ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十三章

612:ポータル・シティで今起きていること その1

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 少し考えるそぶりを見せていたサイリが、そういえば、と前置きして尋ねる。
「その……『はじまりの丘』では、ハモネスの電子新聞や雑誌は普通に読めますか?」
「新聞でも雑誌でも主だったところのものなら、大抵はありますよ」
 ホンゴウが静かに答えた。
「あら? ホンゴウさんは、新聞や雑誌をそんなに細かくチェックしていたの?」
 ホンゴウの言葉にカネサキが即座に反応した。意外に思ったのだ。
「ええ、まあ。ハモネスやポータル・シティなどの状況も気になりますしね……」
 そう答えて言葉を切った後、ホンゴウは再び話を始めた。
「サイリさん、ゴウザさん。ご存知かもしれませんが、私はかつてOP社のパトロール・チームという部署のトップという立場にありました……」
「マネージャーから事情は伺っています」
 ホンゴウの言葉に、サイリが少し緊張した面持ちで答えた。
 サイリが答えたのは、後でわかったことであるが、等級上はサイリのほうがゴウザより上の立場だったためだ。サイリの方がゴウザより一年年長でECN社でも一年先輩になる。

「何をしていた部署なのか、新聞や雑誌をご覧になっていただければわかると思います」
 ホンゴウの言葉に会議室内に緊張が走った。
 恐らく通信を受けている本社側も同様に違いなかった。
「……」
 ロビーが無言で身構えた。
 ホンゴウは静か語っている。
「……こういった者もいるので、よく思わない人がいるのも無理はないでしょうね」
 ホンゴウはあくまで淡々と、といった調子だった。
 彼が抱えているものがどれほどなのか、ロビーには計り知れない。
 しかし、ホンゴウの過去がどのようなものであれ、「東部探索隊」に受け入れた時点でそれを問うことはしないとロビーは決めていた。
 そして、少なくともロビーが率いていた第一次隊にホンゴウの過去を問う者はなかった。
 この手のことには手厳しいと思われたカネサキですら、ホンゴウの過去については一切触れることがなかった。

「他人がどう思おうと関係ない、『東部探索隊』はその目的を達成するための活動をするだけだ。参加するかどうかは『はじまりの丘』に着くまでに決めてくれればいい」
 ロビーは思わずこう口にしていた。
 エリックから聞かされていたことだが、サイリとゴウザはミヤハラ達「タブーなきエンジニア集団」のメンバーがECN社に戻った際にエリックのタスクユニットに配属された者たちであった。
 エリックのタスクユニットは「タブーなきエンジニア集団」関係者のたまり場、のような目で見られており、ECN社の古参の社員からは必ずしも好意的な目を向けられていない。
 同様に第二次隊のロビーの隊のメンバーは、ホンゴウを除く四名が「タブーなきエンジニア集団」、ホンゴウがOP社の出身であり、ECN社本社では必ずしも快く思われていない背景を持っている。
 「はじまりの丘」にいる五名と本社にいる二名は社内で快く思われない存在であるという点においてよく似ている。よく思われないのはホンゴウ一人ではない。

「私の意志は決まっています。あくまで参加ですっ!」
 ロビーに問われるまでもないとばかりに、サイリが答えた。
「ゴウザさんはどうなんだ?」
 サイリの反応があまりにも速かったので、ゴウザが答えにくいだろうと考え、ロビーは敢えてゴウザに問い直した。
「私も同じです。こちらには志願して行くのですから」
「ちょっと待って、貴方たち何かあったの!?」
 カネサキが飛び出して、ロビーと画面との間に割って入った。
 彼らの意思が強すぎる、と感じたらしい。
 言われてみれば、ロビーが参加の意思を確認したときの反応が鋭すぎるように思われる。
「……確か二人とも、『タブーなきエンジニア集団』に所属したことはなかったよな?」
 と尋ねたものの、ロビーは自分の質問が彼らから感じる鋭さの原因を突き止めるのには不向きだとすぐに考え直した。
「質問を変えよう……」
「私もゴウザも『タブーなきエンジニア集団』に所属したことはありません。ですがっ!」
 ロビーが続く言葉を発しかけたところで、ゴウザが手をサイリの前で広げて叫んだ。
「……構わない。こちらでどうできるかはわからないが悪いようにはしない。話してみてくれ」
 ただならぬ様子にロビーがその身を屈めるようにして、画面に向かって話しかけた。
 一九〇センチを超えるロビーの長身では、こうでもしないと画面の二人と目線の高さを合わせることができないのだ。
 サイリははじめ、それに対して躊躇する仕草を見せた。
 しかし、ロビーが構わないというと、ゴウザに私から話すわと目配せしてから話し始めた。
「……皆さんの中に、ポータル中央駅の北側にご自宅のある方はいらっしゃいますか? ブロックで言うとBとかCあたりになりますけど……」
 サイリの言う場所は、確かにモリタの家のあたりだ、とロビーは思った。
 ゴジョウに実家のあるロビーを含めて、全員が首を横に振った。
 五人のうち、ポータル・シティに自宅があるのはホンゴウ一人であり、親兄弟や親類が住んでいるという条件でも他にはコナカしか該当しない。
 なら、ご存じないのは当然ですね、と前置きしてからサイリが状況を説明し始めた。
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