ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

504:行方不明者の影

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 IMPUと対立している者達の目的については、鉄鉱石の採掘に関する権利を奪うことや、経営側による組合活動潰しなとが思い浮かんだ。
 前者ならば、問題になるのは採掘した鉄鉱石の販売である。
 考えられる販売先はOP社、ECN社、IMPUであるが、これらすべてに問題がある。
 OP社は鉄鉱石の買い取り停止を表明しており、杓子定規的なところのあるヤマガタがトップである限り、この方針は揺るがない可能性が高い。
 ECN社に対してはIMPUのトップがアカシであるという理由が大きいように思われる。もちろん、IMPUからの鉄鉱石の供給が止まれば、ECN社の業務に支障は出るだろうが、それを理由にミヤハラやサクライなどが彼らに妥協するとも考えにくい。
 IMPUも購入先として考えられるであろうが、彼らの多くはかつてのOP社のもと下請事業者であり、資金がそれほど潤沢ではないので取引先とはなり得ないだろう。
 後者であると考えた場合、IMPUに異議を唱えるグループのトップは、OP社の経営側に近い者であろうと考えられる。
 それならば彼らのトップはオオバではなく誰か別の者であろう。オオバはベテランではあるものの一分析担当者であり、管理職ですらない。

 レイカが得た情報のひとつに、オオバはOP社インデスト支店の支店長代理であるオソダと親しい、というものがあった。
 オソダは現在市民からの攻撃の的となっているOP社のインデストにおける発電事業の責任者である。
 最近も地熱発電所の火災という不祥事を起こしており、市民からの風当たりは一層強いものになっているであろう。その立場であれば、市民の攻撃の目を逸らしたいという気持ちはわからないでもない。
 インデストからは、この火災がIMPUで仕組まれたものだという噂話がある、という情報も得ている。
 オソダ自らがこの噂話をもとにIMPUを糾弾したならば、露骨な責任転嫁として、かえって市民の怒りを買うであろう。
 しかし、もし、この話をIMPUに近い立場の者が噂話ではなく内部告発のような形で広めたとしたら……市民はIMPUではなく、彼らの敵対者のほうを支持するかもしれない。

 オオバは採掘された鉄鉱石の分析担当であり、採掘者と比較的接触の多い立場ではあるから、内部告発者としては適任であるといえる。
 ただ、現時点ではこのような内部告発が行われた形跡はなく、レイカの仮説は想像の域を出ない。

 (まさか……そんなことが……)
 ここでレイカの脳裏にひとつの恐ろしい考えが浮かぶ。
 想像というより妄想の域に入るかもしれないが、IMPUと対立するであろうもっとも有力な存在を思い出したのである。
 その存在は約八ヶ月前から行方不明となっており、それ以降の消息を知っている者はレイカの知る限りない。
 その存在とは、OP社前社長エイチ・ハドリである。
 ハドリは八ヶ月前にインデスト近郊での爆発事件で行方不明となっており、その後の情報は一切得られていない。
 そして、爆発事件をきっかけにOP社は労働者組合及び「タブーなきエンジニア集団」と和解せざるを得なくなった。
 その後OP社は、その勢いを殺がれ、現在では電力供給不足を理由とした市民からの糾弾に汲々としている有様だ。
 ハドリの性格を考えれば、この状況を看過するとは考えられず、必ずIMPUや「タブーなきエンジニア集団」に報復するであろう。
 ハドリならその機会を狙いオオバを泳がせる、といった行動をとりかねない、とレイカは思う。

 さらに厄介なのは、ECN社の前社長であるオイゲン・イナも同時に行方不明となっている点である。
 こちらもハドリ同様、行方不明になってからの消息に関する情報が得られていない。
 二人が行方不明になった爆発事件については、不審な点が少なくない。
 爆発の規模と比較して人的被害が少なすぎる。
 死者はなく、二人以外に行方不明者もなかった。
 負傷した者はいたものの、重傷者は少なく、先日最後の負傷者が職務に復帰したとニュースになったばかりであった。
 行方不明になったのがサブマリン島を代表する二大企業のトップのみであった、という事態は偶然と片付けるにはあまりに不自然である。
 こうした疑いを持ったのは、レイカ一人ではなかった。
 何人ものジャーナリストが疑いを持ち、実際に現地に調査に向かった者もあったが、この二人の消息に関する情報は一切得られなかった。
 事件から八ヶ月が経過し、事件に対する人々の興味は薄れつつあったが、未だ二人が生存しており、どこかに隠れているのではないか? という疑いを持つ者もおり、レイカもその一人であったのだ。

 事件当時近くにいてハドリを目撃したジン・ヌマタの話を聞くことができれば、レイカやジャーナリストたちが頭を悩ませることはなかったであろう。
 だが、ヌマタは息を潜めて世間から身を隠している。

(ハドリ社長が遺体で見つかった、という情報がない以上、最悪の事態を想定して動いたほうが良いわね……)
 レイカは決して悲観主義者ではなかったが、慎重ではある。
 その慎重さが彼女の名声の支えとなっていることは否定できない。
 そして、この性質が彼女の今回の行動について警告を発したのである。
 過去に彼女自身を何度も救ってきた警告に彼女が従わない理由はない。
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