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第十二章
532:ミヤハラの過去
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エリックの操作している携帯端末にイナ家の情報が表示された。
イナ家はECN社の創業者だけに、ECN社のデータベースに豊富に情報がある。
創業者のユウダイ・イナは生涯独身であった。
ルナ・ヘヴンスがここエクザロームに不時着する前のLH一四年に四八歳で亡くなっている。
ルナ・ヘヴンスに乗り込んでいたユウダイの親類は弟のカズト・イナだけであった。
そのカズトが二代目の社長となる。
カズトは妻イツキとの間に一人の男子を設けた。
これが前社長のオイゲンである。
イツキはオイゲンの幼少時に病気のため他界。
カズトもオイゲンが社長に就任する直前に亡くなっているので、現在イナ家の血を受け継ぐ者はオイゲンのみである。
そのオイゲンも生死不明で、現在イナ家はお家断絶の危機にあるといってもよい状態であった。
一方、ミヤハラ家の情報はそれほど豊富ではない。
ミヤハラが結婚していること、子供が男女一人ずついることは知っている。
それ以上の情報がエリックにはないのだ。
あえて言えば、ミヤハラの義父という人物を何度か見かけたことがあるくらいだ。
しかし、実の両親の生死や兄弟の有無については全くわからない。
オイゲンと異なり、ミヤハラは一般人カテゴリの人物だというのが主な理由だが、それだけではない。
多くの者が知らないことではあるが、実はミヤハラは結婚とともに改姓している。それも妻の姓ではなく新たな姓にだ。
これが、彼の過去の情報が知られていないもう一つの理由であった。
エリックがイナ家やミヤハラの知る限りの情報を伝えると、シシガは次の質問を投げてきた。
オイゲンとミヤハラの付き合いは職業学校に入ってからなのか、という内容だ。
これについてはエリックもよく知らない。
「それについては聞いたこともないなぁ……
待てよ、直接関係はないけどいいかな?」
「何かな?」
シシガが言ってみてくださいよとエリックを促した。
「ミヤハラ社長は、イナ社長の肝煎りでトワマネージャーの部下になったんだ」
「それホントなの?!」
先に反応したのはウィリマの方であった。
「どういうことだか聞かせてくれませんか?」
遅れてシシガがエリックに詰め寄った。
「ああ……」
エリックは二人の勢いに身じろぎしながらも、質問に答えはじめた。
オイゲンの肝煎りでミヤハラがウォーリーの部下になった、という話はオイゲンからもミヤハラからも聞いたことがある。
そう話すと、シシガが経緯を詳しく知りたいという。
そこでエリックはミヤハラがウォーリーの部下になるまでの出来事について順を追って話すことにした。
「まず、社内に『タスクユニット制』という新しい仕組みが導入されたんだ。僕が入社した年の秋だったな……」
オイゲンが提案し、当時の社長だったオイゲンの父カズトによって導入されたこの仕組みであるが、これは意志のある者がECN社の資源を用いて自由に事業を展開できるようにするためのものであった。
そして、このタスクユニット制が敷かれたことにより、エリックとサクライはウォーリーの部下となった。
しかし、この時点でウォーリーは一介のサブマネージャーに過ぎず、タスクユニットの中でも三番手的な地位でしかなかった。
そのためウォーリーは、自身の右腕となる補佐役が欲しいと総務に掛け合った。
すると、サブマネージャーに昇進したばかりのミヤハラが異動してきたのだった。
その一年半後、ウォーリーはタスクユニットのトップに昇進する。
ここまでがエリックの知る、ミヤハラがウォーリーの部下になるまでの経緯である。
オイゲンやミヤハラの思惑まではわからないが、すべての出来事はエリックの手の届く範囲で起きており、事実であることは間違いない。
「じゃあ、ミヤハラ社長はエリックのところに異動してくる前、どこの部署にいたのさ?」
ウィリマが身を乗り出してきた、エリックの話に興味を持ったようだ。
「その前は経営企画室だったな。当時はイナ社長も経営企画室の勤務だったはずだ」
エリックの言葉を聞いたシシガは、携帯端末を叩いた。
「ちょっと待ってくださいよ。その当時のイナ社長の地位と、イナ社長が社長に就任した時期はわかりますか?」
そう言った直後に壁に表が映し出される。
エリックの言葉から、起こった出来事を時系列順に整理したいようだ。
エリックは必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
「まず、イナ社長が社長になったのは、ミヤハラ社長がうちのタスクユニットに来た次の年だったはず」
そう答えてからエリックが自身の携帯端末をチェックする。
ECN社の歴史をたどれば、オイゲンの社長就任時期などあっという間に判明する。
ここでエリックは自らの記憶が正しいことを知った。
「会社の情報だと、LH四七年の四月就任だね。ミヤハラ社長が異動してきたときのイナ社長の地位は……どうだったかな? ミヤハラ社長と同じ立場だったはずだから、昇進してサブマネージャーになったくらいじゃないかな?」
「それは間違いないかい?」
言葉は丁寧だが、シシガの声の調子が強くなった。
「だね。トワマネージャーがサブマネージャーになるまでは、イナ社長とミヤハラ社長が社内で一番出世が早いといわれていたよ」
「そうなのか!」
「へぇ」
シシガとウィリマが同時に声をあげた。
イナ家はECN社の創業者だけに、ECN社のデータベースに豊富に情報がある。
創業者のユウダイ・イナは生涯独身であった。
ルナ・ヘヴンスがここエクザロームに不時着する前のLH一四年に四八歳で亡くなっている。
ルナ・ヘヴンスに乗り込んでいたユウダイの親類は弟のカズト・イナだけであった。
そのカズトが二代目の社長となる。
カズトは妻イツキとの間に一人の男子を設けた。
これが前社長のオイゲンである。
イツキはオイゲンの幼少時に病気のため他界。
カズトもオイゲンが社長に就任する直前に亡くなっているので、現在イナ家の血を受け継ぐ者はオイゲンのみである。
そのオイゲンも生死不明で、現在イナ家はお家断絶の危機にあるといってもよい状態であった。
一方、ミヤハラ家の情報はそれほど豊富ではない。
ミヤハラが結婚していること、子供が男女一人ずついることは知っている。
それ以上の情報がエリックにはないのだ。
あえて言えば、ミヤハラの義父という人物を何度か見かけたことがあるくらいだ。
しかし、実の両親の生死や兄弟の有無については全くわからない。
オイゲンと異なり、ミヤハラは一般人カテゴリの人物だというのが主な理由だが、それだけではない。
多くの者が知らないことではあるが、実はミヤハラは結婚とともに改姓している。それも妻の姓ではなく新たな姓にだ。
これが、彼の過去の情報が知られていないもう一つの理由であった。
エリックがイナ家やミヤハラの知る限りの情報を伝えると、シシガは次の質問を投げてきた。
オイゲンとミヤハラの付き合いは職業学校に入ってからなのか、という内容だ。
これについてはエリックもよく知らない。
「それについては聞いたこともないなぁ……
待てよ、直接関係はないけどいいかな?」
「何かな?」
シシガが言ってみてくださいよとエリックを促した。
「ミヤハラ社長は、イナ社長の肝煎りでトワマネージャーの部下になったんだ」
「それホントなの?!」
先に反応したのはウィリマの方であった。
「どういうことだか聞かせてくれませんか?」
遅れてシシガがエリックに詰め寄った。
「ああ……」
エリックは二人の勢いに身じろぎしながらも、質問に答えはじめた。
オイゲンの肝煎りでミヤハラがウォーリーの部下になった、という話はオイゲンからもミヤハラからも聞いたことがある。
そう話すと、シシガが経緯を詳しく知りたいという。
そこでエリックはミヤハラがウォーリーの部下になるまでの出来事について順を追って話すことにした。
「まず、社内に『タスクユニット制』という新しい仕組みが導入されたんだ。僕が入社した年の秋だったな……」
オイゲンが提案し、当時の社長だったオイゲンの父カズトによって導入されたこの仕組みであるが、これは意志のある者がECN社の資源を用いて自由に事業を展開できるようにするためのものであった。
そして、このタスクユニット制が敷かれたことにより、エリックとサクライはウォーリーの部下となった。
しかし、この時点でウォーリーは一介のサブマネージャーに過ぎず、タスクユニットの中でも三番手的な地位でしかなかった。
そのためウォーリーは、自身の右腕となる補佐役が欲しいと総務に掛け合った。
すると、サブマネージャーに昇進したばかりのミヤハラが異動してきたのだった。
その一年半後、ウォーリーはタスクユニットのトップに昇進する。
ここまでがエリックの知る、ミヤハラがウォーリーの部下になるまでの経緯である。
オイゲンやミヤハラの思惑まではわからないが、すべての出来事はエリックの手の届く範囲で起きており、事実であることは間違いない。
「じゃあ、ミヤハラ社長はエリックのところに異動してくる前、どこの部署にいたのさ?」
ウィリマが身を乗り出してきた、エリックの話に興味を持ったようだ。
「その前は経営企画室だったな。当時はイナ社長も経営企画室の勤務だったはずだ」
エリックの言葉を聞いたシシガは、携帯端末を叩いた。
「ちょっと待ってくださいよ。その当時のイナ社長の地位と、イナ社長が社長に就任した時期はわかりますか?」
そう言った直後に壁に表が映し出される。
エリックの言葉から、起こった出来事を時系列順に整理したいようだ。
エリックは必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
「まず、イナ社長が社長になったのは、ミヤハラ社長がうちのタスクユニットに来た次の年だったはず」
そう答えてからエリックが自身の携帯端末をチェックする。
ECN社の歴史をたどれば、オイゲンの社長就任時期などあっという間に判明する。
ここでエリックは自らの記憶が正しいことを知った。
「会社の情報だと、LH四七年の四月就任だね。ミヤハラ社長が異動してきたときのイナ社長の地位は……どうだったかな? ミヤハラ社長と同じ立場だったはずだから、昇進してサブマネージャーになったくらいじゃないかな?」
「それは間違いないかい?」
言葉は丁寧だが、シシガの声の調子が強くなった。
「だね。トワマネージャーがサブマネージャーになるまでは、イナ社長とミヤハラ社長が社内で一番出世が早いといわれていたよ」
「そうなのか!」
「へぇ」
シシガとウィリマが同時に声をあげた。
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