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第十三章
618:ヌマタ、インデスト市街入りを決意す
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「インデストの市街に入る目処はまだ立たないか?」
ヌマタの言葉は苛立ちを隠してはいなかった。
まだのようですね、すみません、と答えてジンダイが首を横に振った。
レイカ・メルツらが行方不明となるきっかけとなったホテルの爆発事件からは一週間以上が経過している。
事件後、インデスト市街への出入りが厳しく制限され、運送業者といえども容易に市街に立ち入ることができなくなっていた。
昨日になってようやくインデスト市街への出入りが一部許されるようにはなった。
ただし、そのための条件は未だ非常に厳しい。
市街に入るのはともかく、出るほうは非常な困難を伴う。
現在のところ、市街から出ることを許されているのは、次のような者だけである。
街道や運送業者向けの宿泊所、通信などのインフラの整備を行う者。
郊外や他の都市での加療を必要とする病人とその家族、および医療関係者。
そして、事前に許可を受けた運送業者、である。
また、市街から外に出る際、病人と医療関係者以外の者は街道沿いに設けられた検問所に少なくとも七二時間拘束されることになる。
ヌマタがインデスト市街に出入りするならば、有力なのは運送業者の線なのだが、これには大きな問題がある。
まず、市街に入るための理由も必要だ。
市街に配達する荷物があるのが一番良いのだが、現在のところヌマタのいるピーター・ウェル農場やその周辺からインデスト市街へ配達する荷物がない状態なのだ。
帰り、すなわち市街から外に出る方はさらに問題だ。
市街から出る際に七二時間も検問所に拘束されるとなると、ヌマタの正体が白日の下にさらされる可能性が高い。
その根拠は検問所で検問を行っているのがIMPUの関係者だとされているからだ。ヌマタがOP社のもと従業員であることなど、調査すればたちまち明らかにされてしまうだろう。
アカシに対してはともかく、他の者に対してヌマタは正体を明らかにする気がない。
あの日━━「オーシャン・リゾート」が爆発した日、ジン・ヌマタは死んだのだ。
(……いや、違う。奴の、ハドリの暗殺を決め、トワさんから別れたとき、俺は死んだのだったな……)
ヌマタはまったく、とつぶやいてから自嘲気味に笑った。
「行方不明になったレイカ・メルツさん達も見つかっていないようですし、どうなっちゃっているのでしょうね?」
ジンダイの言葉には面白味がないが、ヌマタにとってタイミングがよかった。
我に返るまでの時間を得られたヌマタは、気を取り直し、ジンダイに向かって答えた。
「アカシさんや組合が思うように動けていないみたいだからな。大方、アカシさんを嫌っている連中が妨害しているのだろうよ」
「確かにああいった活動が嫌いな方は少なくないでしょうからね。アカシさんも災難ですね」
「まったく、困ったものだ、ウォーリー・トワさんが生きていれば、話は違ったのだろうけどな」
そうですね、と言いかけて不意にジンダイの言葉が止まる。
「カワエさん、これは……」
ジンダイが携帯端末の画面を指差す。
「何だ? レイカ・メルツの居場所の手がかりでもあったのか?」
ヌマタが画面を覗き込む。
画面に映っているのは、建物を取り囲む群衆であった。
建物には見覚えがある。
それは、IMPUの本部として使われている建物であった。
IMPUの本部になる前、ヌマタはこの建物に何度も出入りしていた。
更にヌマタの目を引いたのは、群集が持っている横断幕やプラカードの類である。
今回のホテルの爆発事件を解決できないことを糾弾するもの。
地熱発電所の火災事件を起こしたとされる組合員とアカシとの関係を糾弾するもの。
アカシをはじめとした幹部の退陣を求めるもの。
などである。
特にヌマタが怒りを覚えたのは、地熱発電所の火災事件に関するものであった。
確かに犯人とされているのは労働者組合の組合員であり、組合の設立者はアカシである。
しかし、アカシがインデストの治安を乱すために組合を設立したなどというのは完全に言いがかりだとヌマタには思える。
エクザロームの法はそうなっていないが、エクザロームに住む多くの市民のルーツとなった国では組合設立は労働者の権利として当然のように認められていたはずだ。
それに、そもそも犯人とされている組合員が事件に関与しているかどうかも怪しいというのがヌマタの見解だ。
ジンダイの見せた画像は静止画であったので群集の細かい様子までは把握できないが、一触即発に近い状態に見える。
それ以外にも現在、トーカMC社がアカシの暗殺を企てたとして「勉強会」グループの捜査を受けている。
これもアカシによからぬ感情を持つ者が少なくないことの証左であろうとヌマタは考えている。
少なくともヌマタの知る限りでは、トーカMC社とIMPUの関係は良好なものであったし、トーカMC社側にアカシを恨む理由などが存在するとは思えない。
ヌマタの予想以上に、アカシを取り囲む状勢は確実に悪いものになっているようだ。
(……一度死んだ俺だが、これは行かねばなるまい)
「……カワエさん?」
「ジンダイ、なるべく早くインデスト市街に入る手はずを整えてくれ」
ヌマタの言葉にジンダイが素直にうなずいた。
ヌマタの言葉は苛立ちを隠してはいなかった。
まだのようですね、すみません、と答えてジンダイが首を横に振った。
レイカ・メルツらが行方不明となるきっかけとなったホテルの爆発事件からは一週間以上が経過している。
事件後、インデスト市街への出入りが厳しく制限され、運送業者といえども容易に市街に立ち入ることができなくなっていた。
昨日になってようやくインデスト市街への出入りが一部許されるようにはなった。
ただし、そのための条件は未だ非常に厳しい。
市街に入るのはともかく、出るほうは非常な困難を伴う。
現在のところ、市街から出ることを許されているのは、次のような者だけである。
街道や運送業者向けの宿泊所、通信などのインフラの整備を行う者。
郊外や他の都市での加療を必要とする病人とその家族、および医療関係者。
そして、事前に許可を受けた運送業者、である。
また、市街から外に出る際、病人と医療関係者以外の者は街道沿いに設けられた検問所に少なくとも七二時間拘束されることになる。
ヌマタがインデスト市街に出入りするならば、有力なのは運送業者の線なのだが、これには大きな問題がある。
まず、市街に入るための理由も必要だ。
市街に配達する荷物があるのが一番良いのだが、現在のところヌマタのいるピーター・ウェル農場やその周辺からインデスト市街へ配達する荷物がない状態なのだ。
帰り、すなわち市街から外に出る方はさらに問題だ。
市街から出る際に七二時間も検問所に拘束されるとなると、ヌマタの正体が白日の下にさらされる可能性が高い。
その根拠は検問所で検問を行っているのがIMPUの関係者だとされているからだ。ヌマタがOP社のもと従業員であることなど、調査すればたちまち明らかにされてしまうだろう。
アカシに対してはともかく、他の者に対してヌマタは正体を明らかにする気がない。
あの日━━「オーシャン・リゾート」が爆発した日、ジン・ヌマタは死んだのだ。
(……いや、違う。奴の、ハドリの暗殺を決め、トワさんから別れたとき、俺は死んだのだったな……)
ヌマタはまったく、とつぶやいてから自嘲気味に笑った。
「行方不明になったレイカ・メルツさん達も見つかっていないようですし、どうなっちゃっているのでしょうね?」
ジンダイの言葉には面白味がないが、ヌマタにとってタイミングがよかった。
我に返るまでの時間を得られたヌマタは、気を取り直し、ジンダイに向かって答えた。
「アカシさんや組合が思うように動けていないみたいだからな。大方、アカシさんを嫌っている連中が妨害しているのだろうよ」
「確かにああいった活動が嫌いな方は少なくないでしょうからね。アカシさんも災難ですね」
「まったく、困ったものだ、ウォーリー・トワさんが生きていれば、話は違ったのだろうけどな」
そうですね、と言いかけて不意にジンダイの言葉が止まる。
「カワエさん、これは……」
ジンダイが携帯端末の画面を指差す。
「何だ? レイカ・メルツの居場所の手がかりでもあったのか?」
ヌマタが画面を覗き込む。
画面に映っているのは、建物を取り囲む群衆であった。
建物には見覚えがある。
それは、IMPUの本部として使われている建物であった。
IMPUの本部になる前、ヌマタはこの建物に何度も出入りしていた。
更にヌマタの目を引いたのは、群集が持っている横断幕やプラカードの類である。
今回のホテルの爆発事件を解決できないことを糾弾するもの。
地熱発電所の火災事件を起こしたとされる組合員とアカシとの関係を糾弾するもの。
アカシをはじめとした幹部の退陣を求めるもの。
などである。
特にヌマタが怒りを覚えたのは、地熱発電所の火災事件に関するものであった。
確かに犯人とされているのは労働者組合の組合員であり、組合の設立者はアカシである。
しかし、アカシがインデストの治安を乱すために組合を設立したなどというのは完全に言いがかりだとヌマタには思える。
エクザロームの法はそうなっていないが、エクザロームに住む多くの市民のルーツとなった国では組合設立は労働者の権利として当然のように認められていたはずだ。
それに、そもそも犯人とされている組合員が事件に関与しているかどうかも怪しいというのがヌマタの見解だ。
ジンダイの見せた画像は静止画であったので群集の細かい様子までは把握できないが、一触即発に近い状態に見える。
それ以外にも現在、トーカMC社がアカシの暗殺を企てたとして「勉強会」グループの捜査を受けている。
これもアカシによからぬ感情を持つ者が少なくないことの証左であろうとヌマタは考えている。
少なくともヌマタの知る限りでは、トーカMC社とIMPUの関係は良好なものであったし、トーカMC社側にアカシを恨む理由などが存在するとは思えない。
ヌマタの予想以上に、アカシを取り囲む状勢は確実に悪いものになっているようだ。
(……一度死んだ俺だが、これは行かねばなるまい)
「……カワエさん?」
「ジンダイ、なるべく早くインデスト市街に入る手はずを整えてくれ」
ヌマタの言葉にジンダイが素直にうなずいた。
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