ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

511:ヌマタ、届け先を疑う

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 「ピーター・ウェル農場」が何を企んでいるか?
 ヌマタの脳裏に浮かんだ考えは二つであった。想像に過ぎないことはヌマタ自身承知している。論理が飛躍しすぎているからだ。
 浮かんだ二つの考えはどちらも彼にとって望ましくないものであった。
 醸造所や蒸留所、診療所というキーワードから、化学実験を連想するに至ったのである。
 そこから彼が導いた二つの解は、次のようなものであった。

 一つ目は要人を暗殺するための細菌や毒物などの研究。
 二つ目は麻薬の製造である。
 得られた情報からこれらの解を導き出すには、妄想ともいえる作業が必要であっただろう。
 しかし、そのことをヌマタは意に介さなかった。
 OP社の社員時代、そのような集団がハドリによって、いくつも摘発されたことを知っていたためだ。
 ハドリは、酒や薬物に溺れる者を徹底して嫌っており、生前、OP社でこうした者の取り締まりを行っていた。
 それと同時に麻薬の製造者を徹底して調べあげ、これらを摘発し、自らの手で処分していた。
 副産物として要人暗殺用の細菌や毒物を研究している施設を発見したということを聞いたことがあった。
 そして、そのいくつかは、表向き発酵食品の研究施設であったり、酒類の製造者であったことを思い出したのだ。
 要人の暗殺、という線を考えるのであれば、このあたりでもっとも有力なターゲットはアカシであろう。
 インデスト在住の重要人物は他に思いつかない。
 あえて言えば、OP社のトップ、すなわち支店長代理のオソダであろうが、発電事業が壊滅的な打撃を受けている中、そのトップを殺めたところで、大した影響があるとも考えられない。

 アカシを殺害することで、メリットを受ける者がどのような者であるか、ヌマタには見当がつかなかったが、アカシを快く思わないであろう集団があることは容易に想像できた。
 ただ、彼らにアカシを暗殺するまでの意思があるかどうかは、ヌマタにはわからない。
 IMPUのトップの首を挿げ替えたところで、所属企業の従業員や市民の支持が得られるとは考えられなかったからだ。
 
 一方、麻薬の製造、という線はそれより想像が楽であった。
 少なくとも、中身のない容器がポータル・シティから、ピーター・ウェル農場に向けて運ばれている。
 その逆の経路で中身が空、ということはあり得ないであろうから、ピーター・ウェル農場からポータル・シティに向けて実際に何かが運ばれているのだ。
 しかし、ヌマタに容器の中身を確認する手立てはなかった。
 (考えれば考えるほど疑わしい奴らだ。とにかく、明日、現地に行ってみて確かめてやる)
 ヌマタ自身、何故自分が「ピーター・ウェル農場」を調査するのか、その理由は理解していない。
 あえて言えばそこに自らの存在の意義を見出したといったところだろうか。
 自身にもよくわからない理由で、彼は明日からの行動を決めたのだった。

 ヌマタが起きあがって電灯を消した。
 そして、再び身体を横たえる。
 明日に備えるために。
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