132 / 304
第十二章
553:会談開始
しおりを挟む
OP社インデスト支店の社員が控室に開始時刻が近付いていることを伝えにやってきた。
レイカはキザシ、ヤマノシタの二人を従えて会議室へ向かう。
レイカとヤマノシタは「ECN社調達特別プロジェクトチーム」と書かれた席へ、書記役のキザシは議長席の脇に腰を下ろした。
遅れてIMPU、OP社、「勉強会」グループの順で会議室へと入場してきた。
(始まるわね。最初はOP社の電力供給の話、最初からポイントね……)
間もなく開始を知らせるベルが鳴らされた。
LH五二年二月三日一四時ちょうど、シトリにより会談の開始が宣言された。
まず、レイカが出席者に向けて会談参加への謝意を示した。
その後、議事進行役から会談の進行についての説明が行われた。
最初の議題はインデストにおける電力供給不足についてであった。
OP社発電事業部長のタノダによる電力供給の現状と今後の見通しの説明であった。
レイカはタノダと面識はなかったが、その顔は知っていた。
タノダは以前OP社の総務部長を務めており、OP社による対外発表は大抵彼によって行われていたためだ。
タノダの説明によれば、原因は技術者数の不足による発電、および送電効率の低下であり、技術者の数は四年前の六割を割り込んでいるとのことである。
インデストを除いた地域でも技術者不足は深刻で、やはり四年前の七割程度の水準とのことであった。
インデスト以外の地域では、超過勤務による労働時間の増加で何とか供給量が需要量を上回っているが、こちらも余力はないとのことであった。
これに対して「勉強会」グループが、「OP社グループ労働者組合」が「タブーなきエンジニア集団」と徒党を組みOP社と武力衝突した件について、「OP社グループ労働者組合」と「タブーなきエンジニア集団」を糾弾した。
「そもそも、そちらのアカシ代表がグループの規程に背いて徒党を組むことをしなければ、電力供給不足の原因は発生しなかったのだ。その意味でその責任は全面的に組合と『タブーなきエンジニア集団』なる狼藉者の集団にあるということを認識していただきたい。すなわち、OP社は完全な被害者であり、その責はそれぞれの頭目が率いている集団、すなわちIMPUとECN社が全面的に負う、会談はこれを大前提としなければならない」
「勉強会」グループ代表のオオバの口調は物静かであったが、その言葉は過激極まりないものであった。
レイカがルマリィの方に目をやった。
レイカには彼女の表情が「また、この人は……」と言っているように見えた。
(予想通りだけど、不毛な議論にならないよう注意が必要ね……)
レイカがそう考えていると、IMPUからサカデが発言を求めた。
「責任を明確にするのは重要ですが、OP社が十分な電力供給をするために必要なものを明らかにすることが先でしょう。タノダ部長、必要な資源とその量のデータはありますか?」
電力事業に関わっていないとはいえ、OP社の元社員であるサカデの言葉はそれなりの効果があったようだ。
OP社インデスト支店側から必要資源について説明させてほしい、との要望が出され、発電技術チームのオモテという初老の男が説明を始めた。
このオモテという人物が現場を最もよく知っているようであった。
説明によれば、現状の発電能力を恒久的に維持するのに五〇〇名程度、現在の需要に十分対応するためには二~三千名程度、理想は五千名程度の技術者の増員が必要、とのことであった。
また、発電、送電設備をメンテナンスする部品の供給も不十分であるが、これは鉄鋼関係の生産が回復すれば解消すると考えているようだ。
レイカはECN社から動かせる発電技術者の数は最大で一五〇〇名程度で、期間的には二年程度が限界だと考えていた。
本来ならECN社の本拠地ハモネスに近いポータル・シティなどに技術者を派遣し、OP社インデスト支店から派遣されている技術者と置き換えるのが一番容易な方法であるはずだった。
しかし、ECN社がOP社に技術者を派遣したところで、インデストから派遣されたOP社の技術者がインデストに戻されるという保証はない。
実際に昨年の一二月、ECN社は一千名の発電技術者をOP社本社に派遣している。
これにより、OP社インデスト支店から本社に派遣されていた技術者の一部をインデストに戻すはずだったのだが、現在までインデストに戻された者はごくわずかであった。戻す際に離脱者が続出したためである。
このこと自体はレイカの予測の範疇にあった。
だからこそ、派遣可能な人員の六割を手元に残していたのである。
ECN社の立場としては、長期的な視点でインデストの鉄鋼関連の生産が回復しないことには、自社の事業に影響が出てしまう。
インデストの鉄鋼生産が停滞している原因が電力不足であり、インデストの発電技術者数が回復しない限り、ECN社の希望は叶えられそうにないのだ。
レイカはOP社インデスト支店へ確実に技術者を送り込むため、策を講じた。
今回の会談でレイカが所属しているチーム名がその答えである。
OP社のトップであるノブヤ・ヤマガタは規則や慣習に忠実な人柄で、堅苦しい人物であることで知られている。
この堅苦しさは他人に対してだけではなく、自分自身に対しても適用されるということも、OP社に送り込んだモリタなどから情報を得ていた。
ECN社の一プロジェクトチームがOP社の一部門と交渉するにあたって、恐らくヤマガタは割り込まないであろう、というのがレイカの計算であった。
こちらが一プロジェクトチームであれば、部門レベルで対応するのが筋である。
そしてレイカの読み通り、ヤマガタは対応をインデスト支店に一任したのである。
インデスト支店に他部門の人事権はないであろうから、インデスト支店が技術者を受け入れるのであれば、支店内ということになる。
インデスト支店が技術者不足に喘いでいるのは事実であり、喉から手が出るほど技術者が欲しい状況である。
インデスト支店に直接技術者派遣の申し出があるのであれば、支店の立場でも受け入れやすい。
そして、今回のケースでは事前にOP社本社に話がなされており、本社から支店に一任という回答が得られているため、支店側の対応は容易なはずであった。
レイカはキザシ、ヤマノシタの二人を従えて会議室へ向かう。
レイカとヤマノシタは「ECN社調達特別プロジェクトチーム」と書かれた席へ、書記役のキザシは議長席の脇に腰を下ろした。
遅れてIMPU、OP社、「勉強会」グループの順で会議室へと入場してきた。
(始まるわね。最初はOP社の電力供給の話、最初からポイントね……)
間もなく開始を知らせるベルが鳴らされた。
LH五二年二月三日一四時ちょうど、シトリにより会談の開始が宣言された。
まず、レイカが出席者に向けて会談参加への謝意を示した。
その後、議事進行役から会談の進行についての説明が行われた。
最初の議題はインデストにおける電力供給不足についてであった。
OP社発電事業部長のタノダによる電力供給の現状と今後の見通しの説明であった。
レイカはタノダと面識はなかったが、その顔は知っていた。
タノダは以前OP社の総務部長を務めており、OP社による対外発表は大抵彼によって行われていたためだ。
タノダの説明によれば、原因は技術者数の不足による発電、および送電効率の低下であり、技術者の数は四年前の六割を割り込んでいるとのことである。
インデストを除いた地域でも技術者不足は深刻で、やはり四年前の七割程度の水準とのことであった。
インデスト以外の地域では、超過勤務による労働時間の増加で何とか供給量が需要量を上回っているが、こちらも余力はないとのことであった。
これに対して「勉強会」グループが、「OP社グループ労働者組合」が「タブーなきエンジニア集団」と徒党を組みOP社と武力衝突した件について、「OP社グループ労働者組合」と「タブーなきエンジニア集団」を糾弾した。
「そもそも、そちらのアカシ代表がグループの規程に背いて徒党を組むことをしなければ、電力供給不足の原因は発生しなかったのだ。その意味でその責任は全面的に組合と『タブーなきエンジニア集団』なる狼藉者の集団にあるということを認識していただきたい。すなわち、OP社は完全な被害者であり、その責はそれぞれの頭目が率いている集団、すなわちIMPUとECN社が全面的に負う、会談はこれを大前提としなければならない」
「勉強会」グループ代表のオオバの口調は物静かであったが、その言葉は過激極まりないものであった。
レイカがルマリィの方に目をやった。
レイカには彼女の表情が「また、この人は……」と言っているように見えた。
(予想通りだけど、不毛な議論にならないよう注意が必要ね……)
レイカがそう考えていると、IMPUからサカデが発言を求めた。
「責任を明確にするのは重要ですが、OP社が十分な電力供給をするために必要なものを明らかにすることが先でしょう。タノダ部長、必要な資源とその量のデータはありますか?」
電力事業に関わっていないとはいえ、OP社の元社員であるサカデの言葉はそれなりの効果があったようだ。
OP社インデスト支店側から必要資源について説明させてほしい、との要望が出され、発電技術チームのオモテという初老の男が説明を始めた。
このオモテという人物が現場を最もよく知っているようであった。
説明によれば、現状の発電能力を恒久的に維持するのに五〇〇名程度、現在の需要に十分対応するためには二~三千名程度、理想は五千名程度の技術者の増員が必要、とのことであった。
また、発電、送電設備をメンテナンスする部品の供給も不十分であるが、これは鉄鋼関係の生産が回復すれば解消すると考えているようだ。
レイカはECN社から動かせる発電技術者の数は最大で一五〇〇名程度で、期間的には二年程度が限界だと考えていた。
本来ならECN社の本拠地ハモネスに近いポータル・シティなどに技術者を派遣し、OP社インデスト支店から派遣されている技術者と置き換えるのが一番容易な方法であるはずだった。
しかし、ECN社がOP社に技術者を派遣したところで、インデストから派遣されたOP社の技術者がインデストに戻されるという保証はない。
実際に昨年の一二月、ECN社は一千名の発電技術者をOP社本社に派遣している。
これにより、OP社インデスト支店から本社に派遣されていた技術者の一部をインデストに戻すはずだったのだが、現在までインデストに戻された者はごくわずかであった。戻す際に離脱者が続出したためである。
このこと自体はレイカの予測の範疇にあった。
だからこそ、派遣可能な人員の六割を手元に残していたのである。
ECN社の立場としては、長期的な視点でインデストの鉄鋼関連の生産が回復しないことには、自社の事業に影響が出てしまう。
インデストの鉄鋼生産が停滞している原因が電力不足であり、インデストの発電技術者数が回復しない限り、ECN社の希望は叶えられそうにないのだ。
レイカはOP社インデスト支店へ確実に技術者を送り込むため、策を講じた。
今回の会談でレイカが所属しているチーム名がその答えである。
OP社のトップであるノブヤ・ヤマガタは規則や慣習に忠実な人柄で、堅苦しい人物であることで知られている。
この堅苦しさは他人に対してだけではなく、自分自身に対しても適用されるということも、OP社に送り込んだモリタなどから情報を得ていた。
ECN社の一プロジェクトチームがOP社の一部門と交渉するにあたって、恐らくヤマガタは割り込まないであろう、というのがレイカの計算であった。
こちらが一プロジェクトチームであれば、部門レベルで対応するのが筋である。
そしてレイカの読み通り、ヤマガタは対応をインデスト支店に一任したのである。
インデスト支店に他部門の人事権はないであろうから、インデスト支店が技術者を受け入れるのであれば、支店内ということになる。
インデスト支店が技術者不足に喘いでいるのは事実であり、喉から手が出るほど技術者が欲しい状況である。
インデスト支店に直接技術者派遣の申し出があるのであれば、支店の立場でも受け入れやすい。
そして、今回のケースでは事前にOP社本社に話がなされており、本社から支店に一任という回答が得られているため、支店側の対応は容易なはずであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる