197 / 304
第十三章
617:後顧の憂いを断つ
しおりを挟む
「ホンゴウさん、ハモネスやポータルの状況はニュースとかで見ていますよね? あの状況で本社やポータルに異動しろ、と言われても従うのですか?」
実際のところ、ロビーはホンゴウの本心を読み誤っていた。
それはロビーの洞察力が低いというより、彼のデータベースには本来存在しない考えであったためだ。
「正直なところ、私が決めるべきことではないでしょう。私がOP社でしてきたことを考えれば仕方のないことだと……」
ホンゴウのこの言葉を聞いたとき、ロビーの脳裏にはっと閃くものがあった。
身近に同じ反応を見せる人物がもう一人いたことを思い出したのだった。
(そういえば、コナカさんが同じようなことを言っていたな……)
かつてのロビーには想像もつかないことであったが、世の中には自分のことを自ら決める権利がないと考える者がいる。
ホンゴウもそうした考えを持っているのだろう。
(俺の予想が正しいのならば……俺が決めなければ後悔するな)
「……わかりました。ここは俺に一任させてもらえないでしょうか? 悪いようにはしないつもりです」
ロビーは自身が持つ最良の選択肢を提示してみせた。かなり虫の良い話であるが、それでも示さずに後悔するという選択肢はなかった。
「タカミさんにお任せします」
答えるホンゴウの言葉に迷いがあるようには見えない。
やはりこうするのがベストなのだろう、とロビーは考えた。
ホンゴウや彼の家族をポータル・シティやハモネスの周辺に置くのは危険が大きい。
市民のOP社に対する感情を考えれば、その矛先がホンゴウに向く可能性も十分に考えられる。
発電技術者たちを治安改革部隊として率いていたのは彼だ。
正確にはホンゴウともう一人、オオカワも彼らを率いていたのだが、オオカワは現在も行方不明ということになっている。
実はオオカワは、現在「リスク管理研究所」に身を潜めている。
しかし、「リスク管理研究所」がオオカワの在籍を明らかにしていないため、ロビーはその事実を把握していない。
このため、治安改革部隊関係者に非難の矢が浴びせられるとしたら、その的はホンゴウ以外にない、とロビーは考えたのである。
一方で「東部探索隊」には、第二次隊が帰還した後も、発見された居住可能区域の開発や、移動経路の確保など山のように仕事が残されている。
開発が急ピッチで進んだとしても、一般市民が「東部探索隊」の活動区域に入り込むにはまだまだ時間がかかるだろう。
ならば、ホンゴウやその家族を「東部探索隊」の活動区域に置いておけないだろうか?
子供は就職したばかりでハモネスの近所で仕事をしているそうなので、そこからの移動は難しいかもしれない。
ただ、家族に危害が及ぶ前に手を打っておく必要があるだろう、とロビーは考えている。
「そういえば、お子さんは何のお仕事をされているのでしたっけ?」
「え、娘ですか?」
「差し支えなければ教えてもらえないですかね?」
「……ハモネス郊外の農業会社に住み込みで勤務しています。OP社での私の仕事が嫌われたようで、できるだけOP社の影響が及ばないところを選んだようです」
「郊外ってどのあたりですか?」
「ヤエドという集落です。ハモネスの中心部からだと歩いて一時間強、といったところでしょうか」
ホンゴウの答えを聞いて、ロビーは怪訝な表情を見せた。
ハモネスから「はじまりの丘」に向かう街道の周辺には、いくつかの小集落があり、ヤエドはそのひとつである。
こうした小集落の農業事情に詳しい者であれば、花きの生産地だと気付いたであろう。
しかし、農業事情に通じてもいなければ、観葉植物などには興味もないロビーにとっては聞きなれぬ地名である。
「あのな、ホンゴウさん。俺はポータルやハモネスが落ち着くまでホンゴウさんには、『東部探索隊』に残ってもらいたいと思っている」
「わかりました」
「……多分、長期戦になる。娘さんは住み込みで仕事をしているから難しいとは思うが、奥さんを『はじまりの丘』に呼び寄せることはできないだろうか?」
「……」
ホンゴウが言葉を詰まらせた。
意図は伝わっているようだ、とロビーは確信した。
今のところ報告はないが、ハモネスやポータル・シティの市民感情を考えれば、いずれホンゴウの家族に危害が及ぶ可能性はあるように思える。
ロビーの申し出は、ホンゴウとその家族の安全を考えてのものであった。
ロビーは近いうちに「発電技術者が足りない原因を作った張本人はホンゴウである」と短絡的に考える市民が相当数出るのではないか、と考えている。
「東部探索隊」において、ホンゴウは重要な人物である。
また、ロビーがこれまで接してきた限り、ホンゴウは他人や業務に対して真摯な人物だと思える。
発電技術者をOP社に戻さなかったのも、彼らの意思を尊重した結果ではないか?
ロビー自身の我儘かもしれないが、このような人物を市民に処断させることは彼自身の矜持が許容できない。
だからこそ、彼やその家族を市民の手の届かないところに置こうと考えたのだ。
「今すぐにとは言わない。奥さんに話をしてみて、反応だけでも教えてもらえないだろうか?」
ホンゴウは少し考えてから、わかりました、と答えた。
ホンゴウから彼の妻が「はじまりの丘」行きを承諾したと連絡があったのは、翌日の昼食後のことであった。
これでようやく、ロビーは第二次隊の探索作業に専念できる環境を手に入れたのであった。
実際のところ、ロビーはホンゴウの本心を読み誤っていた。
それはロビーの洞察力が低いというより、彼のデータベースには本来存在しない考えであったためだ。
「正直なところ、私が決めるべきことではないでしょう。私がOP社でしてきたことを考えれば仕方のないことだと……」
ホンゴウのこの言葉を聞いたとき、ロビーの脳裏にはっと閃くものがあった。
身近に同じ反応を見せる人物がもう一人いたことを思い出したのだった。
(そういえば、コナカさんが同じようなことを言っていたな……)
かつてのロビーには想像もつかないことであったが、世の中には自分のことを自ら決める権利がないと考える者がいる。
ホンゴウもそうした考えを持っているのだろう。
(俺の予想が正しいのならば……俺が決めなければ後悔するな)
「……わかりました。ここは俺に一任させてもらえないでしょうか? 悪いようにはしないつもりです」
ロビーは自身が持つ最良の選択肢を提示してみせた。かなり虫の良い話であるが、それでも示さずに後悔するという選択肢はなかった。
「タカミさんにお任せします」
答えるホンゴウの言葉に迷いがあるようには見えない。
やはりこうするのがベストなのだろう、とロビーは考えた。
ホンゴウや彼の家族をポータル・シティやハモネスの周辺に置くのは危険が大きい。
市民のOP社に対する感情を考えれば、その矛先がホンゴウに向く可能性も十分に考えられる。
発電技術者たちを治安改革部隊として率いていたのは彼だ。
正確にはホンゴウともう一人、オオカワも彼らを率いていたのだが、オオカワは現在も行方不明ということになっている。
実はオオカワは、現在「リスク管理研究所」に身を潜めている。
しかし、「リスク管理研究所」がオオカワの在籍を明らかにしていないため、ロビーはその事実を把握していない。
このため、治安改革部隊関係者に非難の矢が浴びせられるとしたら、その的はホンゴウ以外にない、とロビーは考えたのである。
一方で「東部探索隊」には、第二次隊が帰還した後も、発見された居住可能区域の開発や、移動経路の確保など山のように仕事が残されている。
開発が急ピッチで進んだとしても、一般市民が「東部探索隊」の活動区域に入り込むにはまだまだ時間がかかるだろう。
ならば、ホンゴウやその家族を「東部探索隊」の活動区域に置いておけないだろうか?
子供は就職したばかりでハモネスの近所で仕事をしているそうなので、そこからの移動は難しいかもしれない。
ただ、家族に危害が及ぶ前に手を打っておく必要があるだろう、とロビーは考えている。
「そういえば、お子さんは何のお仕事をされているのでしたっけ?」
「え、娘ですか?」
「差し支えなければ教えてもらえないですかね?」
「……ハモネス郊外の農業会社に住み込みで勤務しています。OP社での私の仕事が嫌われたようで、できるだけOP社の影響が及ばないところを選んだようです」
「郊外ってどのあたりですか?」
「ヤエドという集落です。ハモネスの中心部からだと歩いて一時間強、といったところでしょうか」
ホンゴウの答えを聞いて、ロビーは怪訝な表情を見せた。
ハモネスから「はじまりの丘」に向かう街道の周辺には、いくつかの小集落があり、ヤエドはそのひとつである。
こうした小集落の農業事情に詳しい者であれば、花きの生産地だと気付いたであろう。
しかし、農業事情に通じてもいなければ、観葉植物などには興味もないロビーにとっては聞きなれぬ地名である。
「あのな、ホンゴウさん。俺はポータルやハモネスが落ち着くまでホンゴウさんには、『東部探索隊』に残ってもらいたいと思っている」
「わかりました」
「……多分、長期戦になる。娘さんは住み込みで仕事をしているから難しいとは思うが、奥さんを『はじまりの丘』に呼び寄せることはできないだろうか?」
「……」
ホンゴウが言葉を詰まらせた。
意図は伝わっているようだ、とロビーは確信した。
今のところ報告はないが、ハモネスやポータル・シティの市民感情を考えれば、いずれホンゴウの家族に危害が及ぶ可能性はあるように思える。
ロビーの申し出は、ホンゴウとその家族の安全を考えてのものであった。
ロビーは近いうちに「発電技術者が足りない原因を作った張本人はホンゴウである」と短絡的に考える市民が相当数出るのではないか、と考えている。
「東部探索隊」において、ホンゴウは重要な人物である。
また、ロビーがこれまで接してきた限り、ホンゴウは他人や業務に対して真摯な人物だと思える。
発電技術者をOP社に戻さなかったのも、彼らの意思を尊重した結果ではないか?
ロビー自身の我儘かもしれないが、このような人物を市民に処断させることは彼自身の矜持が許容できない。
だからこそ、彼やその家族を市民の手の届かないところに置こうと考えたのだ。
「今すぐにとは言わない。奥さんに話をしてみて、反応だけでも教えてもらえないだろうか?」
ホンゴウは少し考えてから、わかりました、と答えた。
ホンゴウから彼の妻が「はじまりの丘」行きを承諾したと連絡があったのは、翌日の昼食後のことであった。
これでようやく、ロビーは第二次隊の探索作業に専念できる環境を手に入れたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる