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第十二章
523:「東部探索隊」の成果
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「先輩方、揺れはどうですか?」
「うむ、苦しゅうない」
オオイダは上機嫌だ。その様子は遊園地のアトラクションを楽しんでいるかのようだ。
「オオイダ! あんた、遊びに来ているんじゃないんだからね! 静かにしなさい!」
オオイダの脇からカネサキの怒鳴り声が聞こえてきた、探索中のいつもの光景であった。
仕事に厳しいカネサキと、チャランポランなところのあるオオイダがかみ合わないのはよくあることだ。
二人のやり取りを聞いた限りでは、少なくとも二人とも精神的に参っていない、とロビーは判断した。
これなら二人の負傷さえ完治すれば、第二次隊への参加は問題ないだろう。
ロビーにはセスを連れていくという個人的な理由のほかに、ECN社の都合からも第二次隊の派遣を急ぐ必要があった。
現在「東部探索隊」事業で得られている成果は、島北部の太陽光発電所として有望な地域「モトイ」の発見と、島東部に一ヶ所、居住可能地域を発見したことの二点である。
決して小さな成果ではないが、これだけではECN社の事業に与えるインパクトはそれほど大きくない。
少なくとも「東部探索隊」事業に求められる成果はこのレベルでは不十分であった。
今のままでは事業をスタートさせると決めたミヤハラ、サクライ、エリックなどの社内における立場が厳しいものになると思われる。
ECN社、特に財務を預かる副社長のアツシ・サクライが望んだのは「鉱物もしくはそれに類する資源の供給地となり得る土地」「数万人規模以上の人口を保持できる都市となり得る土地」の二つであった。
前者の確保は資源不足の中、通信機器及びコンピュータ、家電製品などを製造するECN社にとっては死活問題である。
一方、後者についてだが、ECN社には都市インフラの整備者という側面もある。
もともとECN社は、地球に存在しているシステム監視やコールセンター事業を営む企業であった。
その機能の一部が宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」に移されたが、「ルナ・ヘヴンス」はその軌道を外れ、果てることない暗い世界で遭難した。
そして、ここ惑星エクザロームのサブマリン島に不時着したとき、「ルナ・ヘヴンス」に居住していた人々の多くがECN社の所属であった。
彼らが住処となる土地を決めた後、最初に行ったことはECN社の再建であった。
いや、再建というより「エクザロームのECN社」の設立といった方が、より適切かもしれない。
住処が決まり、拠り所となる集団が決まった次に彼らが行ったこと、それは彼らがより快適に過ごすための環境づくりであった。
その一環として都市インフラの整備があり、現在でも規模は大きくないものの一八あるタスクユニットの一つがこの事業を担当している。
都市横断的な統治機構を持たないエクザロームにおいて、道路や送電線、上下水道、通信網などが整備されてきたのはこのためであった。
発電事業すべてと送電事業の大半をOP社に移管したものの、他にも 農業を行うタスクユニットを有していたりするのは、こうした経緯をもつ企業だからだ。
現在、電力供給不足が大きな問題となっているため、あまり目立っていないが、サブマリン島では人の居住可能な土地の不足も問題になりつつある。
湿地や砂地の多いサブマリン島西部では、居住に適した土地が少ない。
人々の多くは居住に適した土地に固まって住んでおり、都市部の人口密度は非常に高い。
ECN社のあるハモネスは比較的ましではあるが、ポータル・シティやインデストなどはそれほど広くない場所に人々が固まって住んでいる関係で、十分な広さの道すら確保できない区域が少なくない。
今のところ事例はないが、大規模な地震や火災が発生した場合、相当な被害が出る可能性があるという専門家の指摘もある。
水平方向がだめなら縦に居住空間を伸ばす手もあるのだが、高層建築に耐えうるほどの強固な地盤を持つ場所は更に限られており、十分な解決策とはなり得そうもない。
現在、島内で最も高い建造物はポータル・シティにあるOP社本社ビルであるが、これも二〇階に届かない高さでしかない。
主要都市であるポータル・シティ、インデスト、ハモネスを合わせても六階建て以上の建造物は数十といったレベルで、一般的な建造物はほとんど三階建て以下となっている。
住宅不足に対する苦肉の策として、現在は農地の一部を居住地に転換しているが、これにも限界がある。
もとECN社経営企画室副長のトニー・シヴァが率いる「リスク管理研究所」などは、このペースで居住地への転換を続ければ、早ければ一〇年後に農産物の供給量が需要量を下回るという試算を出しているくらいである。
都市インフラ事業を営むタスクユニットのトップ、サカエ・ヤトミ取締役や農業を営むタスクユニットのトップ、ダイゴ・ノギ上級チームマネージャーなどは最近になってこの問題に関心を寄せるようになった。
ヤトミなどは島北部に発見されたモトイの開発に乗り出すため、先日部下を出発させた。
居住地や農地の確保は、それほどの重要な課題なのだ。
「うむ、苦しゅうない」
オオイダは上機嫌だ。その様子は遊園地のアトラクションを楽しんでいるかのようだ。
「オオイダ! あんた、遊びに来ているんじゃないんだからね! 静かにしなさい!」
オオイダの脇からカネサキの怒鳴り声が聞こえてきた、探索中のいつもの光景であった。
仕事に厳しいカネサキと、チャランポランなところのあるオオイダがかみ合わないのはよくあることだ。
二人のやり取りを聞いた限りでは、少なくとも二人とも精神的に参っていない、とロビーは判断した。
これなら二人の負傷さえ完治すれば、第二次隊への参加は問題ないだろう。
ロビーにはセスを連れていくという個人的な理由のほかに、ECN社の都合からも第二次隊の派遣を急ぐ必要があった。
現在「東部探索隊」事業で得られている成果は、島北部の太陽光発電所として有望な地域「モトイ」の発見と、島東部に一ヶ所、居住可能地域を発見したことの二点である。
決して小さな成果ではないが、これだけではECN社の事業に与えるインパクトはそれほど大きくない。
少なくとも「東部探索隊」事業に求められる成果はこのレベルでは不十分であった。
今のままでは事業をスタートさせると決めたミヤハラ、サクライ、エリックなどの社内における立場が厳しいものになると思われる。
ECN社、特に財務を預かる副社長のアツシ・サクライが望んだのは「鉱物もしくはそれに類する資源の供給地となり得る土地」「数万人規模以上の人口を保持できる都市となり得る土地」の二つであった。
前者の確保は資源不足の中、通信機器及びコンピュータ、家電製品などを製造するECN社にとっては死活問題である。
一方、後者についてだが、ECN社には都市インフラの整備者という側面もある。
もともとECN社は、地球に存在しているシステム監視やコールセンター事業を営む企業であった。
その機能の一部が宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」に移されたが、「ルナ・ヘヴンス」はその軌道を外れ、果てることない暗い世界で遭難した。
そして、ここ惑星エクザロームのサブマリン島に不時着したとき、「ルナ・ヘヴンス」に居住していた人々の多くがECN社の所属であった。
彼らが住処となる土地を決めた後、最初に行ったことはECN社の再建であった。
いや、再建というより「エクザロームのECN社」の設立といった方が、より適切かもしれない。
住処が決まり、拠り所となる集団が決まった次に彼らが行ったこと、それは彼らがより快適に過ごすための環境づくりであった。
その一環として都市インフラの整備があり、現在でも規模は大きくないものの一八あるタスクユニットの一つがこの事業を担当している。
都市横断的な統治機構を持たないエクザロームにおいて、道路や送電線、上下水道、通信網などが整備されてきたのはこのためであった。
発電事業すべてと送電事業の大半をOP社に移管したものの、他にも 農業を行うタスクユニットを有していたりするのは、こうした経緯をもつ企業だからだ。
現在、電力供給不足が大きな問題となっているため、あまり目立っていないが、サブマリン島では人の居住可能な土地の不足も問題になりつつある。
湿地や砂地の多いサブマリン島西部では、居住に適した土地が少ない。
人々の多くは居住に適した土地に固まって住んでおり、都市部の人口密度は非常に高い。
ECN社のあるハモネスは比較的ましではあるが、ポータル・シティやインデストなどはそれほど広くない場所に人々が固まって住んでいる関係で、十分な広さの道すら確保できない区域が少なくない。
今のところ事例はないが、大規模な地震や火災が発生した場合、相当な被害が出る可能性があるという専門家の指摘もある。
水平方向がだめなら縦に居住空間を伸ばす手もあるのだが、高層建築に耐えうるほどの強固な地盤を持つ場所は更に限られており、十分な解決策とはなり得そうもない。
現在、島内で最も高い建造物はポータル・シティにあるOP社本社ビルであるが、これも二〇階に届かない高さでしかない。
主要都市であるポータル・シティ、インデスト、ハモネスを合わせても六階建て以上の建造物は数十といったレベルで、一般的な建造物はほとんど三階建て以下となっている。
住宅不足に対する苦肉の策として、現在は農地の一部を居住地に転換しているが、これにも限界がある。
もとECN社経営企画室副長のトニー・シヴァが率いる「リスク管理研究所」などは、このペースで居住地への転換を続ければ、早ければ一〇年後に農産物の供給量が需要量を下回るという試算を出しているくらいである。
都市インフラ事業を営むタスクユニットのトップ、サカエ・ヤトミ取締役や農業を営むタスクユニットのトップ、ダイゴ・ノギ上級チームマネージャーなどは最近になってこの問題に関心を寄せるようになった。
ヤトミなどは島北部に発見されたモトイの開発に乗り出すため、先日部下を出発させた。
居住地や農地の確保は、それほどの重要な課題なのだ。
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