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第十三章
575:表と裏の境界 その2
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「ところで……イオ君、彼らの処分はどうするつもりだね?」
コガミが静かに尋ねた。
「被害者がOP社ですので、OP社のインデストの責任者に希望を聞いてみますが、恐らくOP社は自ら彼らを処分することはないと思います」
「ならば、どうする?」
一瞬コガミの目が怪しく光ったようであったが、イオにはそれを気にかけた様子はない。
「会に判断していただくのがベストでしょう。そのときは判断をお願いできますでしょうか?」
イオの答えに迷いはないようだ。
「うむ……心得た。準備をしておこう。あのような不埒者が幅を利かせているようでは、この島に未来はないでしょうからな」
「仰るとおりです。正直なところ、会からアイデアを頂けなかったら、非常に困ったことになっていたと思いますから」
「なに、どんなに優れたアイデアがあっても、実行する者がなければ実現はしない。イオ君、そのことは誇ってもよいと思うぞ」
コガミはわが子の成長を喜ぶ父親のように目を細めた。
「いえ、まだまだ若輩者です。これからもご指導のほど……」
イオが頭を下げようとすると、コガミが制止した。
「いや、それよりも、だ。行動には気をつけなされ。今回は事情が事情なのであのような手段を取らざるを得なかった。木を見て森を見ない連中が余計なことをするかもしれぬ」
「ご忠告、痛み入ります」
「何、有望な若者を支えるのは年寄りの仕事じゃて、気にすることはない」
「これから彼らの尋問に行ってきます。進展がありましたら、また報告させていただきます」
イオの言葉にコガミはふむ、とうなずいた。
その表情は出来の良い息子を見るように誇らしげであった。
「これ以上の忠告は耳障りなだけだろうが、奴らには自分の罪をしっかりと自覚させるようにするとよいだろう」
「わかりました。では」
イオは深々と頭を下げてから急いで部屋を飛び出していった。
出された茶には形だけ手をつけただけであった。
一人部屋に残されたコガミは、軽く茶をすすってからつぶやいた。
「まったくもって、素直でできの良い若者で助かる。ハドリの小僧もくたばったようだし、ようやく本来の活動に戻れるわい」
その言葉はイオに向けた思慮深い年長者のそれではなかった。
「跳ねっ返りどもの処分はイオ君に任せておけば大丈夫だろう……おっと、会長が戻ったようですな」
コガミの「EMいのちの守護者の会」における立場は副会長であり、その上には当然会長が存在している。また、同格の副会長も他に数名存在している。
ほどなくして「会長」がコガミのいる部屋へと入ってきた。
会長がここにやって来た理由はいくつかあるのだが、最大のものはインデストの「EMいのちの守護者の会」の建物はそれほど大きなものではない、という事情によるものであった。
したがって、メンバーが出入りする部屋の数も限られており、「会長」がコガミのいる部屋に入ってきたのも、深い意味があってのことではなかった。
「会長」は、場合によっては「若い」で通りそうな女性であった。
実際にはコガミより五つ年少であるだけなのだが、白髪が大部分のコガミと比較すると親子の一歩手前くらいの年齢差に見える。
「会長、そちらはいかがでしたか?」
「会長」の姿を認めてコガミが声をかけた。
「当面生徒の登下校については今まで通り警戒を怠らない方針にしましたわ。放火犯が全員捕まったかが分からない以上、生徒には負担をかけることになりますが、安全には替えることはできないでしょう」
「……なるほど。生徒の安全が確保されなければ、学習に身が入らないでしょうからな」
コガミが大仰にうなずいてみせた。
「その通りです。それにしてもサニシ家は一体何を考えているのでしょうか……? 学校の土地を提供する立場でありながら、生徒の安全を脅かすようなことをするなんて……」
「会長」の表情が曇った。
「サニシ家の娘が犯人と決まったわけではないですが、もしそうであれば断固たる措置を取らなければなりますまい」
コガミも顔をしかめてみせた。
「そ、そうですねっ! 許されないことです!」
「会長」が、少し慌てた様子を見せながらも声を荒らげてみせた。
声の調子こそ強いものの反応がやや鈍く感じられるのは、気乗りがしていないか、彼女の感度が鈍いかのいずれかであろう、とコガミは感じていた。
「サツガ会長」
コガミは静かに、しかし鋭く呼びかけた。
「は、はいっ!」
「まだ犯人が決まったわけではありません。しかし、未来を担う子供たちの危機ですぞ」
「……はい」
「ならば、我々年長者が彼らを守らねばなりますまい」
明らかにコガミが会長のサツガを圧倒していた。
コガミの方が年長ということもあるのだが、それ以上にもって生まれた性質の差の方が大きいようであった。
「そうですね。コガミさん、事件の捜査に進展がありましたら連絡をお願います。私は見守り隊の人員配置の状況を確認してきます」
サツガの申し出にコガミは、それがよいでしょう、と応じた。
コガミが静かに尋ねた。
「被害者がOP社ですので、OP社のインデストの責任者に希望を聞いてみますが、恐らくOP社は自ら彼らを処分することはないと思います」
「ならば、どうする?」
一瞬コガミの目が怪しく光ったようであったが、イオにはそれを気にかけた様子はない。
「会に判断していただくのがベストでしょう。そのときは判断をお願いできますでしょうか?」
イオの答えに迷いはないようだ。
「うむ……心得た。準備をしておこう。あのような不埒者が幅を利かせているようでは、この島に未来はないでしょうからな」
「仰るとおりです。正直なところ、会からアイデアを頂けなかったら、非常に困ったことになっていたと思いますから」
「なに、どんなに優れたアイデアがあっても、実行する者がなければ実現はしない。イオ君、そのことは誇ってもよいと思うぞ」
コガミはわが子の成長を喜ぶ父親のように目を細めた。
「いえ、まだまだ若輩者です。これからもご指導のほど……」
イオが頭を下げようとすると、コガミが制止した。
「いや、それよりも、だ。行動には気をつけなされ。今回は事情が事情なのであのような手段を取らざるを得なかった。木を見て森を見ない連中が余計なことをするかもしれぬ」
「ご忠告、痛み入ります」
「何、有望な若者を支えるのは年寄りの仕事じゃて、気にすることはない」
「これから彼らの尋問に行ってきます。進展がありましたら、また報告させていただきます」
イオの言葉にコガミはふむ、とうなずいた。
その表情は出来の良い息子を見るように誇らしげであった。
「これ以上の忠告は耳障りなだけだろうが、奴らには自分の罪をしっかりと自覚させるようにするとよいだろう」
「わかりました。では」
イオは深々と頭を下げてから急いで部屋を飛び出していった。
出された茶には形だけ手をつけただけであった。
一人部屋に残されたコガミは、軽く茶をすすってからつぶやいた。
「まったくもって、素直でできの良い若者で助かる。ハドリの小僧もくたばったようだし、ようやく本来の活動に戻れるわい」
その言葉はイオに向けた思慮深い年長者のそれではなかった。
「跳ねっ返りどもの処分はイオ君に任せておけば大丈夫だろう……おっと、会長が戻ったようですな」
コガミの「EMいのちの守護者の会」における立場は副会長であり、その上には当然会長が存在している。また、同格の副会長も他に数名存在している。
ほどなくして「会長」がコガミのいる部屋へと入ってきた。
会長がここにやって来た理由はいくつかあるのだが、最大のものはインデストの「EMいのちの守護者の会」の建物はそれほど大きなものではない、という事情によるものであった。
したがって、メンバーが出入りする部屋の数も限られており、「会長」がコガミのいる部屋に入ってきたのも、深い意味があってのことではなかった。
「会長」は、場合によっては「若い」で通りそうな女性であった。
実際にはコガミより五つ年少であるだけなのだが、白髪が大部分のコガミと比較すると親子の一歩手前くらいの年齢差に見える。
「会長、そちらはいかがでしたか?」
「会長」の姿を認めてコガミが声をかけた。
「当面生徒の登下校については今まで通り警戒を怠らない方針にしましたわ。放火犯が全員捕まったかが分からない以上、生徒には負担をかけることになりますが、安全には替えることはできないでしょう」
「……なるほど。生徒の安全が確保されなければ、学習に身が入らないでしょうからな」
コガミが大仰にうなずいてみせた。
「その通りです。それにしてもサニシ家は一体何を考えているのでしょうか……? 学校の土地を提供する立場でありながら、生徒の安全を脅かすようなことをするなんて……」
「会長」の表情が曇った。
「サニシ家の娘が犯人と決まったわけではないですが、もしそうであれば断固たる措置を取らなければなりますまい」
コガミも顔をしかめてみせた。
「そ、そうですねっ! 許されないことです!」
「会長」が、少し慌てた様子を見せながらも声を荒らげてみせた。
声の調子こそ強いものの反応がやや鈍く感じられるのは、気乗りがしていないか、彼女の感度が鈍いかのいずれかであろう、とコガミは感じていた。
「サツガ会長」
コガミは静かに、しかし鋭く呼びかけた。
「は、はいっ!」
「まだ犯人が決まったわけではありません。しかし、未来を担う子供たちの危機ですぞ」
「……はい」
「ならば、我々年長者が彼らを守らねばなりますまい」
明らかにコガミが会長のサツガを圧倒していた。
コガミの方が年長ということもあるのだが、それ以上にもって生まれた性質の差の方が大きいようであった。
「そうですね。コガミさん、事件の捜査に進展がありましたら連絡をお願います。私は見守り隊の人員配置の状況を確認してきます」
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