ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

513:IMPUと「勉強会」グループとの溝

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 ルマリィは最近、IMPUと彼らに反対するグループ、通称「勉強会」との話し合いの場に参加することが多くなっている。
 「勉強会」グループはIMPUがECN社と結んだ契約内容に不満を持った鉄鉱石採掘場の作業者が中心となって設立されている。彼らはIMPUがECN社と結んだ契約内容を不当として、作業をボイコットするようになった。

 アカシをはじめとするIMPU上層部は作業者に作業への復帰を促すため、「勉強会」グループと話し合いの場を持つことにした。
 ルマリィは物流関係者、特にインデスト以外に本拠地を持つそれらに通じていることから、外部の物流関係者の視点で意見を述べることを求められて交渉に参加している。
 産出された鉄鉱石や加工品が他の都市に運ばれてはじめて、インデストに金が入るから、物流関係者の視点も必要だとアカシは考えたのだった。

 しかし、アカシや他の幹部、そしてルマリィなどの必死の説得にも関わらず、「勉強会」グループの者は作業に戻ろうとはしなかった。
 彼らの主張は「ECN社との現在の契約の破棄」「地熱発電所の火災について、IMPUに原因があることを認め、関係者およびIMPU幹部の処分を実施すること」の二点である。
 そして、それらがなされない限り、一切の要求を受け入れるつもりはない、としている。
 どちらもアカシにとっては受け入れがたい条件である。
 ECN社との取引契約を破棄した場合、IMPUが産出した鉄鉱石やその加工品の販売先を確保するのは困難である。
 後者に至っては言いがかりに等しい。
 現時点で昨年末に発生した地熱発電所の火災の原因は判明しておらず、かつ火災にIMPUの者が関与したという証拠は何一つ見つかっていないのである。
 問題なのは、後者はともかく前者についてはIMPUの幹部側も理事の一人、ナナミ・サカデがECN社との契約と不当と考えており、この件に関しては「勉強会」グループ寄りの姿勢を見せていることである。

 また、アカシが彼らの条件を受け入れられないのは、これら以外の感情的な理由もある。
 アカシがかつて勤務していた会社の元社長を語り、ECN社とアカシに抗議文を送った者がいる。
 後日、「勉強会」が文を送ったと名乗り出たのであるが、その際に元社長の承認のもとに名前を使ったと主張したのである。
 この元社長は認知症が進んでおり、物事を適切に判断できる状態ではなかった。
 そのような状態の者を利用して抗議するという「勉強会」の姿勢が気に入らないのである。

「それにしても、『勉強会』の人たちは、どうしてそれほどまでに頑ななのか……」
 アカシがルマリィとシトリに「勉強会」グループとの話し合いへの参加を求めた際、このようにぼやいた。気が緩んだのかもしれない。
 地熱発電所の火災について、「勉強会」がアカシに対して不信感を持っているのはルマリィにも理解できる。
 アカシがこの火災について限りなく当事者に近いポジションにあることを聞いていたし、他の幹部でこの火災に直接関わっている者がいないと聞かされているためだ。
 だが、「勉強会」がIMPUの幹部の処断を求めている理由がルマリィには理解できない。少なくとも彼らが事件を引き起こしたという証拠はまだ出ていないからだ。

「やはり、関係会社の方が中心となっていますから……」
 アカシのぼやきを聞いたシトリがぽつりとつぶやいた。ルマリィが不思議そうな顔をしていたので、敢えてつぶやきの形で伝えたのだ。
 それを聞いたルマリィが理由を問うと、シトリは噛んで含めるように説明した。
 IMPUは、その名が示す通りインデストにおける鉄鋼関連事業者の集合体である。
 IMPU設立前のインデストにおける鉄鋼事業の最有力企業はOP社であった。
 しかし、IMPU設立時にOP社はIMPUへの加入を避けた。
 従業員が徒党を組んで活動することを禁じていたOP社の立場では、関連会社が中心となっていたとはいえ、従業員の組合活動から発足した(とOP社は考えている)IMPUを許容することができなかったためだ。
 そのため現在でもOP社は、他者に出向した者を除いて原則社員のIMPUとの接触を認めていない。
 かろうじて鉄鋼関連事業に従事していた社員を専門家としてIMPUに派遣することは認めているが、あくまでも「外部アドバイザー」としての立場である。
 また、OP社が鉄鋼関連事業から撤退した際に、鉄鋼関連事業部門の多くが関連会社等に売却された。
 それらの部門に所属していた元OP社従業員の大部分は現在IMPUに加入しているが、必ずしもIMPUを評価しているわけではなかった。
 むしろ、口にこそ出しはしないものの、関連会社風情がOP社本体を差し置いて何するものぞ、という空気の方が強く感じられた。
 本来であれば、IMPUがOP社へ頭を下げに来て参加を求めるとともに、OP社に指導を求めるべきである、くらいに考えられていた。

 しかし、実態は関連会社の、それもOP社やそのグループで禁じられている労働組合立ち上げの首謀者がトップに居座ったままであった。
 更に、ECN社についても公式にはグループ会社とはいえ、半ば子会社のような立場であったし、現在のトップが組合と手を組んでOP社に反抗した集団の残党である。
 それがOP社に所属していたことのある者にとっては気に入らないのだ、というのがシトリの見解である。
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