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第十三章
605:端末の異変
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サファイアの情報によれば、連絡の取れないメンバーが八名いる。
うち確実に封鎖区域内に居ることがわかっている者が五名、二名は封鎖区域内外のいずれに居るか不明で、残りの一名がダイヤであるとのことであった。
ダイヤやトーカMC社に何が起こっているのか?
連絡の取れないメンバーの状況はどうなっているのか?
アレクはこれらの情報を自らの足で獲得する必要を感じた。
足での情報収集に関して、「判定者とその支援者」の中に彼女に勝る者はない。
「ゴールド、私はこれから連絡の取れない人たちの状況を確認してきます。留守をお願い!」
そう告げてアレクはカメラと携帯端末を抱えながら、外へと飛び出した。
やはり自らの足で確かめてみないことには納得できない。これはアレクの習性といってよい。
彼らが現在潜伏している拠点からトーカMC社の本社はアレクの足で二〇分ほどだ。
そしてトーカMC社への道の途中に「判定者とその支援者」が持つ別の拠点がある。
この拠点の状況もアレクの気にかかる。
「判定者とその支援者」は、インデスト市街にひとつ、郊外にふたつの計みっつの拠点を持っている。
さきほどまでアレクがいた拠点は「レッド」と呼ばれ、インデスト市街にあるのは「イエロー」と呼ばれている。
アレクが気にしているのは「グリーン」と呼ばれる拠点で、トーカMC社が見える場所にある。
「グリーン」の拠点は、みっつの拠点の中でも特別な存在である。
通常、彼らは「グリーン」の拠点をメインに活動を行っている。
この拠点はトーカMC社のネットワークシステムに接続できる環境を有している。
彼らはそこで、IMPUに所属する企業や作業者、そして簡易宿泊所の利用者の情報などを見守っている。
これはトーカMC社本社と「グリーン」の拠点の間に隠された通信経路があることを意味している。
(あの経路はそう簡単には発見できないはず……)
隠し経路を作ったのはアレクの仕業だ。
故ウォーリー・トワやエリック・モトムラといった一流のエンジニアには到底及ばないが、彼女にはECN社の中堅エンジニアに匹敵する技術力がある。
トーカMC社の捜査にECN社が介入すれば、彼女の仕掛けた隠し経路は容易に発見されてしまうだろうが、ECN社が捜査に介入するとしても、その時期は少し先になるであろう。
その前に証拠となる経路を消してしまえば、「判定者とその支援者」の存在を隠しておくことができる、アレクはそう考えた。
そうなれば、彼女の行動は早い。
周辺への警戒を怠ることなく、早足で「グリーン」の拠点へと向かっていく。
(さすがに人の行き来はないわね……)
もともとこのあたりは人の往来は多くないが、人の姿が見えないというのは珍しい。
ついにアレクは誰の姿も見ることなく、「グリーン」の拠点が見える場所に到達した。
もちろん、周辺を調べることなく拠点の中に入るようなことはしない。
「グリーン」の拠点は閉鎖した宿泊施設をアレクが買い取って、表向きは楽器や演劇などの練習場として使うことができる貸しスペースとなっている。
周辺は住居もまばらであり、音や振動で近所に迷惑をかけることがないためだ。
インデストの市街からそれほど離れておらず、かつ安価であったため、利用者も少なくない。
人の出入りが多少多くても周辺に怪しまれることがないため、「判定者とその支援者」が身を隠すにはうってつけの場所であった。
本来であれば、ここ「グリーン」の拠点にメンバーを招集する。
しかし、今回はトーカMC社が疑われているということで、これに近すぎる「グリーン」の拠点に多くの者を出入りさせる危険を避け、あえて離れた「レッド」の拠点にメンバーを集めたのである。
(中に人の気配はないわね……)
周囲の安全を確認した後、アレクは正面から「グリーン」の拠点に入った。
(あとは通信経路を切るだけ)
アレクは「オフィス」と書かれた扉を開け、中に入る。
「判定者とその支援者」が通常使っている部屋はオフィスの更に奥の部屋である。
アレクは奥へと進み、トーカMC社との経路がある端末の前に立った。
ここで、トーカMC社のネットワークシステムとの経路を断ち切れば、当面は問題ない……はずであった。
(……? 誰かここへ来た?)
昨日、アレク自身が端末を使って以来、この端末に触れた者はいないはずであった。
しかし、端末にはその後に操作された形跡があった。
(この場所で操作されたわけではない、となると遠隔操作? 一体誰が?)
端末そのものに手を触れた形跡はなかったが、どこか他所の場所から操作されたと思われる記録が残されていた。
操作したという事実を隠そうとした形跡はない。
この手の操作ができる者として、アレクが思いつくのはダイヤかサファイアの二名である。
アレクは冷静に操作された時刻を調べる。
操作されたのは三〇分ほど前のことで、恐らく身柄を拘束されているであろうダイヤとは考えにくい。
一方、アレクの知るサファイアは、指示なしにこの手の行動を取るとは考えにくかった。
彼女は指示を受けない限り、自分の担当範囲外のことには手を出さない性質である。
(まさか……気づかれた?!)
何者かはわからないが、外部の者に経路の存在を知られたという可能性を考えざるを得なくなった。
操作の事実を隠蔽しない理由はアレクには解らないが、何らかの警告ではないだろうかと推測した。
うち確実に封鎖区域内に居ることがわかっている者が五名、二名は封鎖区域内外のいずれに居るか不明で、残りの一名がダイヤであるとのことであった。
ダイヤやトーカMC社に何が起こっているのか?
連絡の取れないメンバーの状況はどうなっているのか?
アレクはこれらの情報を自らの足で獲得する必要を感じた。
足での情報収集に関して、「判定者とその支援者」の中に彼女に勝る者はない。
「ゴールド、私はこれから連絡の取れない人たちの状況を確認してきます。留守をお願い!」
そう告げてアレクはカメラと携帯端末を抱えながら、外へと飛び出した。
やはり自らの足で確かめてみないことには納得できない。これはアレクの習性といってよい。
彼らが現在潜伏している拠点からトーカMC社の本社はアレクの足で二〇分ほどだ。
そしてトーカMC社への道の途中に「判定者とその支援者」が持つ別の拠点がある。
この拠点の状況もアレクの気にかかる。
「判定者とその支援者」は、インデスト市街にひとつ、郊外にふたつの計みっつの拠点を持っている。
さきほどまでアレクがいた拠点は「レッド」と呼ばれ、インデスト市街にあるのは「イエロー」と呼ばれている。
アレクが気にしているのは「グリーン」と呼ばれる拠点で、トーカMC社が見える場所にある。
「グリーン」の拠点は、みっつの拠点の中でも特別な存在である。
通常、彼らは「グリーン」の拠点をメインに活動を行っている。
この拠点はトーカMC社のネットワークシステムに接続できる環境を有している。
彼らはそこで、IMPUに所属する企業や作業者、そして簡易宿泊所の利用者の情報などを見守っている。
これはトーカMC社本社と「グリーン」の拠点の間に隠された通信経路があることを意味している。
(あの経路はそう簡単には発見できないはず……)
隠し経路を作ったのはアレクの仕業だ。
故ウォーリー・トワやエリック・モトムラといった一流のエンジニアには到底及ばないが、彼女にはECN社の中堅エンジニアに匹敵する技術力がある。
トーカMC社の捜査にECN社が介入すれば、彼女の仕掛けた隠し経路は容易に発見されてしまうだろうが、ECN社が捜査に介入するとしても、その時期は少し先になるであろう。
その前に証拠となる経路を消してしまえば、「判定者とその支援者」の存在を隠しておくことができる、アレクはそう考えた。
そうなれば、彼女の行動は早い。
周辺への警戒を怠ることなく、早足で「グリーン」の拠点へと向かっていく。
(さすがに人の行き来はないわね……)
もともとこのあたりは人の往来は多くないが、人の姿が見えないというのは珍しい。
ついにアレクは誰の姿も見ることなく、「グリーン」の拠点が見える場所に到達した。
もちろん、周辺を調べることなく拠点の中に入るようなことはしない。
「グリーン」の拠点は閉鎖した宿泊施設をアレクが買い取って、表向きは楽器や演劇などの練習場として使うことができる貸しスペースとなっている。
周辺は住居もまばらであり、音や振動で近所に迷惑をかけることがないためだ。
インデストの市街からそれほど離れておらず、かつ安価であったため、利用者も少なくない。
人の出入りが多少多くても周辺に怪しまれることがないため、「判定者とその支援者」が身を隠すにはうってつけの場所であった。
本来であれば、ここ「グリーン」の拠点にメンバーを招集する。
しかし、今回はトーカMC社が疑われているということで、これに近すぎる「グリーン」の拠点に多くの者を出入りさせる危険を避け、あえて離れた「レッド」の拠点にメンバーを集めたのである。
(中に人の気配はないわね……)
周囲の安全を確認した後、アレクは正面から「グリーン」の拠点に入った。
(あとは通信経路を切るだけ)
アレクは「オフィス」と書かれた扉を開け、中に入る。
「判定者とその支援者」が通常使っている部屋はオフィスの更に奥の部屋である。
アレクは奥へと進み、トーカMC社との経路がある端末の前に立った。
ここで、トーカMC社のネットワークシステムとの経路を断ち切れば、当面は問題ない……はずであった。
(……? 誰かここへ来た?)
昨日、アレク自身が端末を使って以来、この端末に触れた者はいないはずであった。
しかし、端末にはその後に操作された形跡があった。
(この場所で操作されたわけではない、となると遠隔操作? 一体誰が?)
端末そのものに手を触れた形跡はなかったが、どこか他所の場所から操作されたと思われる記録が残されていた。
操作したという事実を隠そうとした形跡はない。
この手の操作ができる者として、アレクが思いつくのはダイヤかサファイアの二名である。
アレクは冷静に操作された時刻を調べる。
操作されたのは三〇分ほど前のことで、恐らく身柄を拘束されているであろうダイヤとは考えにくい。
一方、アレクの知るサファイアは、指示なしにこの手の行動を取るとは考えにくかった。
彼女は指示を受けない限り、自分の担当範囲外のことには手を出さない性質である。
(まさか……気づかれた?!)
何者かはわからないが、外部の者に経路の存在を知られたという可能性を考えざるを得なくなった。
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