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第十三章
608:迫る危機から
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「ところでシトリさん、御社の社員の方は一箇所の簡易宿泊所にどのくらいの期間、滞在されるのでしょうか?」
「通常は三日から五日です。ここ三ヶ月のシフト表ならすぐに提示できますので確認されてみては?」
「勉強会」グループの女性からの問いに対し、ダイヤは表面上冷静に答えている。
「簡易宿泊所に滞在される社員の方は、管理端末を使うことができますか?」
「ええ、弊社の従業員であれば全員利用できます」
「では、外部の方が管理端末を使うことは可能ですか?」
この質問に対しては、ダイヤは少し考えるそぶりを見せた。
だが、それも数秒のことで、落ち着いた口調で答え始める。
「技術的なことは詳しくないので担当の者に説明させますが、端末は管理人室に置かれていますし、プロテクトをかけてあるので、これらを抜けない限りはできないはずです」
ダイヤと「勉強会」グループの女性との会話からトーカMC社の管理端末上にある情報が問題視されているらしい、とアレクは推測した。
思わぬ方向に話が展開している、と思った瞬間、アレクは重大な問題に気づいた。
トーカMC社のシステムに疑いの目が向いているのであれば、そこから情報を得ている
「判定者とその支援者」の存在に気づかれる恐れがある。
「情報の出所」を調査するのであれば、トーカMC社のシステムの接続先はすべて調査の対象となり得るのだ。
ダイヤが捜査担当者の相手をしている限り、「判定者とその支援者」の存在を隠蔽するであろうが、その動きにも限界はあるはずだ。
一方、「勉強会」グループの調査能力ならば、「グリーン」の拠点を突き止めるまでは時間を要する可能性がある。今なら対策をとることができるかもしれない。
「勉強会」グループはシステムの専門家ではないからだ。だが、油断はできない。
専門家であるECN社が調査に乗り出さない保障はないし、OP社も一定水準の調査能力は有しているように思われる。
何者かがトーカMC社のシステムから情報を得ていることなど、ECN社かOP社が調査すればたちまち判明してしまうだろう。それでも情報を得ているのが「判定者とその支援者」であるというところまで突き止めるのには多少時間を要するだろうが。
他にも問題はある。
トーカMC社のシステムと繋がっている「判定者とその支援者」の痕跡は他にも残されている。
もちろん、痕跡を残さないように細心の注意を払ってはいるのだが、それにも限界がある。
「判定者とその支援者」ではインデスト市街のメンバーとの連絡の一部をトーカMC社のシステムを経由して実施している。
インデスト市街に潜伏している特定の二人のメンバーの所在を「勉強会」グループに突き止められると、「判定者とその支援者」の計画に大きな影響が出る可能性がある。
(ジェイドとジンクの存在を知られると面倒なことになるわね……)
インデスト市街に確実に居ることがわかっている五名のうち二名は、他のメンバーとは異なる役割を持って市街に潜伏している。
その二人とは「ジェイド」のコードネームを持つ男性と、「ジンク」のコードネームを持つ女性である。
彼らは「判定者とその支援者」の切り札ともいえる存在であった。
その彼らの身柄を「勉強会」グループに押さえられた場合、「判定者とその支援者」の活動の正当性を訴えるのは困難になる。
問題はそれだけではない。
「勉強会」グループがトーカMC社にあるどのような情報を探っているのか、その内容も「判定者とその支援者」に大きく影響する可能性がある。
アレクがトーカMC社の社屋へ視線を戻すと、建物のドアを開けるダイヤの姿が見えた。
どうやら外側の調査が終わったらしい。
(彼らが探っている情報を知るには時間がかかりそうね……)
アレクはこれからの行動について決断を迫られていた。
この場に留まって「勉強会」グループが探っている情報が何かを確かめるか。
拠点へと戻り、対策を打つのか。
どちらの案にも長所短所があるが、アレクは拠点へ戻る道を選択した。
「判定者とその支援者」に迫る危機に対して、もっとも効果的に手を打つことができる者はアレクだからだ。
これは、持っている情報と「判定者とその支援者」の中での役割によるものだ。
ダイヤを欠いている今、「判定者とその支援者」の司令塔はアレクに他ならない。
中心的なメンバーという点では、サファイア、ゴールドなどが該当するが、彼らはその性質や持っている役割から司令塔役として適任とはいい難い面がある。
一方、捜査に入っているのが「勉強会」グループであるのならば、こちらの情報収集はアレク以外にも適任者がいる。ゴールドだ。
彼は「勉強会」グループに出入りし、彼らの情報を収集している。
アレクが今回の捜査のことを知ったのも、発端はゴールドがもたらした「勉強会」グループの動きに関する情報からである。
ダイヤらが建物の中に入ったのを確認した後、アレクは二台のカメラを鞄に入れ、気配を消しながら小走りでその場を後にした。
「通常は三日から五日です。ここ三ヶ月のシフト表ならすぐに提示できますので確認されてみては?」
「勉強会」グループの女性からの問いに対し、ダイヤは表面上冷静に答えている。
「簡易宿泊所に滞在される社員の方は、管理端末を使うことができますか?」
「ええ、弊社の従業員であれば全員利用できます」
「では、外部の方が管理端末を使うことは可能ですか?」
この質問に対しては、ダイヤは少し考えるそぶりを見せた。
だが、それも数秒のことで、落ち着いた口調で答え始める。
「技術的なことは詳しくないので担当の者に説明させますが、端末は管理人室に置かれていますし、プロテクトをかけてあるので、これらを抜けない限りはできないはずです」
ダイヤと「勉強会」グループの女性との会話からトーカMC社の管理端末上にある情報が問題視されているらしい、とアレクは推測した。
思わぬ方向に話が展開している、と思った瞬間、アレクは重大な問題に気づいた。
トーカMC社のシステムに疑いの目が向いているのであれば、そこから情報を得ている
「判定者とその支援者」の存在に気づかれる恐れがある。
「情報の出所」を調査するのであれば、トーカMC社のシステムの接続先はすべて調査の対象となり得るのだ。
ダイヤが捜査担当者の相手をしている限り、「判定者とその支援者」の存在を隠蔽するであろうが、その動きにも限界はあるはずだ。
一方、「勉強会」グループの調査能力ならば、「グリーン」の拠点を突き止めるまでは時間を要する可能性がある。今なら対策をとることができるかもしれない。
「勉強会」グループはシステムの専門家ではないからだ。だが、油断はできない。
専門家であるECN社が調査に乗り出さない保障はないし、OP社も一定水準の調査能力は有しているように思われる。
何者かがトーカMC社のシステムから情報を得ていることなど、ECN社かOP社が調査すればたちまち判明してしまうだろう。それでも情報を得ているのが「判定者とその支援者」であるというところまで突き止めるのには多少時間を要するだろうが。
他にも問題はある。
トーカMC社のシステムと繋がっている「判定者とその支援者」の痕跡は他にも残されている。
もちろん、痕跡を残さないように細心の注意を払ってはいるのだが、それにも限界がある。
「判定者とその支援者」ではインデスト市街のメンバーとの連絡の一部をトーカMC社のシステムを経由して実施している。
インデスト市街に潜伏している特定の二人のメンバーの所在を「勉強会」グループに突き止められると、「判定者とその支援者」の計画に大きな影響が出る可能性がある。
(ジェイドとジンクの存在を知られると面倒なことになるわね……)
インデスト市街に確実に居ることがわかっている五名のうち二名は、他のメンバーとは異なる役割を持って市街に潜伏している。
その二人とは「ジェイド」のコードネームを持つ男性と、「ジンク」のコードネームを持つ女性である。
彼らは「判定者とその支援者」の切り札ともいえる存在であった。
その彼らの身柄を「勉強会」グループに押さえられた場合、「判定者とその支援者」の活動の正当性を訴えるのは困難になる。
問題はそれだけではない。
「勉強会」グループがトーカMC社にあるどのような情報を探っているのか、その内容も「判定者とその支援者」に大きく影響する可能性がある。
アレクがトーカMC社の社屋へ視線を戻すと、建物のドアを開けるダイヤの姿が見えた。
どうやら外側の調査が終わったらしい。
(彼らが探っている情報を知るには時間がかかりそうね……)
アレクはこれからの行動について決断を迫られていた。
この場に留まって「勉強会」グループが探っている情報が何かを確かめるか。
拠点へと戻り、対策を打つのか。
どちらの案にも長所短所があるが、アレクは拠点へ戻る道を選択した。
「判定者とその支援者」に迫る危機に対して、もっとも効果的に手を打つことができる者はアレクだからだ。
これは、持っている情報と「判定者とその支援者」の中での役割によるものだ。
ダイヤを欠いている今、「判定者とその支援者」の司令塔はアレクに他ならない。
中心的なメンバーという点では、サファイア、ゴールドなどが該当するが、彼らはその性質や持っている役割から司令塔役として適任とはいい難い面がある。
一方、捜査に入っているのが「勉強会」グループであるのならば、こちらの情報収集はアレク以外にも適任者がいる。ゴールドだ。
彼は「勉強会」グループに出入りし、彼らの情報を収集している。
アレクが今回の捜査のことを知ったのも、発端はゴールドがもたらした「勉強会」グループの動きに関する情報からである。
ダイヤらが建物の中に入ったのを確認した後、アレクは二台のカメラを鞄に入れ、気配を消しながら小走りでその場を後にした。
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