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第十二章
552:レイカ、旧交を温める
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「メルツ室長、室長はシトリと同じ会社にいらしたと聞いていますが……」
ルマリィがレイカとシトリの話に恐る恐る割り込んだ。
「ええ、その通りです。シトリ先輩にはお世話になりっぱなしだったのですよ」
レイカの言葉にルマリィの身体が一瞬硬直する。
(シトリさんって、あのレイカ・メルツさんが「先輩」って呼ぶほどの人だったのね……凄い人に来てもらっちゃったんだ……)
ルマリィがレイカの答えに目を輝かせてシトリの方を向いた。
慌ててシトリがレイカとルマリィの間に割って入る。
「ちょ、ちょっとメルツさん! それは言いすぎってものよ。それに私も貴女のおかげでずいぶん楽をさせてもらったのだから」
レイカはシトリの言葉にそれも先輩をはじめとした皆様のお力があってのことですから、と丁寧に頭を下げた後、再びルマリィに視線を向けた。
「カイト社長、インデストに来る途中、社長の会社が管理している簡易宿泊施設を利用させていただきましたが、他の施設と比べると隅々までお手入れが行き届いていますね」
レイカの言葉にルマリィは顔が火照るのを感じていた。
(見てくれていたんだ……)
トーカMC社は「オーシャンリゾートの爆発事故の生存者が経営する会社」として取り上げられることが多い。
それはルマリィの経歴を考えれば仕方のないことであるが、彼女としては自分の仕事も見て欲しかった。
むしろ「オーシャンリゾートの爆発事故の生存者が経営する会社」とされることに対して、自身の能力不足を痛感させられていた。
だが、先ほどルマリィに投げかけられた言葉はトーカMC社の仕事を評価したものだった。
それだけでもルマリィにとっては喜ばしいことであったが、言葉を発した相手があのレイカ・メルツである。
ルマリィもインデスト限定では有名人である。しかし、レイカはここサブマリン島全体でナンバーワンマーケターとして評価されていた有名人であり、立場こそ異なるがルマリィが尊敬する人物の一人だ。
尊敬するレイカに仕事を評価されたことで、ルマリィは喜びに我を失いかけていた。
手入れが行き届いているという、一番見て欲しかったポイントを指摘されたのも彼女が舞い上がった要因であった。
レイカの実力や評判からすれば、ルマリィが浮かれるのも無理はなかった。
レイカは他人に注目されていない優れたモノヤサービスを発掘する名人である。
特にモノの発掘ではジューリックス社時代からよく知られていたが、サービスに関してもそれに劣らない実力を有している。
口の悪い者などは「見てくれが良いからそう思われるだけ。どうせ一過性のブームに終わるし、持ち上げられた方もぼろを出すさ」と揶揄したが、彼女の見出したモノやサービスは長く人々に愛され続けていた。一過性のブームに終わらせないところが、彼女の真骨頂である。
ルマリィの様子を察知したのか、シトリがルマリィの腕を引こうとした。
しかし、その直前にレイカが頭を下げながら小声で言った。
「あまり長く話をしているとよからぬ相談をしていると思われるかもしれませんから、今日はこのくらいにしましょう。カイト社長、シトリ先輩、またお話しできる機会があれば、よろしくお願いしますね」
そして、レイカは軽く会釈してルマリィとシトリの前から去っていった。
レイカが場を離れた後、シトリがルマリィの手を引くようにしてその場を離れる。
「社長、メルツさんとのお話の機会は別に設けることにしましょう。今日は会談に集中してくださいね」
シトリの言葉にルマリィは表情を引き締めて、わかりました、すみません、と答えた。
ルマリィから見れば相談相手のシトリも「レイカがお世話になった先輩という相手」なのだ。そのシトリの言葉は決して軽くなかった。すぐに我に返ることができたのもそのためだ。
レイカは同行した二名と一緒にいったん控室へと引き上げた。
ここで「ECN社調達特別プロジェクトチーム」としての姿勢を確認する。
事前に主な議題は各団体から提示されており、それぞれについてどのような方針で対応するかを確認しておくのだ。
議題自体は圧倒的に「勉強会」グループから提示されているものが多く、中には突拍子もないものも含まれている。
議事進行を妨害しようという意図だろうと噂されていたが、どうもそれだけではないようにレイカには思われた。
会談はマスコミ等には非公開で行われるが、それでも何が話し合われたかは少なくとも各団体の幹部クラスに伝わるはずである。
あまりに突拍子もない議題を提示したと広まれば、その議題を出した団体のイメージが低下する可能性は十分に考えられる。
ただ、他の三団体と比較して「勉強会」グループはこうしたイメージ低下のダメージは小さいだろう。
「勉強会」そのものはIMPU所属企業の従業員とOP社からIMPUに出向している従業員で構成されており、自らの名前で商売を行わない団体である。
この点に「勉強会」グループが注目して、何かを行おうとしているのではないか?
レイカはこのように考えたのだった。
ルマリィがレイカとシトリの話に恐る恐る割り込んだ。
「ええ、その通りです。シトリ先輩にはお世話になりっぱなしだったのですよ」
レイカの言葉にルマリィの身体が一瞬硬直する。
(シトリさんって、あのレイカ・メルツさんが「先輩」って呼ぶほどの人だったのね……凄い人に来てもらっちゃったんだ……)
ルマリィがレイカの答えに目を輝かせてシトリの方を向いた。
慌ててシトリがレイカとルマリィの間に割って入る。
「ちょ、ちょっとメルツさん! それは言いすぎってものよ。それに私も貴女のおかげでずいぶん楽をさせてもらったのだから」
レイカはシトリの言葉にそれも先輩をはじめとした皆様のお力があってのことですから、と丁寧に頭を下げた後、再びルマリィに視線を向けた。
「カイト社長、インデストに来る途中、社長の会社が管理している簡易宿泊施設を利用させていただきましたが、他の施設と比べると隅々までお手入れが行き届いていますね」
レイカの言葉にルマリィは顔が火照るのを感じていた。
(見てくれていたんだ……)
トーカMC社は「オーシャンリゾートの爆発事故の生存者が経営する会社」として取り上げられることが多い。
それはルマリィの経歴を考えれば仕方のないことであるが、彼女としては自分の仕事も見て欲しかった。
むしろ「オーシャンリゾートの爆発事故の生存者が経営する会社」とされることに対して、自身の能力不足を痛感させられていた。
だが、先ほどルマリィに投げかけられた言葉はトーカMC社の仕事を評価したものだった。
それだけでもルマリィにとっては喜ばしいことであったが、言葉を発した相手があのレイカ・メルツである。
ルマリィもインデスト限定では有名人である。しかし、レイカはここサブマリン島全体でナンバーワンマーケターとして評価されていた有名人であり、立場こそ異なるがルマリィが尊敬する人物の一人だ。
尊敬するレイカに仕事を評価されたことで、ルマリィは喜びに我を失いかけていた。
手入れが行き届いているという、一番見て欲しかったポイントを指摘されたのも彼女が舞い上がった要因であった。
レイカの実力や評判からすれば、ルマリィが浮かれるのも無理はなかった。
レイカは他人に注目されていない優れたモノヤサービスを発掘する名人である。
特にモノの発掘ではジューリックス社時代からよく知られていたが、サービスに関してもそれに劣らない実力を有している。
口の悪い者などは「見てくれが良いからそう思われるだけ。どうせ一過性のブームに終わるし、持ち上げられた方もぼろを出すさ」と揶揄したが、彼女の見出したモノやサービスは長く人々に愛され続けていた。一過性のブームに終わらせないところが、彼女の真骨頂である。
ルマリィの様子を察知したのか、シトリがルマリィの腕を引こうとした。
しかし、その直前にレイカが頭を下げながら小声で言った。
「あまり長く話をしているとよからぬ相談をしていると思われるかもしれませんから、今日はこのくらいにしましょう。カイト社長、シトリ先輩、またお話しできる機会があれば、よろしくお願いしますね」
そして、レイカは軽く会釈してルマリィとシトリの前から去っていった。
レイカが場を離れた後、シトリがルマリィの手を引くようにしてその場を離れる。
「社長、メルツさんとのお話の機会は別に設けることにしましょう。今日は会談に集中してくださいね」
シトリの言葉にルマリィは表情を引き締めて、わかりました、すみません、と答えた。
ルマリィから見れば相談相手のシトリも「レイカがお世話になった先輩という相手」なのだ。そのシトリの言葉は決して軽くなかった。すぐに我に返ることができたのもそのためだ。
レイカは同行した二名と一緒にいったん控室へと引き上げた。
ここで「ECN社調達特別プロジェクトチーム」としての姿勢を確認する。
事前に主な議題は各団体から提示されており、それぞれについてどのような方針で対応するかを確認しておくのだ。
議題自体は圧倒的に「勉強会」グループから提示されているものが多く、中には突拍子もないものも含まれている。
議事進行を妨害しようという意図だろうと噂されていたが、どうもそれだけではないようにレイカには思われた。
会談はマスコミ等には非公開で行われるが、それでも何が話し合われたかは少なくとも各団体の幹部クラスに伝わるはずである。
あまりに突拍子もない議題を提示したと広まれば、その議題を出した団体のイメージが低下する可能性は十分に考えられる。
ただ、他の三団体と比較して「勉強会」グループはこうしたイメージ低下のダメージは小さいだろう。
「勉強会」そのものはIMPU所属企業の従業員とOP社からIMPUに出向している従業員で構成されており、自らの名前で商売を行わない団体である。
この点に「勉強会」グループが注目して、何かを行おうとしているのではないか?
レイカはこのように考えたのだった。
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