ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十二章

531:エリック、シシガの疑問に答える

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「……前の社長、ってイナ社長のことかい?」
 エリックが恐る恐る問い返した。
「その通り。前から興味のある人なのですよ」
 シシガは表情や口調を変えることなく答えた。

 シシガの返答にエリックは困惑した。
 ECN社で把握している情報で今のところ二人に話して問題になるようなものはない。
 また、仮に二人に話したところで、彼らが他者にそれを伝えるとも思えない。
 ただ、一点引っ掛かるとするならば、オイゲンについては「元」がつくものの、エリックの上司である。
 ここでの話が問題になるとは思えないが、エリックにとってはやや話しにくい事柄である。
「……ハドリ氏と一緒で、行方不明、ということは報じられていたよね。こちらもIMPUが捜索しているけど、やっぱり情報らしい情報は見つかっていないんだ」
「答えにくい質問かもしれないけれど、エリックだから聞きますよ」
「何だい?」
 周辺の空気が一気に重苦しいものへと変わる。
 しかし、シシガの口調は変わらず静かなものだ。
「今の社長はイナ社長が見つかるのを本当に望んでいるのでしょうか?」
 質問を聞いて、エリックは安堵のため息をついた。
 この質問はエリックにとって比較的答えやすい。
「望んでいると思うよ。シシガはミヤハラ社長のことをよく知らないと思うからそう考えるかもしれないのだけど、イナ社長のことは必死に探させているよ」
 エリックが言い切った。この質問であれば間違いなくそうだと確信しているからだ。
「えっ?! そうなの?」
 声をあげたのはウィリマの方だ。
「詳しくは知らないけど、あの二人は職業学校の同級生で仲が良いし、ミヤハラ社長の面倒くさがりは筋金入りだからね。イナ社長を見つけて、自分の仕事を押し付けようとしているよ。僕あたりにもそう言ってくるしね」
 エリックの言葉に首を傾げたのはシシガだ。
「エリックの言葉だから嘘はないと思いますが、社で初めて外部から迎えられた社長だというのが気になりますね」
「どういうこと?」
「TM、じゃなかった、ミヤハラ社長が、かい?」
 ウィリマとエリックがほぼ同時に声をあげた。
 エリックなどは驚いて、ミヤハラの昔の役職を口にしてしまったほどだ。
 エリックにとって気分の良い話ではないかもしれないけれど、と前置きしてからシシガがエリックにいくつか質問を投げかけた。

 最初の質問は、ECN社内で親オイゲンかつ反ミヤハラの有力な従業員が存在するか、というものであった。
「……表だってそういう姿勢を取っている従業員はいないと思う。イナ社長は人の好い感じだし、ミヤハラ社長も鷹揚な人だからね」
 エリックとてECN社のすべての社員を把握しているわけではないから確実なことは言えないが、彼の知る限り心当たりはない。
「何もしない」「動かない」という評判はあるものの、ミヤハラに反発するというレベルに達しているような者はエリックの知る限り社内には見当たらない。
「ならば質問を変えるよ。社内外でイナ社長と親しい人は誰だい?」
 エリックは自分が知る限りの人物の名を答えた。
 職業学校時代の同級生で、ECN社入社後も付き合いのあるミヤハラ。
 ECN社経営企画室時代からの付き合いのある元社長秘書のメイ。
 総務系の役員でオイゲンに抜擢されたトミシマ。
 社長室でアルバイトとして一緒に作業をしていたことのあるロビー、モリタ、カネサキ、オオイダ、コナカの五名。
 バイヤーと顧客との関係であったレイカ。
「あと、故人ならうちのトワマネージャーとさっき名前を出したロビー・タカミ君やタカシ・モリタ君の職業学校時代の同級生セス・クルス君という元アルバイトくらいかな。彼は故人だけど」
 更にシシガはエリックの挙げた人物の中でミヤハラと折り合いの悪い者はいないか、と問うたが、エリックには心当たりがない。
 生きている人物はすべてECN社の関係者ばかりで、ミヤハラやエリックと比較的親しい人物ばかりである。
 唯一の例外はメイだが、彼女の場合、オイゲン以外とまともに話ができない。
 そのメイですら、「東部探索隊」の一員としてECN社の指揮のもとに動いているくらいだ。
「う~む、その元秘書という人の存在は気になるけど、決定的な人はいないようですね……では」
「ちょっと待って、何を気にしているの?」
 次の質問に入ろうとしたシシガをウィリマが制した。
 シシガの回答は次のようなものであった。
「仲が良いとは言っても、権力や財産がかかると人は変わるものですからね。ミヤハラ社長が何を求めてイナ社長を必死に捜索しているのかを知りたいのです」
「だったら、イナ社長を見つけて社長に戻した後で、後ろから操って傀儡にしてしまえばいいじゃない。イナ社長はお人好しそうだというのなら、それが楽じゃなくって?」
 オイゲンと何度となく接したことのあるエリックも、それは十分に考えられるねと苦笑するしかなかった。
「ECN社は今の社長こそ違うが、それまではトップがイナ家の世襲でした。ミヤハラ社長がイナ家に入り込む可能性もありです」
 シシガの指摘に、エリックはイナ家とミヤハラ家の家族構成を調べようと携帯端末を開いた。
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