ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十二章

550:インデスト、という地

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 (シトリさん、来るのね……)
 出席者のリストにミア・シトリの名前を見つけたレイカが首を傾げた。
 (事前に挨拶をしておいた方がよかったかしら?)
 シトリが会談に出席するというのは、レイカからすればやや予定外の事態だった。

 一社から複数のメンバーが出席することを、IMPUの他の企業などが許容すると考えなかったためだ。
 IMPUが一枚岩の団体でないことはレイカも理解していた。
 だからこそ、特定の企業から複数のメンバーが選定されることを想定していなかったのである。
 レイカが予想したのは自社に利益を誘導したい企業が続出し、会談に出席するメンバーが多くなるか、アカシがバランスをとって有力企業の数社から一名ずつ代表を選ぶか、といったところであった。
 ところが、実際は有力とはいえない企業から二名ものメンバーが選出されている。
 トーカMC社は、鉄鉱石の採掘や加工業者が中心となっているIMPUでは主流から大きく外れている企業である。
 若い会社ということもあり、規模もさほど大きくなく、当然IMPU内での影響力も小さい。というよりほぼないというのが実情だろう。
 また、IMPU内の他企業との取引も少ないことから、IMPU内の企業からすれば圧力をかけにくい相手でもある。
 そのような意味でIMPUの利益を代表する立場としては、甚だ不適格なメンバーである。

 インデストが初めてという彼女には、この地の人々の考え方が十分に理解できなかった。
 だが、インデストという都市の成り立ちを考慮すれば住民がそう考えるのも無理はない。
 インデストは鉄鉱石などの採掘で成り立った都市であるが、当初インデストに移り住んだ者は、事業に失敗した者や、借金で身持ちを崩した者、罪を犯すなどしてポータル・シティなどの都市に居られなくなった者などが少なくなかった。
 このため、特に古くから住んでいる住民は己の過去を知られないよう、表に出ない傾向が強い。
 脛に傷持つ者が多いゆえに、自らの過去も知らせない代わりに、相手の過去にも触れない、こうした妙な連帯感が年長者にはあった。
 この連帯感は自らの利益のみ求める者が出れば、たちまちその者の過去が暴かれ、以降はインデストで活動ができなくなる、という方向にも働いた。
 ここまではレイカの理解の範疇にあった。
 しかし、これが更にエスカレートし、己から遠い者を生贄として敢えて持ち上げ、自らに災禍が降り注ぐのを防ぐ方策とすることが半ば習慣化していたということなどは、レイカの理解を超えていた。
 こうした活動は主に多数の消極的賛同者によって執り行われ、多くの場合は、積極的な推進者を持たなかった。
 己を守るための無意識な行動、それは生物としての防衛本能といってもよい領域であるかもしれなかった。
 ただ、こうした行動に参加する意思を持たない存在もあり、その数は増える傾向にあった。

 その者たちは大きく三つに分類することができた。
 一つ目はインデストに移り住んだ者たちの子供である。
 親の罪過や不名誉が子孫に及ぶケースは少なくなかったが、稀に親がこうした材料を持たない場合があった。また、材料を持っていたとしても、それが子孫に及ぶには十分な力を持たない場合もあり、彼らは己を守るために他人を生贄とする必要性を感じていなかった。
 トーカMC社社長のルマリィやIMPU理事のワジマなどはこの部類である。
 ルマリィは、それがゆえにインデストでは新しい業態である「運送業者をサポートする企業」を立ち上げようと思い至った可能性がある。

 二つ目は比較的最近、LH四〇年以降にインデストに移り住んだ者である。
 インデストが都市として機能したのはLH三四年からとされている。当時インデストに移り住もうとした者は、多くが何かしら後ろめたい事情を持ち、ポータル・シティ等の都市を脱出する意思を持っていた。
 いわゆる脛に傷持たない「一般市民」が移住するようになったのは、LH四〇年ごろからである。
 ポータル・シティ、ハモネスなどの都市と比較すればインデストは温暖であるし、当時は多くの業種が不足しており商売のチャンスも多かった。
 LH四〇年からの数年間にインデストへ移住した者は多かったが、挫折し、もとの居住地へと戻った者も多かった。
 結果としてインデストに残留している数は多くないが、IMPUの幹部はこの部類が多い。
 アカシ、タマノ、マナベの三理事がこれに該当する。

 最後はOP社の社員、である。
 これは二つ目の一形態とも言えるが、自分以外の者が突出することを嫌うハドリの影響もあり、インデストにおける主要な地位に就いている者が少ない、という特徴がある。
 OP社に残っている者を除くと、主要な地位にあるのはIMPU理事のサカデくらい、という状況である。
 彼ら「己を守るための無意識な行動に参加する意思を持たない者」であっても、こうした意思の生贄となることを避けることができるわけではなかった。
 むしろ、こうした意思に鈍感な分、生贄となる危険が大きいともいえた。
 今回の会談においては、IMPUの代表に「己を守るための無意識な行動に参加する意思を持たない者」が集中していた。
 このため、IMPUに所属する企業の年配の従業員などは、今度はIMPUがつぶされる番か、と嘆いた者も少なくなかった。
 このような状況の下、インデストの将来を左右する会談が始まろうとしていた。
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