ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

514:タレント経営者候補と冷静な補佐役

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 シトリは以前、ポータル・シティの企業に勤務していたことがあり、OP社との取引の経験があるという。
 業務で接したOP社の社員はハドリの目の届くところではおとなしいが、そうでないところでは、他者を見下すような態度をとる者が少なくなかったとルマリィに伝えた。
 その最後にシトリはこう付け加えた。
 少なくともハドリが健在であれば、こうした差別的対応を許すことはなかったであろう。
 何故なら、ハドリは自分以外の者が他者を見下す態度をとることを異常なまでに嫌っていたからだ。
 それを証明するエピソードとして、立場を利用してハドリに無断で取引先に法外な契約を押しつけた社員に対しては、本人を呼びつけ、問答無用で馬乗りになり、顔の形が変わるまで銃の台座で殴り続けたという話を聞いたことがある、というのだ。
 そのような意味では、ハドリが行方不明となった今、IMPUがOP社の関係者相手に手こずっているのは皮肉な状態ですね、とも付け加えた。

 さすがインデストの外で仕事をしていた人は違う、とルマリィは思う。
 ルマリィ自身も生まれはポータル・シティなのであるが、八歳のときにインデストへ一家で引越しており、その後インデストを出たことがない。
 また、実家がインデスト郊外で魚介類の養殖場を営んでいることもあり、鉄鉱石採掘場との関係も薄いことから、ルマリィはこうした企業組織に属する人の心理にやや疎いところがある。
 このため、こうした組織人心理に関することについては、経験豊富なシトリに相談することが多い。
 本来であれば、「勉強会」との交渉の場にもシトリに出てもらいたかったのだ。
 しかし、交渉の場に出ている他のIMPUの関係者が企業のトップクラスであったことから、他の者に代理を頼むのはIMPUに対して失礼にあたるとして、ルマリィが自ら出席せざるを得なくなったのだ。
 ただし交渉の状況についてはシトリと素早く情報共有し、二人で対応策を考えることにした。この方が効果的だと考えたからだ。
 幸い、シトリの方も気分よく相談に乗ってくれるので、ルマリィとしては助かっている。
 このままお互いの意見が平行線ではインデストそのものが行き詰ってしまう、という見解はルマリィとシトリの間で一致している。
 電力が十分供給されればインデストは十分にやっていけるのだが、こうも電力供給に不安があると市民生活への影響が大きすぎる。
 アカシは十分な電力を確保するため、IMPUの現場作業者をOP社の発電事業支援として派遣する考えを持っているが、「勉強会」はこれに抵抗している。
 現在、インデストで発電事業を行っているのはOP社のみだが、現在は質量ともに人員を欠いており、十分な量の電力を供給できていない。
 電力供給が不十分で、かつ、作業者のサボタージュが発生している状態では、IMPUの鉄鉱石採掘も思うように進められない。その証拠に現在IMPUの鉄鉱石採掘量は平常時の三割に満たない。
 作業者の稼働率も五割を切っており、十分な稼働を確保できていない。
 作業者が仕事を得る点、そして電力供給不足の解消に少しでも寄与できる点から考えれば、アカシの考えは理にかなっているといえる。
 あえて言えば、発電関係の業務は熟練を要する作業が少なくないため、素人の鉄鉱石採掘作業員が行ったところで、どこまで役に立つかが未知数な点が問題となる。この点に「勉強会」グループは注目している。

 また、発電の作業は相応の危険を伴う、という点を「勉強会」グループは問題視している。
 ここサブマリン島で最もポピュラーな海流を利用した発電については、海の流れの速いところに近い場所での作業があり、数年に一度は海流に流されて溺死したり、行方不明になる者が出ているのも事実である。
 こうした危険はあるが、この発電方式に関する知見や経験は多く揃っており、専門家の数も少なくない。そのため、近年は業務量に対しての事故の発生率は低いとされている。
 一方、地熱発電については、サブマリン島でも比較的マイナーな発電方式であるため、OP社にも専門家は少ない。
 こちらであれば、専門的知識のないIMPUの作業者でもOP社の多くの作業者とレベルに大差ないため支援の余地は広い。
 だが、専門家が少ない分、事故の確率は海流を利用した発電と比較してもかなり大きくなると思われる。

「一体、どうすれば『勉強会』の方々は納得してくれるのでしょうか……?」
 ルマリィがつぶやくと、即座にシトリが返答した。
「『勉強会』をIMPUのトップに立てて、ECN社がその傘下に入りでもすれば、喜んで条件を受け入れると思いますけど……」
 さすがにそれはアカシ代表にとって受け入れられない条件であるし、またECN社も納得しないでしょうね、とシトリは苦笑いしてみせた。
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