ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
111 / 304
第十二章

532:ミヤハラの過去

しおりを挟む
 エリックの操作している携帯端末にイナ家の情報が表示された。

 イナ家はECN社の創業者だけに、ECN社のデータベースに豊富に情報がある。
 創業者のユウダイ・イナは生涯独身であった。
 ルナ・ヘヴンスがここエクザロームに不時着する前のLH一四年に四八歳で亡くなっている。
 ルナ・ヘヴンスに乗り込んでいたユウダイの親類は弟のカズト・イナだけであった。
 そのカズトが二代目の社長となる。
 カズトは妻イツキとの間に一人の男子を設けた。
 これが前社長のオイゲンである。
 イツキはオイゲンの幼少時に病気のため他界。
 カズトもオイゲンが社長に就任する直前に亡くなっているので、現在イナ家の血を受け継ぐ者はオイゲンのみである。
 そのオイゲンも生死不明で、現在イナ家はお家断絶の危機にあるといってもよい状態であった。

 一方、ミヤハラ家の情報はそれほど豊富ではない。
 ミヤハラが結婚していること、子供が男女一人ずついることは知っている。
 それ以上の情報がエリックにはないのだ。
 あえて言えば、ミヤハラの義父という人物を何度か見かけたことがあるくらいだ。
 しかし、実の両親の生死や兄弟の有無については全くわからない。
 オイゲンと異なり、ミヤハラは一般人カテゴリの人物だというのが主な理由だが、それだけではない。
 多くの者が知らないことではあるが、実はミヤハラは結婚とともに改姓している。それも妻の姓ではなく新たな姓にだ。
 これが、彼の過去の情報が知られていないもう一つの理由であった。

 エリックがイナ家やミヤハラの知る限りの情報を伝えると、シシガは次の質問を投げてきた。
 オイゲンとミヤハラの付き合いは職業学校に入ってからなのか、という内容だ。
 これについてはエリックもよく知らない。
「それについては聞いたこともないなぁ……
 待てよ、直接関係はないけどいいかな?」
「何かな?」
 シシガが言ってみてくださいよとエリックを促した。
「ミヤハラ社長は、イナ社長の肝煎りでトワマネージャーの部下になったんだ」
「それホントなの?!」
 先に反応したのはウィリマの方であった。
「どういうことだか聞かせてくれませんか?」
 遅れてシシガがエリックに詰め寄った。
「ああ……」
 エリックは二人の勢いに身じろぎしながらも、質問に答えはじめた。
 オイゲンの肝煎りでミヤハラがウォーリーの部下になった、という話はオイゲンからもミヤハラからも聞いたことがある。
 そう話すと、シシガが経緯を詳しく知りたいという。
 そこでエリックはミヤハラがウォーリーの部下になるまでの出来事について順を追って話すことにした。

「まず、社内に『タスクユニット制』という新しい仕組みが導入されたんだ。僕が入社した年の秋だったな……」
 オイゲンが提案し、当時の社長だったオイゲンの父カズトによって導入されたこの仕組みであるが、これは意志のある者がECN社の資源を用いて自由に事業を展開できるようにするためのものであった。
 そして、このタスクユニット制が敷かれたことにより、エリックとサクライはウォーリーの部下となった。
 しかし、この時点でウォーリーは一介のサブマネージャーに過ぎず、タスクユニットの中でも三番手的な地位でしかなかった。
 そのためウォーリーは、自身の右腕となる補佐役が欲しいと総務に掛け合った。
 すると、サブマネージャーに昇進したばかりのミヤハラが異動してきたのだった。
 その一年半後、ウォーリーはタスクユニットのトップに昇進する。
 ここまでがエリックの知る、ミヤハラがウォーリーの部下になるまでの経緯である。
 オイゲンやミヤハラの思惑まではわからないが、すべての出来事はエリックの手の届く範囲で起きており、事実であることは間違いない。

「じゃあ、ミヤハラ社長はエリックのところに異動してくる前、どこの部署にいたのさ?」
 ウィリマが身を乗り出してきた、エリックの話に興味を持ったようだ。
「その前は経営企画室だったな。当時はイナ社長も経営企画室の勤務だったはずだ」
 エリックの言葉を聞いたシシガは、携帯端末を叩いた。
「ちょっと待ってくださいよ。その当時のイナ社長の地位と、イナ社長が社長に就任した時期はわかりますか?」
 そう言った直後に壁に表が映し出される。
 エリックの言葉から、起こった出来事を時系列順に整理したいようだ。
 エリックは必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
「まず、イナ社長が社長になったのは、ミヤハラ社長がうちのタスクユニットに来た次の年だったはず」
 そう答えてからエリックが自身の携帯端末をチェックする。
 ECN社の歴史をたどれば、オイゲンの社長就任時期などあっという間に判明する。
 ここでエリックは自らの記憶が正しいことを知った。
「会社の情報だと、LH四七年の四月就任だね。ミヤハラ社長が異動してきたときのイナ社長の地位は……どうだったかな? ミヤハラ社長と同じ立場だったはずだから、昇進してサブマネージャーになったくらいじゃないかな?」
「それは間違いないかい?」
 言葉は丁寧だが、シシガの声の調子が強くなった。
「だね。トワマネージャーがサブマネージャーになるまでは、イナ社長とミヤハラ社長が社内で一番出世が早いといわれていたよ」
「そうなのか!」
「へぇ」
 シシガとウィリマが同時に声をあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...