ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十三章

615:戻ってこない親友

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 サイリ、ゴウザの二名との通信による顔合わせを終えたロビーは、自室へと引き上げた。
 彼自身は既に出立の準備を済ませており、取り急ぎやるべきことを抱えてはいなかった。
 出発まで二日というのに急に手持ち無沙汰になってしまう。
 あれほど時間がないのに、今は暇を持て余そうとしている。不思議なものだ。
 上手くいかないものだな、とぼやいているうちにロビーはやるべきことを思いついた。

 (たまには、外のことも調べておかないとな)
 ロビーは携帯端末を広げ、ニュース情報を片っ端からチェックする。
 記事からはゴウザやサイリの話よりも更に厳しい状況が見てとれる。
 モリタは大丈夫であろうか?
 ふと、別れて仕事をしている友人のことを思い出す。
 ロビーは当初、モリタを「東部探索隊」に参加させるつもりであった。
 しかし、広報企画室長レイカ・メルツの強い要望により、モリタはOP社へ発電技術者として派遣された。
 派遣を要請したレイカはインデスト郊外のどこかで潜伏を余儀なくされているし、モリタのいるOP社を取り囲む状況は非常に厳しい。
 特に発電技術者は電力供給不足の主犯とみなされることが多く、市民などから厳しい目を向けられることもある。
 モリタの立場も末端の発電技術者であるはずだ。かなり厳しい状況に置かれているのではないかとロビーは推測した。

「今回の探索が終わったら、モリタに会ってみるか……奴のことだから完全に参っているかもしれん」
 モリタと最後に顔を合わせたのは昨年の八月、「東部探索隊」がECN社本社を出発した日である。
 それから既に半年が経過している。
 「はじまりの丘」からならば、モリタの携帯端末と直接連絡を取ることも可能である。
 しかし、ロビーは第一次隊の情報整理と第二次隊の準備などで多忙であり、ついついモリタへの連絡を後回しにしていたのだ。
 ここでロビーはあることに気付いた。
「待てよ……モリタにセスのことは知らされているのか……?」
 セスが亡くなったのは、ここ「はじまりの丘」である。
 もともとの住人であるフェイ・イヴ・ユニヴァースを除けば、付近にいるのはECN社の関係者のみである。
 そのため、セスの死についてはユニヴァースとECN社の一部の者だけに知らされている。
 遠く離れたポータル・シティのOP社にいるモリタに直接情報が入る可能性は低い。
 エリックかレイカがモリタに伝えていれば可能性はあるだろうが、彼らも多忙を極める身なので期待できないかもしれない。
 現に、ロビーにセスの死が伝えられたのも「はじまりの丘」に戻った後だった。

(いつかは伝えなきゃならないが、少なくとも文章で伝えることじゃないな……)
 最悪でも通信で、自分の話す言葉で伝えなければ、友人とはいえ礼を失するだろう、とロビーは考えた。
 そこで第二次隊の出発までにモリタと通信が繋がればそのときに、そうでなければ帰還後に話をしようとロビーは決めた。

 報道を見るだけで、今のOP社に対する世間の目が感じとれる。
 所属は異なるとはいえ、OP社で働くモリタにも相当なプレッシャーがかかっているに違いなかった。
 OP社といえば身近にも元関係者がいることをロビーは思い出した。
 街で見かけて強引に「東部探索隊」に引きずり込んでしまったが、現在の状況は彼にとっても気が気ではないだろう。
 この状況でホンゴウがハモネスやポータル・シティに移動すれば、世間の目は彼に向くのではないか? とロビーは思う。それも考え得る最も厳しい視線が向くはずだ。
 彼━━ヒロ・ホンゴウは、発電技術者ではなかったが、彼らよりも更に責めを受けかねない立場にあった。
 ロビーはOP社でホンゴウが何をしていたか、すべてを把握している訳ではない。
 しかし、その立場から、相当に非人道的なことも行っていたであろうことは推測していた。
 不意にホンゴウを「東部探索隊」に勧誘したときのことを思い出す。

 ※※

「東部探索隊」の参加者を探しているとき、ふと街で見かけたホンゴウは、あまりにも目立たなかった。
 周辺にもその人物がホンゴウだと気づいている者はいなかったようだ。
 OP社治安改革部隊所属時代はマスコミの前に姿を現すことも多かった彼であるが、知られているのはヘルメットやゴーグルなどで顔を隠した姿だったためだ。
 ロビーも一度彼の前を通り過ぎて数十メートルほど進んでから、彼の正体に気づいたくらいだ。
(確かOP社は辞めたとニュースで言っていたな……)
 ロビーはホンゴウに社員証を見せ、自らの立場を明らかにしてから、ホンゴウを近くの喫茶店へ連れ込んだ。
 OP社のパトロール・チームを率いていた人物が、これほどにも目立たず、かつ温厚で真面目そうだとは、ロビーにとっては意外であった。
 ロビーは最初からホンゴウに目をつけていた訳ではない。
 たまたま街で見かけてその経歴を思い出し、適任ではないかと考え、勢いのまま声をかけただけの話だ。
 最初は戸惑っていたホンゴウも、ロビーがエリックの部下だと説明すると、話を聞くことを承知したのだった。
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