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第十二章
547:「判定者」と「その支援者」
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(正論だが、極端ではあるな。そのくらいの方が、こちらは楽しめるが……)
口には出さなかったが、アレクの発言についてそのように考えている者もいる。
ここにいる四人は必ずしも一枚岩とは言える状況ではないようだ。
「ゴールド、人が真剣に話をしているときにそれを冷やかすような表情をするのはやめるべきよ」
アレクが前髪の長い男性をたしなめた。今回の言葉は諭すというには、声に含まれている怒りの割合が多すぎる。
「すみません。そういうつもりはなかったのですが……」
「ゴールドは表情がニヤけて見えるのよ。二〇代のうちはまだいいけど、そのうち顔や表情にも責任が必要な時が来るわよ。今のうちに備えておくべきよ」
「肝に銘じておきます……」
「あ、その表情よ。もう少し身体全体に力を入れるようにした方がいいわね」
「は、はい……」
ゴールドと呼ばれた男も、アレクの前ではたじたじだ。
会話の様子からは、四人の中ではアレクと呼ばれている女性が最上位に見える。
しかし、アレク自身はそうは思っていない。
彼女は「判定者とその支援者」という組織の中で、「判定者」同士、そして「その支援者」同士に地位の上下はない、と考えているし、地位を規定するルールもない。
また、「判定者」と「その支援者」が異なるのはその役割だけである。
アレクが「判定者とその支援者」という組織を立ち上げるに当たって、重要な役割を果たしたのは間違いない。
ただ、それを理由に組織内での地位を望む気は毛頭ない。
(私は「その支援者」のひとり。「判定者」に「判定」の機会を提供するとともに、「判定」の経緯をすべて明らかにするのが私の仕事)
アレクは「判定者」ではなかった。
もともとは保育士志望の学生だった。
あるきっかけからマスコミ業界への道を進むことになる。
ここで、彼女の進路を決めた重大な事件を知る。
この事件を調べた結果として、「判定者とその支援者」という組織を立ち上げ、所属することとなった。
「判定者」は、この事件の被害者であったのだ。
一人はアレクと同じ部屋におり、「サファイア」と呼ばれている女性である。
もう一人も女性だ。
ここにはいないが、「ダイヤ」と呼ばれており、こちらもやはり女性であった。
彼女ら二人以外の「判定者」候補は現在のところ一人しか判明しておらず、かつこの候補は「判定者とその支持者」への参加を拒否したのである。
この候補も女性であった。
そして、事件に遭遇した時の年齢も比較的近い。
それは彼女らがまだ子供といえる年齢の時の出来事であった。
アレクも彼女らと同年代の女性だ。
参加を断った「判定者」候補の心情も一部は理解できないでもない。
しかし、だからこそ「判定者」として罪を裁いて欲しい。
犯された罪を裁ける機関がない以上、罪を裁くのはその罪を知る者、すなわちその被害者以外にあり得ない。
そして、裁かれた事実を公にし、次なる犯罪を防止する。アレクはそれこそ自身が一生をかけて果たす役割だと考えている。
「ところで、今回の交渉についてはどうするつもりでしょうか?」
女性の声だ、アレクではない。
サファイアと呼ばれる女性の声であった。
「レイカ・メルツもいることだし、ある程度IMPUと『勉強会』が和解するのは仕方ない。ただ、『勉強会』には、その罪にふさわしいレベルで醜くIMPUに抵抗し続けてもらう、というのがダイヤの希望のようよ。サファイアはどう思う?」
「……特に異存ありません」
アレクの問いに対するサファイアの答えは辛うじて「素っ気ない」と言われない水準のものであった。
「IMPUの若い人たちには多少迷惑がかかるかもしれないけど、罪を裁き、新たな犠牲者を出さないようにするためには仕方のないこと。私はOP社、特に前の社長のハドリの時代のやり口は許せないけど、ただひとつ、『フジミの大虐殺』に対する対応だけは正しいと思っている」
アレクの声が徐々に熱を帯びてきた。
「そうですね、少なくとも被害に遭われた方を解放しましたね」
とゴールドが応じた。
「そう、そして罪は死をもって裁かれた。そして『フジミの大虐殺』で何が起きたか、事実がどんどん明らかになっている」
これは確かにアレクの言う通りであった。
ハドリによるフジミ・タウン解放後、生存者から次々に証言や証拠となる品がマスコミやOP社の手に渡った。
それは長いこと闇に包まれていた真相を明らかにするのに質量ともに十分なものであった。
ただ一つの例外は、ハドリと彼の一族に関する情報で、これは「個人のプライベートにかかわること」として「タブーなきエンジニア集団」が情報を所持していることさえ秘密にしていたためだ。
「……でも『フジミの大虐殺』より七年も前に起きたあの事件は、ほとんど人々に知られていないわ」
アレクが唇を噛んだ。
「『フジミの大虐殺』ほどではないとはいえ、そんなことが……」
リードの声が少し震えている。
彼は「事件」のことを詳しく知らない。
これが「事件」に対するサブマリン島の一般的住民の反応だ。
アレクも今回はリードを咎めず、これから事実を知っていくようにしなさい、と諭すように言った。
そして、時計を見た後、後はゴールドに任せると言い残してアレクは部屋を後にした。
「リード、ジンクとジェイドは無事だよね?」
アレクが出て行ったのを確認するようにドアを見てからゴールドが言った。
「はい、無事です」
「驚いたかもしれないが、アレクはいつもあんな調子なんだ。無事に二人を郊外まで案内したのに一言もなくて驚いたのではないかな?」
「い、いえ。大丈夫です」
リードは、がっしりした体格をしているが、その男が少し肩をすくめるようにしている。
「アレクさんやダイヤさんはちょっと過激なところがあるけど、相手はそれだけのことをしでかしたのは否定できない、というのは理解してくれるかな?」
「シルバーから少しだけ聞いていますので……」
ゴールドは、そうか、と言って遠い目をした。
「そうか、シルバーも事件には直接関係ないが、一種の被害者だからねぇ……」
ゴールドが小声でつぶやいた。
口には出さなかったが、アレクの発言についてそのように考えている者もいる。
ここにいる四人は必ずしも一枚岩とは言える状況ではないようだ。
「ゴールド、人が真剣に話をしているときにそれを冷やかすような表情をするのはやめるべきよ」
アレクが前髪の長い男性をたしなめた。今回の言葉は諭すというには、声に含まれている怒りの割合が多すぎる。
「すみません。そういうつもりはなかったのですが……」
「ゴールドは表情がニヤけて見えるのよ。二〇代のうちはまだいいけど、そのうち顔や表情にも責任が必要な時が来るわよ。今のうちに備えておくべきよ」
「肝に銘じておきます……」
「あ、その表情よ。もう少し身体全体に力を入れるようにした方がいいわね」
「は、はい……」
ゴールドと呼ばれた男も、アレクの前ではたじたじだ。
会話の様子からは、四人の中ではアレクと呼ばれている女性が最上位に見える。
しかし、アレク自身はそうは思っていない。
彼女は「判定者とその支援者」という組織の中で、「判定者」同士、そして「その支援者」同士に地位の上下はない、と考えているし、地位を規定するルールもない。
また、「判定者」と「その支援者」が異なるのはその役割だけである。
アレクが「判定者とその支援者」という組織を立ち上げるに当たって、重要な役割を果たしたのは間違いない。
ただ、それを理由に組織内での地位を望む気は毛頭ない。
(私は「その支援者」のひとり。「判定者」に「判定」の機会を提供するとともに、「判定」の経緯をすべて明らかにするのが私の仕事)
アレクは「判定者」ではなかった。
もともとは保育士志望の学生だった。
あるきっかけからマスコミ業界への道を進むことになる。
ここで、彼女の進路を決めた重大な事件を知る。
この事件を調べた結果として、「判定者とその支援者」という組織を立ち上げ、所属することとなった。
「判定者」は、この事件の被害者であったのだ。
一人はアレクと同じ部屋におり、「サファイア」と呼ばれている女性である。
もう一人も女性だ。
ここにはいないが、「ダイヤ」と呼ばれており、こちらもやはり女性であった。
彼女ら二人以外の「判定者」候補は現在のところ一人しか判明しておらず、かつこの候補は「判定者とその支持者」への参加を拒否したのである。
この候補も女性であった。
そして、事件に遭遇した時の年齢も比較的近い。
それは彼女らがまだ子供といえる年齢の時の出来事であった。
アレクも彼女らと同年代の女性だ。
参加を断った「判定者」候補の心情も一部は理解できないでもない。
しかし、だからこそ「判定者」として罪を裁いて欲しい。
犯された罪を裁ける機関がない以上、罪を裁くのはその罪を知る者、すなわちその被害者以外にあり得ない。
そして、裁かれた事実を公にし、次なる犯罪を防止する。アレクはそれこそ自身が一生をかけて果たす役割だと考えている。
「ところで、今回の交渉についてはどうするつもりでしょうか?」
女性の声だ、アレクではない。
サファイアと呼ばれる女性の声であった。
「レイカ・メルツもいることだし、ある程度IMPUと『勉強会』が和解するのは仕方ない。ただ、『勉強会』には、その罪にふさわしいレベルで醜くIMPUに抵抗し続けてもらう、というのがダイヤの希望のようよ。サファイアはどう思う?」
「……特に異存ありません」
アレクの問いに対するサファイアの答えは辛うじて「素っ気ない」と言われない水準のものであった。
「IMPUの若い人たちには多少迷惑がかかるかもしれないけど、罪を裁き、新たな犠牲者を出さないようにするためには仕方のないこと。私はOP社、特に前の社長のハドリの時代のやり口は許せないけど、ただひとつ、『フジミの大虐殺』に対する対応だけは正しいと思っている」
アレクの声が徐々に熱を帯びてきた。
「そうですね、少なくとも被害に遭われた方を解放しましたね」
とゴールドが応じた。
「そう、そして罪は死をもって裁かれた。そして『フジミの大虐殺』で何が起きたか、事実がどんどん明らかになっている」
これは確かにアレクの言う通りであった。
ハドリによるフジミ・タウン解放後、生存者から次々に証言や証拠となる品がマスコミやOP社の手に渡った。
それは長いこと闇に包まれていた真相を明らかにするのに質量ともに十分なものであった。
ただ一つの例外は、ハドリと彼の一族に関する情報で、これは「個人のプライベートにかかわること」として「タブーなきエンジニア集団」が情報を所持していることさえ秘密にしていたためだ。
「……でも『フジミの大虐殺』より七年も前に起きたあの事件は、ほとんど人々に知られていないわ」
アレクが唇を噛んだ。
「『フジミの大虐殺』ほどではないとはいえ、そんなことが……」
リードの声が少し震えている。
彼は「事件」のことを詳しく知らない。
これが「事件」に対するサブマリン島の一般的住民の反応だ。
アレクも今回はリードを咎めず、これから事実を知っていくようにしなさい、と諭すように言った。
そして、時計を見た後、後はゴールドに任せると言い残してアレクは部屋を後にした。
「リード、ジンクとジェイドは無事だよね?」
アレクが出て行ったのを確認するようにドアを見てからゴールドが言った。
「はい、無事です」
「驚いたかもしれないが、アレクはいつもあんな調子なんだ。無事に二人を郊外まで案内したのに一言もなくて驚いたのではないかな?」
「い、いえ。大丈夫です」
リードは、がっしりした体格をしているが、その男が少し肩をすくめるようにしている。
「アレクさんやダイヤさんはちょっと過激なところがあるけど、相手はそれだけのことをしでかしたのは否定できない、というのは理解してくれるかな?」
「シルバーから少しだけ聞いていますので……」
ゴールドは、そうか、と言って遠い目をした。
「そうか、シルバーも事件には直接関係ないが、一種の被害者だからねぇ……」
ゴールドが小声でつぶやいた。
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