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第十三章
604:揺れる「判定者とその支援者」
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「サファイア、ダイヤは無事なの?!」
切羽詰まった声で女性が別の女性に尋ねた。
「わかりません。連絡がとれていません」
「誰か、ダイヤが無事か知っている人はいないの?!」
「判定者とその支援者」のメンバーのうち、何名かはインデスト郊外のある建物に居た。
焦りすら感じられる口調でサファイアを問い詰めているのは、グループの実質上のナンバーツー、アレクのコードネームを持つ女性である。
「少しは落ち着いてくださいよ。例の事件にわれわれが関わっていないのは、疑いようのない事実なのですよ」
前髪で顔の隠れた男性がアレクをなだめようと話しかける。
しかし、それで治まるような彼女ではない。
理不尽に対する怒りが、彼女に「判定者とその支援者」のグループを立ち上げさせたのだ。怒りが彼女の行動の原点であり、彼女の存在意義でもあった。
「私たちが関係ないのはわかっているのよ! そうじゃなくて、ダイヤやカイト社長が濡れ衣を着せられているのよ! 彼女たちを救わなくてどうするのよ!」
アレクの声からは怒りと焦りが感じとれる。
「判定者とその支援者」のグループを立ち上げたのはアレクであるが、判定者の中心となるべき人物は彼女自身ではない。
アレク自身はあくまでも「支援者」の側であり、「判定者」はダイヤやサファイアでなければならない、と彼女は考えていた。
そして、ダイヤは「判定者」の資格を持つ中心的な人物である。
そのダイヤが何ら関わりのない罪でその身柄を拘束されつつあるのだ。
彼女はレイカ・メルツらを巻き込んだインデスト市街のホテル爆発事件に関与している疑いをかけられている。
「判定者とその支援者」のコードネーム「ダイヤ」は、ミア・シトリの名でトーカMC社に勤務している。ミア・シトリがダイヤの本名なのだ。
シトリとダイヤの二つの顔を使い分けながら、「判定者とその支援者」とトーカMC社の二つの組織を中心となって支えてきていた。
トーカMC社、「判定者とその支援者」ともに今回のホテル爆発事件とは無関係のはずだ。
何故、トーカMC社やダイヤにこの事件への嫌疑がかけられているのか、その理由がアレクにはよくわからない。
(レイカ・メルツさんやIMPUとトーカMC社は仲がよかったはず、それにダイヤは……)
ダイヤことミア・シトリは、かつてレイカ・メルツと同じジューリックス社に勤務していたことをアレクは知っていた。
ダイヤのレイカに対する感情まではアレクは把握していない。
決してプラスのものだけだとは思えないが、短絡的にことを構えるほどダイヤは愚かではないと確信している。
ことを構えれば、元同僚というのは疑いをかけられやすい立場であるからだ。
(彼女の目的を考えれば、レイカ・メルツに不用意な手出しはしないはず……)
アレクは自分が混乱していることを悟っていた。
あまりにもわからないことが多すぎる。
レイカ・メルツ一行を狙ったのは何者なのか?
今、レイカ・メルツ一行はどこで何をしているのか?
トーカMC社に疑いの目が向けられているのはなぜか?
そして、そう仕向けたのは何者なのか?
これらを知るにはあまりにも情報が少なすぎる。
せめてトーカMC社の状況が確認できれば、と考えてダイヤと連絡を試みたものの、今のところ成功していない。
封鎖されているインデスト市街にいるメンバーと連絡を取ろうとも考えたが、これは今のところアレクの判断で実施していない。
人や物資と異なり通信の出入りに関して表向き制限はないが、通信を傍受される危険があるためだ。
それでもアレクは「判定者とその支援者」のメンバーを通じて情報を集めており、現状については並みのマスコミより正確に把握していた。
現在報じられている情報は、「勉強会」グループがトーカMC社に対して捜査に入るらしい、というだけのものである。
しかし、アレクはトーカMC社の社員らしき人物が何人も街道を社に向かって移動していることや、トーカMC社の通信が遮断されていることなどを既に把握していた。
また、「勉強会」グループがトーカMC社をホテル爆発事件に関与しているという疑いで捜査していることも把握している。
わからないのは、現在の状態を引き起こした背景である。
トーカMC社はアカシをはじめとした、IMPUの中枢寄りの企業であるとはされているが、業種の関係からIMPUの中ではそれほど有力な企業ではない。
ダイヤをはじめとした数名のトーカMC社の社員は「判定者とその支援者」に所属しているが、このことは「判定者とその支援者」のメンバーのみが知っていることである。
また、「判定者とその支援者」は「勉強会」グループを敵としているが、「勉強会」グループは「判定者とその支援者」の存在すら把握していないはずである。
「サファイア、今、封鎖区域外に居るのは誰? その中で連絡が取れない人はわかる?」
アレクの問いにサファイアは確認しますと短く答え、携帯端末と格闘を始める。
言葉や表情の変化が少なく意思や感情が把握しにくい部分はあるが、これはサファイア自身がある事件によって受けたダメージに起因するものだろうとアレクは解釈している。
確認作業にはそれほど時間を要さないだろう。
アレクがそう考えるのはサファイアの処理能力に対する信頼によるものだが、もうひとつ、「判定者とその支援者」が抱えている問題も理由に挙げられる。
「判定者とその支援者」はその活動の目的と比較して、構成しているメンバーの数がお世辞にも多いとはいえない。
このようにメンバーの安否を確認する場合の手間は少なくてよいが、組織としての力の面では不安があるのも確かだ。
「判定者とその支援者」の結成当時は活動の意味を広く訴えてメンバーを増やしていく方針であったが、訴えた相手の反応が芳しくなかった。
このため、現在ではメンバーの増員に対しては慎重な姿勢で臨んでいる。
思うように組織の拡大はできていないが、ポータル・シティを中心に結成された電力事業者管理団体がそれほど市民の支持を得ていないことや、IMPUが組織としての一体感を出すのに苦労しているのを目の当たりにすると、現在の姿勢がベストではないにしてもベターな選択であったのではないかとアレクは感じている。
「結果、出ました」
サファイアの言葉は常に短い。必要以上の言葉を発することをしない性質のようだ。
アレクが内容の詳細を求めると、サファイアが携帯端末を差し出した。
切羽詰まった声で女性が別の女性に尋ねた。
「わかりません。連絡がとれていません」
「誰か、ダイヤが無事か知っている人はいないの?!」
「判定者とその支援者」のメンバーのうち、何名かはインデスト郊外のある建物に居た。
焦りすら感じられる口調でサファイアを問い詰めているのは、グループの実質上のナンバーツー、アレクのコードネームを持つ女性である。
「少しは落ち着いてくださいよ。例の事件にわれわれが関わっていないのは、疑いようのない事実なのですよ」
前髪で顔の隠れた男性がアレクをなだめようと話しかける。
しかし、それで治まるような彼女ではない。
理不尽に対する怒りが、彼女に「判定者とその支援者」のグループを立ち上げさせたのだ。怒りが彼女の行動の原点であり、彼女の存在意義でもあった。
「私たちが関係ないのはわかっているのよ! そうじゃなくて、ダイヤやカイト社長が濡れ衣を着せられているのよ! 彼女たちを救わなくてどうするのよ!」
アレクの声からは怒りと焦りが感じとれる。
「判定者とその支援者」のグループを立ち上げたのはアレクであるが、判定者の中心となるべき人物は彼女自身ではない。
アレク自身はあくまでも「支援者」の側であり、「判定者」はダイヤやサファイアでなければならない、と彼女は考えていた。
そして、ダイヤは「判定者」の資格を持つ中心的な人物である。
そのダイヤが何ら関わりのない罪でその身柄を拘束されつつあるのだ。
彼女はレイカ・メルツらを巻き込んだインデスト市街のホテル爆発事件に関与している疑いをかけられている。
「判定者とその支援者」のコードネーム「ダイヤ」は、ミア・シトリの名でトーカMC社に勤務している。ミア・シトリがダイヤの本名なのだ。
シトリとダイヤの二つの顔を使い分けながら、「判定者とその支援者」とトーカMC社の二つの組織を中心となって支えてきていた。
トーカMC社、「判定者とその支援者」ともに今回のホテル爆発事件とは無関係のはずだ。
何故、トーカMC社やダイヤにこの事件への嫌疑がかけられているのか、その理由がアレクにはよくわからない。
(レイカ・メルツさんやIMPUとトーカMC社は仲がよかったはず、それにダイヤは……)
ダイヤことミア・シトリは、かつてレイカ・メルツと同じジューリックス社に勤務していたことをアレクは知っていた。
ダイヤのレイカに対する感情まではアレクは把握していない。
決してプラスのものだけだとは思えないが、短絡的にことを構えるほどダイヤは愚かではないと確信している。
ことを構えれば、元同僚というのは疑いをかけられやすい立場であるからだ。
(彼女の目的を考えれば、レイカ・メルツに不用意な手出しはしないはず……)
アレクは自分が混乱していることを悟っていた。
あまりにもわからないことが多すぎる。
レイカ・メルツ一行を狙ったのは何者なのか?
今、レイカ・メルツ一行はどこで何をしているのか?
トーカMC社に疑いの目が向けられているのはなぜか?
そして、そう仕向けたのは何者なのか?
これらを知るにはあまりにも情報が少なすぎる。
せめてトーカMC社の状況が確認できれば、と考えてダイヤと連絡を試みたものの、今のところ成功していない。
封鎖されているインデスト市街にいるメンバーと連絡を取ろうとも考えたが、これは今のところアレクの判断で実施していない。
人や物資と異なり通信の出入りに関して表向き制限はないが、通信を傍受される危険があるためだ。
それでもアレクは「判定者とその支援者」のメンバーを通じて情報を集めており、現状については並みのマスコミより正確に把握していた。
現在報じられている情報は、「勉強会」グループがトーカMC社に対して捜査に入るらしい、というだけのものである。
しかし、アレクはトーカMC社の社員らしき人物が何人も街道を社に向かって移動していることや、トーカMC社の通信が遮断されていることなどを既に把握していた。
また、「勉強会」グループがトーカMC社をホテル爆発事件に関与しているという疑いで捜査していることも把握している。
わからないのは、現在の状態を引き起こした背景である。
トーカMC社はアカシをはじめとした、IMPUの中枢寄りの企業であるとはされているが、業種の関係からIMPUの中ではそれほど有力な企業ではない。
ダイヤをはじめとした数名のトーカMC社の社員は「判定者とその支援者」に所属しているが、このことは「判定者とその支援者」のメンバーのみが知っていることである。
また、「判定者とその支援者」は「勉強会」グループを敵としているが、「勉強会」グループは「判定者とその支援者」の存在すら把握していないはずである。
「サファイア、今、封鎖区域外に居るのは誰? その中で連絡が取れない人はわかる?」
アレクの問いにサファイアは確認しますと短く答え、携帯端末と格闘を始める。
言葉や表情の変化が少なく意思や感情が把握しにくい部分はあるが、これはサファイア自身がある事件によって受けたダメージに起因するものだろうとアレクは解釈している。
確認作業にはそれほど時間を要さないだろう。
アレクがそう考えるのはサファイアの処理能力に対する信頼によるものだが、もうひとつ、「判定者とその支援者」が抱えている問題も理由に挙げられる。
「判定者とその支援者」はその活動の目的と比較して、構成しているメンバーの数がお世辞にも多いとはいえない。
このようにメンバーの安否を確認する場合の手間は少なくてよいが、組織としての力の面では不安があるのも確かだ。
「判定者とその支援者」の結成当時は活動の意味を広く訴えてメンバーを増やしていく方針であったが、訴えた相手の反応が芳しくなかった。
このため、現在ではメンバーの増員に対しては慎重な姿勢で臨んでいる。
思うように組織の拡大はできていないが、ポータル・シティを中心に結成された電力事業者管理団体がそれほど市民の支持を得ていないことや、IMPUが組織としての一体感を出すのに苦労しているのを目の当たりにすると、現在の姿勢がベストではないにしてもベターな選択であったのではないかとアレクは感じている。
「結果、出ました」
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