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第十二章
545:警戒すべき相手
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「ところで室長、さしあたって必要なものはないだろうか?」
今度はサクライがレイカに尋ねてきた。
ECN社の経営陣としても、今回のレイカの交渉の結果は気になるところではある。
インデストにおける電力供給の正常化と、それに伴う金属材料の供給の回復は、ECN社の事業にも大きく影響するためだ。
特に財政を預かるサクライの立場からすれば、ECN社の事業継続に支障をきたすわけにはいかないのだろう。
ECN社は当面の事業活動に影響があるほど、資金の状況は悪くはない。
しかし、インデストからの金属材料の供給が止まれば、主力であるシステムや通信事業が大打撃を受ける。
ハードウェア、ソフトウェア、インフラなどを一社で担っている関係上、金属材料を要するハードウェアやインフラ事業が崩れると、関連する他の事業までが総崩れとなってしまう。
また、インフラに関してはほぼECN社の独占である。
独占事業者がその事業を継続できなくなったときの市民の反応は、OP社の事例に学ぶまでもない。
サクライはそうした事態を懸念しているのだ。
サクライも本来腰が重い方であるが、トップのミヤハラの腰があまりにも重く、そして鈍感とも言えるくらいに周囲の変化に対する反応が薄いため、不本意ながらサクライ自身が重い腰を上げて動き回らざるを得ないのだ。
もっとも、そうは言っても周辺からみれば、根が生えているくらいに腰が重く見えるのだが。
「さしあたってはありませんが、今回の交渉に対する報道についてはできる限り情報を集めてください。社や私に対しての反応、それも特に厳しい論調のものについては重点的にお願いします」
サクライの懸念については、レイカも同じような考えを持っている。
むしろレイカの方が先に行動しており、サクライはレイカの行動からこうした懸念に至ったと言ってよい。
レイカにとっては特に「リスク管理研究所」の動向が気になる。
もともと他者に必要以上に厳しい団体ではあるし、元ECN社の従業員も多く、ECN社の内情には比較的通じていると考えられる。
一方で、味方に取り込むには向かない相手であることもレイカは理解している。
職業学校時代にさんざん苦しめられた相手だ。
彼らは対等な味方を望んでいない。
彼らの求めているのは都合の良いコマであって、相手がECN社であっても同じことを要求するだろう。とてもではないが、こちら側に引き込むなどとんでもない。
「やっておきましょう。室長も考えあってのことだから大丈夫だろうが、OP社本社と直接交渉しなかった点を追及されるのは確実でしょう」
この点についてはサクライの指摘通りだとレイカも考えている。
OP社本社━━正確には「リスク管理研究所」━━挟みたくなかったからインデストに極秘裏に赴いているのだが、これが「リスク管理研究所」にとって面白くないのは、ほぼ間違いのないところだと思われる。
ただ、その一方で「リスク管理研究所」が積極的に交渉に関与するとも思えない。
あくまで彼らは、将来の懸念について広く世間に認知させるのが任務だと考えている。
これは「リスク管理研究所」の経営理念に記載されていることでもあり、事実そのように彼らが動いているという点について異を唱える者は非常に少ないと考えられる。
ただ、彼らはこうした懸念を避けるための方策についてそれを明らかにすることはほとんどない。
その代わり、懸念が事実となった場合に「再発防止」と称して、当事者を徹底して糾弾する。
後になってから「あの時点でこのようにしなければならなかった」と指摘されるのでは、当事者としてはたまったものではない。
ただし、「リスク管理研究所」側にもポリシーはあり、少なくとも彼らにとって正当性がない批判はしない。
レイカから見ると彼らの言う正当性を実現するためには、彼らに対して従順でなければならないように思われる。
「副社長の仰る通りです。それについては対策しておきます」
レイカは教科書通りとも言える答えを返した。
この場合は、それ以上は求められていないし、それ以上の回答をする必要もない。
サクライとしても注意を喚起した程度であり、レイカに詳細な返答を求めていない。
ただ、お互いに言外に「リスク管理研究所」に対する警戒を匂わせていたのは間違いないところである。
レイカも職業学校時代に度々「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァと対立してきた。
また、「タブーなきエンジニア集団」は、旧ECN社経営企画室のメンバーが多い「リスク管理研究所」と不仲であり、「タブーなきエンジニア集団」出身のミヤハラやサクライも例外ではなかった。
これらの事情が、彼らの「リスク管理研究所」に対する姿勢について影響を与えていた可能性は否定できないところだ。
この後、彼らは短い会話を二、三交わしたのち、通信を切った。
レイカが携帯端末を確認すると、アカシから金曜の交渉について受諾した旨の返答があった。
この返答はレイカとミヤハラ、サクライ、エリック、OP社社長、OP社インデスト支店、「勉強会」メンバーに向けて発信されており、レイカが特にミヤハラなどに向けて連絡をする必要はなかった。
それとは別にOP社からは本日中に回答する旨の返答があった。
「勉強会」からは今のところ返答はない。
レイカは携帯端末を閉じると、翌々日に迫った舞台へと思いを馳せた。
今度はサクライがレイカに尋ねてきた。
ECN社の経営陣としても、今回のレイカの交渉の結果は気になるところではある。
インデストにおける電力供給の正常化と、それに伴う金属材料の供給の回復は、ECN社の事業にも大きく影響するためだ。
特に財政を預かるサクライの立場からすれば、ECN社の事業継続に支障をきたすわけにはいかないのだろう。
ECN社は当面の事業活動に影響があるほど、資金の状況は悪くはない。
しかし、インデストからの金属材料の供給が止まれば、主力であるシステムや通信事業が大打撃を受ける。
ハードウェア、ソフトウェア、インフラなどを一社で担っている関係上、金属材料を要するハードウェアやインフラ事業が崩れると、関連する他の事業までが総崩れとなってしまう。
また、インフラに関してはほぼECN社の独占である。
独占事業者がその事業を継続できなくなったときの市民の反応は、OP社の事例に学ぶまでもない。
サクライはそうした事態を懸念しているのだ。
サクライも本来腰が重い方であるが、トップのミヤハラの腰があまりにも重く、そして鈍感とも言えるくらいに周囲の変化に対する反応が薄いため、不本意ながらサクライ自身が重い腰を上げて動き回らざるを得ないのだ。
もっとも、そうは言っても周辺からみれば、根が生えているくらいに腰が重く見えるのだが。
「さしあたってはありませんが、今回の交渉に対する報道についてはできる限り情報を集めてください。社や私に対しての反応、それも特に厳しい論調のものについては重点的にお願いします」
サクライの懸念については、レイカも同じような考えを持っている。
むしろレイカの方が先に行動しており、サクライはレイカの行動からこうした懸念に至ったと言ってよい。
レイカにとっては特に「リスク管理研究所」の動向が気になる。
もともと他者に必要以上に厳しい団体ではあるし、元ECN社の従業員も多く、ECN社の内情には比較的通じていると考えられる。
一方で、味方に取り込むには向かない相手であることもレイカは理解している。
職業学校時代にさんざん苦しめられた相手だ。
彼らは対等な味方を望んでいない。
彼らの求めているのは都合の良いコマであって、相手がECN社であっても同じことを要求するだろう。とてもではないが、こちら側に引き込むなどとんでもない。
「やっておきましょう。室長も考えあってのことだから大丈夫だろうが、OP社本社と直接交渉しなかった点を追及されるのは確実でしょう」
この点についてはサクライの指摘通りだとレイカも考えている。
OP社本社━━正確には「リスク管理研究所」━━挟みたくなかったからインデストに極秘裏に赴いているのだが、これが「リスク管理研究所」にとって面白くないのは、ほぼ間違いのないところだと思われる。
ただ、その一方で「リスク管理研究所」が積極的に交渉に関与するとも思えない。
あくまで彼らは、将来の懸念について広く世間に認知させるのが任務だと考えている。
これは「リスク管理研究所」の経営理念に記載されていることでもあり、事実そのように彼らが動いているという点について異を唱える者は非常に少ないと考えられる。
ただ、彼らはこうした懸念を避けるための方策についてそれを明らかにすることはほとんどない。
その代わり、懸念が事実となった場合に「再発防止」と称して、当事者を徹底して糾弾する。
後になってから「あの時点でこのようにしなければならなかった」と指摘されるのでは、当事者としてはたまったものではない。
ただし、「リスク管理研究所」側にもポリシーはあり、少なくとも彼らにとって正当性がない批判はしない。
レイカから見ると彼らの言う正当性を実現するためには、彼らに対して従順でなければならないように思われる。
「副社長の仰る通りです。それについては対策しておきます」
レイカは教科書通りとも言える答えを返した。
この場合は、それ以上は求められていないし、それ以上の回答をする必要もない。
サクライとしても注意を喚起した程度であり、レイカに詳細な返答を求めていない。
ただ、お互いに言外に「リスク管理研究所」に対する警戒を匂わせていたのは間違いないところである。
レイカも職業学校時代に度々「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァと対立してきた。
また、「タブーなきエンジニア集団」は、旧ECN社経営企画室のメンバーが多い「リスク管理研究所」と不仲であり、「タブーなきエンジニア集団」出身のミヤハラやサクライも例外ではなかった。
これらの事情が、彼らの「リスク管理研究所」に対する姿勢について影響を与えていた可能性は否定できないところだ。
この後、彼らは短い会話を二、三交わしたのち、通信を切った。
レイカが携帯端末を確認すると、アカシから金曜の交渉について受諾した旨の返答があった。
この返答はレイカとミヤハラ、サクライ、エリック、OP社社長、OP社インデスト支店、「勉強会」メンバーに向けて発信されており、レイカが特にミヤハラなどに向けて連絡をする必要はなかった。
それとは別にOP社からは本日中に回答する旨の返答があった。
「勉強会」からは今のところ返答はない。
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