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第十三章
582:災難は続く
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一方、モチナガは我に返るや否や、すぐにイズミという組合員と連絡を取った。
イズミはヒキと同じ会社に所属しており、比較的モチナガと親しい。
モチナガは「勉強会」グループの実質的なトップをヒキであると考えていた。
そこでイズミを通じてヒキの思惑を探ろうとしたのだ。
二時間後に「ナンバー・ナイン」という喫茶店でイズミと落ち合うことを決めた。
イズミの自宅から近く、比較的打ち合わせなどに使いやすい形の店であるためだ。
近くの商店を冷やかしながら時間をつぶしたモチナガは、指定した時間の一五分前に「ナンバー・ナイン」に入った。
客の数は少なくなかったが、席を確保するのに苦労するほどではない。
モチナガは奥の方のボックス席に陣取って携帯端末を広げた。
時刻はすでに二〇時を回っており、イズミの所属会社も通常の業務時間外である。
(そろそろだな……)
モチナガは入口の方に目をやったが、今のところイズミが来店する様子はない。
注文していた品物が運ばれてきた。
真冬ともいってよい時期なのだが、モチナガが注文したのはアイスコーヒーである。
彼は大抵の場面で飲むのは冷たいものと決めている。
ストローを通じて、いくらかの液体を口に運んだところで、一息つく。
(……それにしても、陰湿だったな)
つい先ほどの「勉強会」グループによる取り調べを思い出し、その不快感に思わず咳きこみそうになる。
サニシやオギタはともかく、スザキはモチナガ自身がアカシに引き合わせ、組合に参加させたという経緯がある。
ハドリに姉を殺されてはいるが、それに対して暴力で復讐を図るようなタイプではないという確信は今でも変わりない。
それだけでも気分が悪いというのに、更にスザキの存在がアカシの立場を悪い方向へ傾けるとあっては、怒りと吐き気が同時に襲ってくるような気分である。
飲んだコーヒーを吐き出しそうになりながらも、更に冷たいコーヒーを流し込み、気分を落ち着かせた。
不意にモチナガの携帯端末から警告音が鳴る。
着信を告げるそれとは明らかに異なっていたから、モチナガも不審に思ってポケットを探って携帯端末を取り出した。
それにつられるように周辺の携帯端末の何台かも同じように警告音を鳴らし始めた。
ある意味不快な音であるが、それがゆえに注意を向けざるを得ない。
(何だ?)
モチナガが携帯端末に目をやると、付近で火災が発生しているらしいとの情報が流れている。
続けて「ナンバー・ナイン」の入口付近に目を向けると、外の様子を見ようと何人かが扉を覗くように立っている。
モチナガの席からはよく見えないが、店の外には野次馬が集まりだしているようであった。
「失礼します」
モチナガも周辺の様子をうかがおうと、通路に立っている人をかき分けながら入口の方へと向かった。
すると、不意に肩を引っ張られた。
思わず振り向くと、モチナガのよく知る青年の姿があった。
「モチナガさんっ! 遅くなってすみませんっ!」
待ち合わせていたイズミが、ようやく到着したのであった。
もっとも、約束の時刻までは五分ばかり余裕がある。
「どこかで火事になっているようだが、知っているか?」
モチナガの問いにイズミは近所のホテルの名前を答えた。
どうやら、そのホテルで火災が発生しているらしい。
「そうか、大事にならなければよいが……」
と言いかけたところで、ある重大なことを思い出す。
(確か……レイカ・メルツ女史の止まっている宿か?!)
モチナガは携帯端末で自らの記憶が正しいことを知ると、直ちにアカシに連絡を取ろうと試みる。
「な、何か問題でも?」
イズミが慌てた様子で尋ねてきた。
「申し訳ないが、近所の防災班をモチナガの名前で集めてくれないか? ここならSの二班か三班が近いはずだ」
一瞬、イズミは事態が飲み込めない、という表情を見せかけたが、数秒後に自らの役割を理解し、携帯端末を操作し始めた。
一方、モチナガはアカシと通信をつなげ、状況を説明する。
アカシは、モチナガに通信をつないだままにするように命じた。
モチナガはイズミに集めさせた防災班に、火災が発生したホテルの消火活動を支援するように依頼した。
自治体的組織を持たないサブマリン島では、企業や有志で構成された団体が防災活動に当たることが多い。
IMPUでも同様の防災組織を保有しており、モチナガやアカシは彼らを動かしたのである。
一〇分もしないうちに、「ナンバー・ナイン」の前にIMPUの防災班十数名が集まった。
火災の現場となっているホテルは「ナンバー・ナイン」の隣のブロックの建物である。
モチナガが一度「ナンバー・ナイン」の外に出てみたが、外からは炎があがっているようには見えなかった。
防災班の班長を名乗るウラガミという初老の男性が、隊のメンバーを率いて現場に向かおうとした瞬間である。
耳をつんざくような轟音とともに、炎がホテルの窓から噴き出した。
地面が飛び跳ねるような感覚に襲われたが、モチナガは何とか踏みとどまった。
イズミはヒキと同じ会社に所属しており、比較的モチナガと親しい。
モチナガは「勉強会」グループの実質的なトップをヒキであると考えていた。
そこでイズミを通じてヒキの思惑を探ろうとしたのだ。
二時間後に「ナンバー・ナイン」という喫茶店でイズミと落ち合うことを決めた。
イズミの自宅から近く、比較的打ち合わせなどに使いやすい形の店であるためだ。
近くの商店を冷やかしながら時間をつぶしたモチナガは、指定した時間の一五分前に「ナンバー・ナイン」に入った。
客の数は少なくなかったが、席を確保するのに苦労するほどではない。
モチナガは奥の方のボックス席に陣取って携帯端末を広げた。
時刻はすでに二〇時を回っており、イズミの所属会社も通常の業務時間外である。
(そろそろだな……)
モチナガは入口の方に目をやったが、今のところイズミが来店する様子はない。
注文していた品物が運ばれてきた。
真冬ともいってよい時期なのだが、モチナガが注文したのはアイスコーヒーである。
彼は大抵の場面で飲むのは冷たいものと決めている。
ストローを通じて、いくらかの液体を口に運んだところで、一息つく。
(……それにしても、陰湿だったな)
つい先ほどの「勉強会」グループによる取り調べを思い出し、その不快感に思わず咳きこみそうになる。
サニシやオギタはともかく、スザキはモチナガ自身がアカシに引き合わせ、組合に参加させたという経緯がある。
ハドリに姉を殺されてはいるが、それに対して暴力で復讐を図るようなタイプではないという確信は今でも変わりない。
それだけでも気分が悪いというのに、更にスザキの存在がアカシの立場を悪い方向へ傾けるとあっては、怒りと吐き気が同時に襲ってくるような気分である。
飲んだコーヒーを吐き出しそうになりながらも、更に冷たいコーヒーを流し込み、気分を落ち着かせた。
不意にモチナガの携帯端末から警告音が鳴る。
着信を告げるそれとは明らかに異なっていたから、モチナガも不審に思ってポケットを探って携帯端末を取り出した。
それにつられるように周辺の携帯端末の何台かも同じように警告音を鳴らし始めた。
ある意味不快な音であるが、それがゆえに注意を向けざるを得ない。
(何だ?)
モチナガが携帯端末に目をやると、付近で火災が発生しているらしいとの情報が流れている。
続けて「ナンバー・ナイン」の入口付近に目を向けると、外の様子を見ようと何人かが扉を覗くように立っている。
モチナガの席からはよく見えないが、店の外には野次馬が集まりだしているようであった。
「失礼します」
モチナガも周辺の様子をうかがおうと、通路に立っている人をかき分けながら入口の方へと向かった。
すると、不意に肩を引っ張られた。
思わず振り向くと、モチナガのよく知る青年の姿があった。
「モチナガさんっ! 遅くなってすみませんっ!」
待ち合わせていたイズミが、ようやく到着したのであった。
もっとも、約束の時刻までは五分ばかり余裕がある。
「どこかで火事になっているようだが、知っているか?」
モチナガの問いにイズミは近所のホテルの名前を答えた。
どうやら、そのホテルで火災が発生しているらしい。
「そうか、大事にならなければよいが……」
と言いかけたところで、ある重大なことを思い出す。
(確か……レイカ・メルツ女史の止まっている宿か?!)
モチナガは携帯端末で自らの記憶が正しいことを知ると、直ちにアカシに連絡を取ろうと試みる。
「な、何か問題でも?」
イズミが慌てた様子で尋ねてきた。
「申し訳ないが、近所の防災班をモチナガの名前で集めてくれないか? ここならSの二班か三班が近いはずだ」
一瞬、イズミは事態が飲み込めない、という表情を見せかけたが、数秒後に自らの役割を理解し、携帯端末を操作し始めた。
一方、モチナガはアカシと通信をつなげ、状況を説明する。
アカシは、モチナガに通信をつないだままにするように命じた。
モチナガはイズミに集めさせた防災班に、火災が発生したホテルの消火活動を支援するように依頼した。
自治体的組織を持たないサブマリン島では、企業や有志で構成された団体が防災活動に当たることが多い。
IMPUでも同様の防災組織を保有しており、モチナガやアカシは彼らを動かしたのである。
一〇分もしないうちに、「ナンバー・ナイン」の前にIMPUの防災班十数名が集まった。
火災の現場となっているホテルは「ナンバー・ナイン」の隣のブロックの建物である。
モチナガが一度「ナンバー・ナイン」の外に出てみたが、外からは炎があがっているようには見えなかった。
防災班の班長を名乗るウラガミという初老の男性が、隊のメンバーを率いて現場に向かおうとした瞬間である。
耳をつんざくような轟音とともに、炎がホテルの窓から噴き出した。
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