ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

478:ヌマタの再挑戦

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 彼が疑ったのは、OP社と繋がりのある者がアカシの地位を脅かすためにインデストの市街から少し離れたところに潜伏しているのではないか、ということであった。
 OP社は社長であるエイチ・ハドリを失い、現在はハドリの腹心であったノブヤ・ヤマガタが社長の座を継いでいる。
 だが、ヤマガタとハドリの統率力や経営能力の差は歴然としており、その名を恐れながらもハドリを慕う者も少なくない。
 当のハドリは、彼の暗殺を企んだヌマタですら理不尽だと思うような状況で死に追いやられている。ハドリを慕う者が容易にこの状況を受け入れられないことは、ヌマタですら理解できる。
 そして、その怒りの矛先が当時ハドリ率いるOP社治安改革部隊と争っていた「OP社グループ労働者組合」と「タブーなきエンジニア集団」の連合軍に向くことはヌマタにとって許容できないが、多少は理解できるのだ。
 実際にハドリを手にかけたのは彼らではない可能性が高いのだが、ヌマタにすら確証はなかった。

 ヌマタがハドリ暗殺のため仕掛けた爆発物によって、ハドリは致命傷を負い、結果としてその身を荒ぶる海中へ投じる結果となった。
 爆発物に点火した者、それが未だに判明していない。
 ヌマタも彼なりに情報収集を行っていたが、その犯人が判明したという情報は入っていない。
 それどころか爆発物を仕掛けたのがヌマタであるということすら、未だに判明していないようにヌマタには思われた。
 事実その通りであったのだが、その程度の調査能力しかない相手であれば、短絡的に敵対していたウォーリーやアカシに敵意を向けることは十分に考えられた。
 今は亡きウォーリーはまだしも、自らのミスでアカシにまで害が及ぶということを看過できるほど、ヌマタは自らの行為を軽んじてはいなかった。
 件の事件について調査が進んでいないのにはいくつか理由がある。
 ヌマタ自身意識していなかったが、事件の原因や状況を調査するという責任をもつ者がそもそも存在していないことの影響は大きい。
 ここサブマリン島に都市横断的な警察などの組織は存在しない。
 OP社治安改革部隊が一時的にその任を負っていたが、ハドリが行方不明になった後、OP社自身の手によって治安改革部隊は解散している。
 また、この手の調査には人手や資金が必要だ。
 これらを投じてまで調査を行うというモチベーションや能力を持つ集団は、少なくとも今のサブマリン島には存在しなかった。
 また、調査したところで得られるものがあるとも考えられない。
 この点に関しては事件の仕掛けを作ったヌマタですら、そう考えているくらいだ。
 得るものがないところを私財を投じて調べ上げるというは存在しなかったのだ。

 (あのときのヘマで俺はトワさんやアカシさんの足を引っ張ったのか……所詮はその程度か……)
 ヌマタは自嘲気味に笑みを浮かべた。
 彼の弟はハドリによって殺害された、
 二年前の春、ハドリに反旗を翻し、逆にハドリによって討たれた集団があった。
 その一人がヌマタの弟であるハヤト・ヌマタであった。

 当初、ヌマタがハドリを殺害しようとしたのは、弟の復讐を果たすためであった。
 それにウォーリーや彼と共にハドリに立ち向かうアカシへの助力という目的が加わったのだが、決して弟の復讐という目的を忘れたわけではなかった。だが、これは正しいとは言い難い。
 ヌマタ自身気付いていなかったが、弟の復讐という目的すら、とってつけたものに過ぎない。
 ハドリが害悪だから自らの手で屠る、というのが実情だろう。
 あの日、ハドリが荒ぶる海中に身を投じた日、ヌマタの脳裏にはわずかながらの達成感があった。自らの手によってではなかったにしろ、敵のハドリを討ったことには違いなかったからだ。
 しかし、その直後、達成感をはるかに凌駕する怒りがこみ上げてきた。
 自らの手によらない結果に対する、自身への怒りである。
「ハヤトの復讐は果たし損ねたが……
 だが、アカシさんに手を出す奴がいるというのなら……俺が絶対に許さん!」
 ヌマタは強引に「ピーター・ウェル農場」の調査の目的をそう結論付けた。
 勿論、ヌマタにしても今回の荷物の届け先がアカシに敵対するという確証を持っているわけではない。
 だからこそ、彼らが何者だか確かめる必要がある。
 アカシに仇なす者であれば……
 今度こそはヘマをしない
 「ヘマをしないこと」それはすなわち、ヌマタが今度こそテロリストとなることを意味している、少なくともヌマタ自身はそう考えていた。
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