなかったな……)
 ヌマタはフジミ・タウンの町を抜けたところで、引いているリヤカーを止め、携帯端末を広げた。
 今回の荷物は小包が二〇個ほど、それと中身が空だと思われる木製の大きなタンクがふたつ、であった。
 二〇個ほどの小包のほとんどはフジミ・タウンからインデストへ通じる街道沿いにある簡易宿泊所への届け物である。
 これらの簡易宿泊所は、ヌマタの勤務するエフ・ティ・ロジ社などの物流業者が中心となって、街道沿いのおよそ一〇キロごとに設置したものである。
 物流業者はこれらの簡易宿泊所を使いながら、徒歩で目的地へと向かう。
 簡易宿泊所には各物流業者などから交代で従業員が派遣されており、施設の管理を行っている。いくつか無人のものもあるが、その数は徐々に減っている。
 通常、これらの管理者は三ヶ月から半年間、簡易宿泊所に住み込んだ後、次の人員と交代する。
 簡易宿泊所への届け物は彼ら簡易宿泊所の管理者に対するものである。食料や日用品、消耗品などが中心だ。水道が通っていない場所もあるので、浄水装置用のフィルタなどというものもある。
 残りの荷物のあて先は、すべて同じである。
「ピーター・ウェル農場」というのがそのあて先の名前であった。

 物好きもいるものだな、とヌマタは思った。
 鉄道の通じているポータル・シティ、ハモネス、チクハ・タウンあたりの地域を除けば、ここサブマリン島の物流インフラは極めて貧弱である。
 そのため、鉄道の通じていないフジミ・タウンやインデストなどへの運送費は非常に高額である。
 今回のようにフジミ・タウンからインデスト近くまで、リヤカー一台の臨時便を立てる場合、その代金は五万ポイント近くに達する。
 この金額は、ここサブマリン島における平均的なサラリーマンの数ヶ月分の収入に匹敵する。
 一方で、このリヤカーで運べる荷物は重量にして一〇〇キロにも満たず、輸送にかかる期間も二週間程度は覚悟しなければならない。
 また、今回の配送先となっている「ピーター・ウェル農場」は、フジミ・タウンよりもインデストの方がより近く、コストや輸送時間の面でインデストからの配送の方がはるかに有利である。
 フジミ・タウンで購入したものを運ぶにしろ一度フジミ・タウンに向けて運んだものを戻すにしろ、かけている手間とコストが尋常ではない。
 ヌマタには、このようなコストをかけて空の木製タンクを送る主に興味が湧いた。
 タンクの造りからして、液体用のものであることが予想される。
 携帯端末を操作して差出人を見ると、ポータル・シティにある食品会社であることがわかった。
 (わざわざ高い金をかけて運ぶ価値のあるものか? 妙だぞ)
 ヌマタの価値観では、このような高い金をかけて少量の食料を運ぶなど理解しがたい行為である。
 彼も世の中に物好きがいることは承知しているから、このようなことが皆無だとは思わない。
 今運んでいるタンクが空であり、その受取主が農場であることを考えれば、受取主の農場で作った作物かその加工品をポータル・シティの食品会社に販売していることは容易に推測できる。
 これがヌマタに疑念を抱かせる要因となっている。
 金持ちの道楽でとんでもない物流コストが乗った食品を購入する、という価値観は彼には理解しがたいものだ。
 しかし、ヌマタが疑念を抱く理由はそれだけではなかった。

 (あんな石ころだらけのところで作った作物をわざわさポータルに持っていくだと?!物好きのやることはよくわからん)
 ヌマタの思う通り、インデストの周辺、特にピーター・ウェル農場の付近の土地は石だらけであまり農作に向いているとはいえない。
 ここサブマリン島で農作の盛んな場所といえばかつてのフジミ・タウンと現在のハモネス郊外であり、ポータル・シティの業者がわざわざ遠いインデストから農産物を買い入れる必要性があるとは考えにくい。
 考えれば考えるほど、この荷物には裏があるのではないかという疑いが強まってくる。

「……まあいい、受取人がどんな奴だか確かめるのもよかろう」
 ヌマタは荷物の受取人である「ピーター・ウェル農場」が何者か、その正体を突き止めることを決めた。
 彼自身、そのようなことをして何になるのか? と考えた。
「テロリストになりそこなった男」にできる役割などありそうもない。能力的な観点からも、道義的な観点からも役割を与えてよいとも思えなかった。
 だが、ある可能性に思い当たり、彼は自身の考えを改めることにしたのだった。
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