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第十三章
589:残された赤いスカーフ
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一七日午前二時半、防災班はついに問題となっているホテルの五階に達した。
少し前からサクライの提案で電波の傍受や通信の記録分析などの活動は、ECN社で実行し、IMPUは現場での捜索や救助活動に専念していた。
ついにECN社の関係者が滞在していたエリアの捜索が始まった。
五階の捜索開始から数分後、五○四号室の前で人の上半身が見つかった、という報告がなされた。
報告を受けたアカシ、ミヤハラ、サクライ、エリックに緊張が走る。
さしものミヤハラやサクライも「人の上半身が見つかった」という事実の前には完全な平静を保つことができなかった。
「……どうしますか? 確認されますか?」
通信を通じて防災班から連絡があった。
見つかった遺体を見て確認するか? とミヤハラに問うたのである。
「……お願いする」
サクライの声は重苦しいものであった。
「……では」
モニタに遺体の様子が映し出される。
ミヤハラ、サクライ、エリックとも何度か見たことのある代物であるが、あまり慣れるということはないようだ。
「うちの人間ではなさそうだな……」
最初につぶやいたのはサクライであった。
ところどころ焦げているが、上着は比較的原型をとどめていた。
上着の色や形からホテルの従業員の制服だと思われる。
防災班のメンバーが持物を調べる。
防災班もECN社に気を遣っているのか、映像や音声を通じて詳細に状況を説明している。
持ち物から確認された氏名はECN社の社員のものではなかった。
防災班は氏名と遺体両方について、ホテルの従業員であるかの確認を取ると申し出た。
どうやら防災班は、この遺体について事件と重大な関わり持つ可能性があると見ているようであった。
更に五階の捜索が続く。
五階は爆発による損傷が著しく、爆発のあった五○三号室などは、壁以外はすべて瓦礫、というような状況であった。
このため、遺体が存在したところで、はたして原型を留めているかは大いに疑問視されていた。
アカシは何か見つかるたびに自分の胃袋が雑巾のように絞られるかのような感覚に襲われていた。
(何とか無事でいてくれよ……ECN社さんにこれ以上迷惑はかけられん……)
防災班の一部が五○五号室に入った。
爆発のあった五○三号室の隣の部屋である。
部屋の配置の関係から、五○三号室に接しているのは五○五号室のみであった。
五○三号室と接している壁は爆発でほぼ吹き飛んでおり、部屋の内部も原型を留めていない。
辛うじてベッドと机の残骸のようなものがあるのは映像からも何とか確認できる。
防災班による遺留物の捜索が始まった。
爆発と火災が重なったためか、元が何であったか確認の取れるものはほとんどなく、確認が取れたのはベッド、机、椅子などであった。
「うん? 何だ、これは……服の切れ端か?」
防災班の一人が手のひらよりわずかに小さい赤い布らしきものをモニタに映しだそうと差し出した。
(あれは、まさか……)
端は黒く焼け焦げていたが、鮮やかなその赤色には見覚えがあった。
モニタを見たサクライがミヤハラに小声で何か耳打ちした。
大きな声を出さなかったのは、アカシに気を遣ったからであろう。
それに気付いたアカシは、覚悟を決めてサクライに向けて言った。
「赤いスカーフのようですが、見覚えはありますでしょうか?」
「社長、どうですか?」
サクライはミヤハラに問いかけた。
これはミヤハラの見解をあてにしてのことではなく、むしろ自らの見解を他に知られないための方策であるかもしれなかった。
「……エリックはどう思う?」
ミヤハラもサクライに倣ったのか、エリックに問いかけた。
「……損傷が激しいようですし、映像ではよくわかりません。もしかしたら、部屋にもともとあった何かの布でしょうか?」
サクライやミヤハラと違って、ボールを投げる先のないエリックは敢えて断言しないことで対抗した。
「……メルツ室長の持ち物、ということはないでしょうか?」
火中の栗を拾いに行ったのはアカシだった。
未だにECN社のメンバーが全員行方不明であることの責任を感じてのことであった。
ミヤハラはサクライの方に目をやったが、サクライが首を横に振ったので仕方なく自らが口を開くことにした。
「俺もエリックと同じだ。よくわからない。ただ、室長も他の者もまだ見つかっていない。布の持ち主を詮索するのは彼らを見つけてからでよいだろう」
これがアカシを気遣っての発言であれば立派ともいえないこともなかったが、ミヤハラの場合は単に面倒なだけなのだろう、とサクライは看破していた。
ただ、ミヤハラの言う、人の捜索を優先すべきという発言は一定の説得力も持っていた。
そのため、サクライはミヤハラの発言に敢えて反論することはせず、黙っていることで賛同の意を示したのであった。
もっとも、サクライもミヤハラ同様、単に面倒、という気持ちがどこかにあったのは否定できない状況ではあった。
(まだ、ECN社は我々を見捨てていないというのか……何とか期待に添えればよいのだが……)
アカシは画面のミヤハラたちに頭を下げ、防災班に人の捜索を優先するように伝えたのであった。
少し前からサクライの提案で電波の傍受や通信の記録分析などの活動は、ECN社で実行し、IMPUは現場での捜索や救助活動に専念していた。
ついにECN社の関係者が滞在していたエリアの捜索が始まった。
五階の捜索開始から数分後、五○四号室の前で人の上半身が見つかった、という報告がなされた。
報告を受けたアカシ、ミヤハラ、サクライ、エリックに緊張が走る。
さしものミヤハラやサクライも「人の上半身が見つかった」という事実の前には完全な平静を保つことができなかった。
「……どうしますか? 確認されますか?」
通信を通じて防災班から連絡があった。
見つかった遺体を見て確認するか? とミヤハラに問うたのである。
「……お願いする」
サクライの声は重苦しいものであった。
「……では」
モニタに遺体の様子が映し出される。
ミヤハラ、サクライ、エリックとも何度か見たことのある代物であるが、あまり慣れるということはないようだ。
「うちの人間ではなさそうだな……」
最初につぶやいたのはサクライであった。
ところどころ焦げているが、上着は比較的原型をとどめていた。
上着の色や形からホテルの従業員の制服だと思われる。
防災班のメンバーが持物を調べる。
防災班もECN社に気を遣っているのか、映像や音声を通じて詳細に状況を説明している。
持ち物から確認された氏名はECN社の社員のものではなかった。
防災班は氏名と遺体両方について、ホテルの従業員であるかの確認を取ると申し出た。
どうやら防災班は、この遺体について事件と重大な関わり持つ可能性があると見ているようであった。
更に五階の捜索が続く。
五階は爆発による損傷が著しく、爆発のあった五○三号室などは、壁以外はすべて瓦礫、というような状況であった。
このため、遺体が存在したところで、はたして原型を留めているかは大いに疑問視されていた。
アカシは何か見つかるたびに自分の胃袋が雑巾のように絞られるかのような感覚に襲われていた。
(何とか無事でいてくれよ……ECN社さんにこれ以上迷惑はかけられん……)
防災班の一部が五○五号室に入った。
爆発のあった五○三号室の隣の部屋である。
部屋の配置の関係から、五○三号室に接しているのは五○五号室のみであった。
五○三号室と接している壁は爆発でほぼ吹き飛んでおり、部屋の内部も原型を留めていない。
辛うじてベッドと机の残骸のようなものがあるのは映像からも何とか確認できる。
防災班による遺留物の捜索が始まった。
爆発と火災が重なったためか、元が何であったか確認の取れるものはほとんどなく、確認が取れたのはベッド、机、椅子などであった。
「うん? 何だ、これは……服の切れ端か?」
防災班の一人が手のひらよりわずかに小さい赤い布らしきものをモニタに映しだそうと差し出した。
(あれは、まさか……)
端は黒く焼け焦げていたが、鮮やかなその赤色には見覚えがあった。
モニタを見たサクライがミヤハラに小声で何か耳打ちした。
大きな声を出さなかったのは、アカシに気を遣ったからであろう。
それに気付いたアカシは、覚悟を決めてサクライに向けて言った。
「赤いスカーフのようですが、見覚えはありますでしょうか?」
「社長、どうですか?」
サクライはミヤハラに問いかけた。
これはミヤハラの見解をあてにしてのことではなく、むしろ自らの見解を他に知られないための方策であるかもしれなかった。
「……エリックはどう思う?」
ミヤハラもサクライに倣ったのか、エリックに問いかけた。
「……損傷が激しいようですし、映像ではよくわかりません。もしかしたら、部屋にもともとあった何かの布でしょうか?」
サクライやミヤハラと違って、ボールを投げる先のないエリックは敢えて断言しないことで対抗した。
「……メルツ室長の持ち物、ということはないでしょうか?」
火中の栗を拾いに行ったのはアカシだった。
未だにECN社のメンバーが全員行方不明であることの責任を感じてのことであった。
ミヤハラはサクライの方に目をやったが、サクライが首を横に振ったので仕方なく自らが口を開くことにした。
「俺もエリックと同じだ。よくわからない。ただ、室長も他の者もまだ見つかっていない。布の持ち主を詮索するのは彼らを見つけてからでよいだろう」
これがアカシを気遣っての発言であれば立派ともいえないこともなかったが、ミヤハラの場合は単に面倒なだけなのだろう、とサクライは看破していた。
ただ、ミヤハラの言う、人の捜索を優先すべきという発言は一定の説得力も持っていた。
そのため、サクライはミヤハラの発言に敢えて反論することはせず、黙っていることで賛同の意を示したのであった。
もっとも、サクライもミヤハラ同様、単に面倒、という気持ちがどこかにあったのは否定できない状況ではあった。
(まだ、ECN社は我々を見捨てていないというのか……何とか期待に添えればよいのだが……)
アカシは画面のミヤハラたちに頭を下げ、防災班に人の捜索を優先するように伝えたのであった。
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