ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十三章

591:ヌマタのストレスの種

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「やれやれ、朝早くから面倒なこった」
 ススム・カワエことジン・ヌマタはインデストの市街から少し離れた工場の前に立っていた。
「まだ少し時間はありそうだな……」
 そうつぶやいて、携帯端末を開きながら近くの石に腰を下ろす。
「さて、こんな時間じゃ連絡もねーよな……?!」
 期待せずに携帯端末の画面に目をやったが、ヌマタの予想に反して一件の重要メッセージの着信があった。
 (ジンダイの奴か、何か大きなニュースでもあったか?)
 どうせ時間はあるのだし、とメッセージを開いてみる。
 (何だと! 爆発事件でIMPUが、だと!)
 それはニュース記事を集めたものであったが、ヌマタが特に注目したのは、IMPUが朝七時より会見を開く、という文言であった。
 (まったく……早く誰か来やがれよ!)
 ヌマタは未だ到着しない荷物の受取人に向けて悪態をついた。
 LH五二年二月一七日、時刻は日の出の少し前のことである。

 本来なら昨日のうちにこの工場に荷物を届けるところであったが、発送が遅れたため、配送を今日の朝イチに切り替えてほしいと、受取人から依頼されたのであった。
 しかし、悪態をついたところで、受取人の到着が早まるわけでもないことはヌマタ自身も理解している。
 そこで仕方なく、ジンダイからメッセージとともに送られてきた資料に目を通す。
 資料は一般マスコミの報道を集めたもののようであったが、ヌマタの知りたい情報が過不足なくまとめられていた。
 (爆発だと! どこのどいつが何の目的でそんな真似を?!)
 かつてヌマタ自身も同じようなことを企んだが、結果的に彼の手によらずして目的が達成されてしまった。
 彼の場合は敵対する陣営のトップの殺害が目的であった。
 今回の事件は何が目的であろうか?
 インデストでこうした暗殺の対象となる人物がいるとすれば、最初に名前が挙がるのがIMPUのトップであるサン・アカシであろう。
 その次となると意見が分かれるであろうが、有力どころはアカシを除いたIMPUの理事四名、もしくはインデストにおけるOP社のトップであるオソダの名前が挙がると思われる。
 しかし、今回の事件は彼らの生命を狙ったものとは考えにくかった。
 彼ら全員がインデスト市内に住居を構えており、ホテルに宿泊する必要がないためである。
 この時点ではレイカ・メルツを含めたECN社の関係者が爆発事件のあったホテルに宿泊していたという情報は公開されておらず、ヌマタはその事実を把握していない。
 IMPUが会見を開く、となれば事件によってIMPUが何らかの影響を受けている可能性がある、とヌマタは考えていた。
 影響が何であるかはわからないが、嫌な予感がする。

「いまさらどの面下げて行くというのか・? 笑わせるな……」
 エイチ・ハドリ殺害のために故ウォーリー・トワやアカシと離れた自分が、今になってIMPUに顔を出す資格があるだろうか?
 フジミ・タウンにいた頃のヌマタであれば、事件から目を背けたに違いない。
 (IMPU、か。アカシさんのところに何が起こるというのか……
 はん、よからぬことを考える奴は絶えない、ってことかよ……)
 果たしてヌマタの考える「よからぬことを考える奴」は事件を起こした者に向けたものなのか、それとも事件のターゲットとなった者に向けたのか、ヌマタ自身よくわからないでいた。
 ヌマタがハドリの暗殺を企てたのは、彼が弟の敵であるとともに、ウォーリーやアカシを害そうとした「よからぬことを考えた奴」だったためである。
 その企ては、ヌマタ自身の手によらずしてハドリ以外に少なくとも一名の行方不明者と、複数の負傷者を生んだ。
 関係のない他人を巻き込んだことを考えれば、こちらも「よからぬことを考えた奴」だったに違いない。
 報道などで負傷者は全員社会復帰できたと知ったが、行方不明者の所在については未だわかっていない。
 一名の行方不明者、すなわちECN社の社長であったオイゲン・イナに関する手がかりはまったくとして得られていないとのことであった。
 もう一名の行方不明者ハドリについても手掛かりがないと報じられていることをヌマタは知っていたが、ハドリについてはどうなったかその結末を目にしている。
 そのため、彼の興味をひく行方不明者はオイゲン一人であった。
 ヌマタはオイゲンを直接知っているわけではないが、亡くなったウォーリー・トワからオイゲンに関する話は何度か聞いたことがあった。
 それによれば有能だとは言えないかもしれないが、少なくともウォーリーはオイゲンに対して否定的な感情は持っていないようにヌマタには思われた。
 そのオイゲンを巻き込んだことについては、さすがのヌマタにも引っかかる部分がある。
 事件からは既に九ヶ月が過ぎている。
 その間、何の手がかりも得られないとしたら、生存は絶望的であろう。
 ハドリは害されて当然であったと今でも思っているが、オイゲンに対してはそこまでの感情はない。

「くそ、いったい何だというのだ! こっちも早く来いよな……」
 怒りか何かわからない感情をぶつける先に困ったヌマタは、未だ到着しない受取人に八つ当たりした。
 それとほぼ同時に、携帯端末に通信が入った。
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