ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十三章

578:「勉強会」グループによる事情聴取 その2

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 次に紛失したという通信機の一台についてマキオ・イラ・イオから説明がなされた。
 この一台こそシン・スザキが使用していたものであったという。
 モチナガもその点については認めており、アカシがそれを否定する理由はなかった。
「……それはいいが、戦闘中に破壊されたという一台はどうなった?」
 アカシが当然ともいえる質問をぶつけた。
「それについては、該当する組合の方に聞きましたが、壊れて破棄したという以上の回答は得られませんでした。回答に不審なところはないと思われます」
 イオはそう言い切った。
 (なるほど、スザキが持っていた通信機か、それとももう一台かは確定していない、ということか……)
 アカシはそう考えた。
 もし、通信機のことを「勉強会」グループが重視しているのであれば、彼らが容疑者とした三名が事件に関係するという決定的な証拠はないように思われたのだ。

「……次はこれだ」
 そう言ってヒキが新しい画像をスクリーンに映し出させた。
 それは通信機が発見された当時の画像のようで、通信機が別の装置と接続していたように見える。
 イオによれば発火装置と可燃性の物質の入った容器が結び付けられていた、ということであった。
 可燃性の物質の一部は燃えると有害なガスを発生させる性質のもので、火災で被害を受けた作業者の中で、このガスを吸って中毒を起こした者がいるとのことであった。
 幸いなことに、ガスの被害を受けた者の症状は軽く、現在は回復して職務に復帰していた。
 問題は火災を引き起こした可燃性の物質で、これは鉱石の化学処理や分析で用いられる薬品類ということが判明した、ということであった。
「ならば、そちらのトップが詳しいのではないか?」
 アカシはイオにそう尋ねた。
 暗に「それならば同じ分析を行っているオオバも犯人の可能性があるだろう」と返したのであるが、イオにはそう聞こえなかったらしい。
「その通りです。容疑者の一人、リオナ・サニシはこうした薬品類にアクセスしやすい環境にありました」
「それだけで犯人を特定するのは早計だろう。他に何かあるのではないか?」
 さすがに乱暴すぎると考えて、アカシガイオをたしなめた。
 この手の薬品類にアクセスしやすい者など、何十名という単位で名前があがるだろうとアカシは考えていたからだ。言葉が強くなったのは、アカシの側にも若干の焦りがあったからかもしれない。
「まあ、焦るな。」
 アカシをヒキが静かに制止した。
「戦闘の際、いくつかの薬品庫が壊れて中の薬品にも被害があった。戦闘後、薬品の片付けを行ったが、その作業をサニシが担当していた、ということだ。サニシの上長に確認してみればよい」
 ヒキは挑発するかのようにアカシに告げた。

 (ずいぶん横柄な取り調べね……)
 表情には出さなかったものの、一連のやり取りを聞いていたレイカは内心呆れ果てていた。
 (それにしても……何か決定的な証拠を持っているかのようなやり方に思えるけど……)
 そう考えながら、チタムラの方に目をやった。
 レイカは取り調べの専門家ではないから、自身より専門性がある他者を頼ることに躊躇はない。
 チタムラは携帯端末に、びっしりとメモを取っていた。
 彼なりに疑問点や確認すべき点を取りまとめているらしい。
 チタムラは表情を動かすことなく、ただただ話に聞き入っている様子だ。
 (……チタムラさんはチタムラさんで何か掴めるかもしれない。ただ、専門家であるがゆえの罠にはまる可能性もある。その点は素人の私が……)
 チタムラの様子を見たレイカは、そう決意した。
 そして、レイカが再び意識をイオらに向けた。

「リオナ・サニシの上長には、必要になればこちらでも確認を取る。他に話はないのか?」
 アカシはヒキではなく、イオに向けて尋ねた。
 ヒキの方が年長でかつ役職上も上位なのであるが、火災事件の調査という点において主導権を握っているのがイオであるということを感じていたためだ。
 ヒキがむっとした表情を見せたが、アカシはそれに気づいていない。
「あります。今までよりも重要性の高い話です」
 イオは、己だけが正しいことを知っているといわんばかりに答えた。
「重要な話から先にして欲しい。外部の方からも時間を頂いてこの会を開いているのだから」
 さすがのアカシも一瞬むっとした表情を見せたが、すぐに冷静になり、イオを促した。
「仰ることは理解できますが、調査を効果的に行うためにこうしております。ご理解ください」
 アカシとイオの会話を聞いているモチナガが、レイカとチタムラの方に目をやった。
 アカシの言う「外部の方」というのが、彼らを指していることが明白であったためだ。
「いえ、私どもも調査の結果には非常に強い関心を持っております。そのまま続けてください」
 モチナガの視線に気づいたレイカが答えた。
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