ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十三章

579:「勉強会」グループによる事情聴取 その3

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 (「勉強会」の人たちはどうあっても、名前を挙げた三人を犯人にしたいようね……焦っているようではあるけど……)
 「勉強会」グループとIMPUとのやり取りを聞いていたレイカは、もどかしさを感じていた。
 正直なところ、レイカとしては事件に関する情報が少しでも欲しいところであった。
 だが、彼女には「勉強会」グループが一方的に彼らが挙げた容疑者を犯人とするためのやり取りを続けているように思われる。

 彼女はECN社から発電技術者をインデストに派遣し、IMPUによる鉄鉱関係などの生産を回復させる目的でこの地を訪れている。
 今回の訪問にはインデストにおけるECN社の影響力を強化しようという目論見もある。
 そのための最大の障害となっているのが、「勉強会」グループの存在で、彼らがIMPUに協力しない限り、鉄鉱関係の生産の回復は困難である。
 そして「勉強会」グループは、火災事件の調査の完了をもってIMPUに協力するか否かを判断するとしている。
 こうなるとレイカとしても彼らに付き合わざるを得ない。
 膠着状態が長期化すれば、インデストにおける鉄鋼関係の生産は完全に停止してしまう。
 鉄鋼関係の生産が完全停止すればIMPUに参加している企業は、利益を得ることができなくなってしまい、「勉強会」グループのメンバーの収入も断たれる。
 鉄鋼関係の材料をインデストに依存しているECN社にとっても影響は大きいが、ECN社は体力があるのでIMPUより先に干上がる可能性はほぼない。
「勉強会」グループが甚大な被害を受ける前に彼らが折れるのではないか、とレイカは考えていたのたが、これは見込みが甘かったようだ。
 彼らよりも先にアカシを支持している者が干上がってしまうのだ。
「勉強会」グループのメンバーは、IMPUの中でも比較的有力な企業やOP社傘下時代に上位の階層にいた企業に所属する者が多い。
 一方で、アカシを支持する者の多くは下位の階層にいた企業の若手が多い。
 電力の供給が低下して、鉄鋼関連の生産が減少した際、上位の階層の企業は下位の階層の企業への支払いを減らして自らの利益を確保した。

 これはハドリが健在だった頃には見られなかった現象であった。
 ハドリは他社がこのように取引上の地位を利用して他に負担を強いるやり方をひどく嫌っていた。
 それを知っていたインデストの企業はハドリの逆鱗に触れないよう少なくとも表面上は、下位の階層の企業に対しても公平に対応していた。
 ハドリが行方不明になって以降、彼らを縛っていたタガが外れた。
 上位の階層の企業は次第に下位の階層の企業に対して、自らが負うべき負担を押し付けていくようになり、現在至っている。

 結局、「勉強会」グループは、自らの優位な立場を固定するための装置としてIMPUを利用したいのだ、とレイカは感じていた。
 現在、こうして火災事件についてIMPUや組合の幹部を追及しているのも、その活動の一環と考えられる。
 しかし、アカシとしては彼らの隠された要求を受け入れる訳にはいかないであろう。
 むしろ、アカシがIMPUを立ち上げたのはこうした不均衡をなくすためである。
 組合を立ち上げたのも同じような理由であった。
 そして彼を支持するグループは、彼のこうした意思を支持している。
 アカシが彼らに屈服することは、支持者に対する裏切りである。
 また、彼らに屈服した場合、生産した鉄鋼製品の取引の面では不利になることが予想される。
 アカシが彼らの傀儡となれば、ミヤハラやサクライといったECN社のトップはIMPUを見限る可能性が高い。
 OP社が弱体化した現在、ECN社はその気になればインデストの鉄鋼関係の事業を完全に傘下にできる能力を有している。
 ECN社がそれをしないのは、その必要性がそれほど高くないという事情もあるが、IMPUのトップが「タブーなきエンジニア集団」とともに戦ったアカシであるということも大きく影響している。
 しかし、アカシが変節すればECN社としては遠慮する理由がなくなるのだ。
 レイカが思うに、「勉強会」グループはそのあたりの事情を理解していない。
 レイカはIMPUを「参加企業全体を発展させる能力を有している団体であり、一部の者の利益を追求すれば、結局は全体が縮小する」と考えている。
 ECN社は一部の者に利益を独占させないための監視役として影響力を発揮する、これがレイカの考えるところである。
 そのためにも、この場面ではアカシが踏みとどまるように仕向けたいところだ。
 これはレイカ自身やECN社のエゴと解釈できないこともないが、少なくともレイカは自身の考えに大義はあると考えている。
 ECN社はサブマリン島やその住民にとって、それだけの存在であるはずだ。
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