201 / 304
第十四章
620:状況は「判定者とその支援者」に味方せず、か?
しおりを挟む
「勉強会」グループの動向に関する情報を携えてゴールドがインデスト市街から戻ってきた。
そして、息を整える間も惜しいといわんばかりに報告を始める。
「まずダイヤさんの居場所ですが、これは明らかにできませんでした。取調べを受けていて、容疑を認めていないことだけはわかっています」
アレクにとって予想された答えではあるのだが、何故かダイヤを拘束している「勉強会」グループより、ゴールドの話しぶりのほうが腹立たしかった。
「また、トーカMC社のカイト社長や、他の従業員の方も、容疑については認めていないそうです」
「容疑、というのはレイカ・メルツの宿泊していたホテルの爆発事件ね?」
「いいえ、そうではありません」
アレクの問いにゴールドは首を横に振った。
「じゃあ、何だっていうの?」
そう言いかけて、アレクは思い出した。
確か「勉強会」グループが捜査しているときに、確かにダイヤはこう言った。
「『既に起きてしまった』事件の対応に手を取られていることは承知しておりますが、弊社も長期間業務を止められてしまうと影響がありますので」
ホテルの爆発事件は、「既に起きてしまった」事件である。
そして、ダイヤの台詞は「勉強会」グループが未だ起きていない事件について調べていることを意味しているように思われた。
「皆さん、トーカMC社が今調べられているのは、社の施設からインデスト市街で暴動を起こす計画と、IMPU代表のサン・アカシ氏を暗殺する計画が発見されたからです」
ゴールドの報告に部屋のあちこちで驚嘆の声が挙がる。
トーカMC社にはミア・シトリの名でダイヤが入り込んでいる。
ダイヤはトーカMC社のナンバーツーの立場にある。
トーカMC社は小さな企業であり、ダイヤの立場なら社内全体が十分に見渡せる規模である。
こうした状況で、ダイヤがそのような計画が社内にあることに気づかないとは考えにくい。
「その計画、というのはどうやって見つかったのだろうか? 個人的には見つかることなく成功して欲しかったのだが」
今まで黙って腕組みしていた青年がそうつぶやいた。
さすがに看過できないと、アレクが口を挟む。
「プラチナ、口を慎みなさい。貴方の気持ちはわからないでもないけど、今はアカシ代表より『勉強会』グループを警戒するべきよ」
プラチナがアカシやIMPUに良い感情を持っていないことは、アレクも知っている。
プラチナの置かれた状況ではそれも無理のないことではあるが、アカシやIMPUそのものに矛先を向けるのは、相手が違うのではないか、と思う。
「……でも、確かにダイヤが計画に気づかないのは変ね。そのあたり、ゴールドはどう考えているの?」
「それは……」
アレクの問いはゴールドも想定していたらしく、携帯端末を映写モードにして部屋の壁面に映像を映し出す。
映像では「勉強会」グループの動きが時系列で示されていた。
ゴールドの情報によれば、計画はトーカMC社のコンピュータに記録されていたとのことであった。
「判定者とその支援者」のメンバーには知りえないことであったが、このデータはトーカMC社が運営する簡易宿泊所からジン・ヌマタが抜き出してきたものと同じものであった。
問題のデータが保存されていたコンピュータには、外部のネットワークからも理論上は接続可能とのことであった。
ただし、外部から侵入された形跡は見当たらないという。
また、データそのものにはプロテクトがかけられていた。
しかし、トーカMC社の簡易宿泊所の管理人が通常使用している認証チップで解除可能なものであったため、容疑者は社内の者の可能性が高いとされているようであった。
「簡易宿泊所の管理をやっている連中だけで計画を立てたとしたら、本社に詰めているダイヤさんが計画に気づかない可能性は十分に考えられる。それか……」
「ゴールド、他に何があるっていうの?」
「トーカMC社が誰かに嵌められた、という可能性ですよ、アレク」
「何てこと……」
ゴールドの言葉にアレクが顔をしかめた。
トーカMC社は社長のルマリィ・カイトの経歴からマスコミなどに取り上げられる機会が多いため、インデストでは知名度がある。
それは彼女やトーカMC社に対して、よからぬ感情を持つ者も少なくないことを意味している。
トーカMC社がアカシをはじめとしたIMPU幹部と近い存在とされていることから、現在のIMPUの体制を面白く思っていない者からすれば、絶好の攻撃対象ではある。
「俺もニュースで見ただけだから詳しく知らないが、最近はIMPUの本部の周辺で頻繁にデモが起きているようだからな。トーカMC社までもが反発したとなれば、今の幹部にはとんでもない痛手だぜ」
人の悪い笑みを浮かべてそう言ったのはプラチナであった。
「それは、『勉強会』グループにとっては願ったりかなったりね。『勉強会』グループがどこまで関わっているか判るかしら、ゴールド?」
アレクの問いに対して、ゴールドは「関わっている可能性は高いが、決定的な証拠が得られていない」と答えた。
「インデストの一般の人たちは『勉強会』グループをどう見ているのかしら?」
アレクとしてはインデスト市民の「勉強会」グループに対する評価が気になる。
彼らへの市民の支持が高まると、「判定者とその支援者」の活動が困難になる、と考えているためだ。
ゴールドの知る限りでは、「勉強会」グループの最近の活動に対して否定的な市民は少ないとのことであった。以前と比較して市民の信頼を多く得るようになってきているらしい。
「勉強会」グループに対して否定的なのは、労働者組合のメンバーが中心であり、こちらは少数派とゴールドは見ているようであった。
そして、息を整える間も惜しいといわんばかりに報告を始める。
「まずダイヤさんの居場所ですが、これは明らかにできませんでした。取調べを受けていて、容疑を認めていないことだけはわかっています」
アレクにとって予想された答えではあるのだが、何故かダイヤを拘束している「勉強会」グループより、ゴールドの話しぶりのほうが腹立たしかった。
「また、トーカMC社のカイト社長や、他の従業員の方も、容疑については認めていないそうです」
「容疑、というのはレイカ・メルツの宿泊していたホテルの爆発事件ね?」
「いいえ、そうではありません」
アレクの問いにゴールドは首を横に振った。
「じゃあ、何だっていうの?」
そう言いかけて、アレクは思い出した。
確か「勉強会」グループが捜査しているときに、確かにダイヤはこう言った。
「『既に起きてしまった』事件の対応に手を取られていることは承知しておりますが、弊社も長期間業務を止められてしまうと影響がありますので」
ホテルの爆発事件は、「既に起きてしまった」事件である。
そして、ダイヤの台詞は「勉強会」グループが未だ起きていない事件について調べていることを意味しているように思われた。
「皆さん、トーカMC社が今調べられているのは、社の施設からインデスト市街で暴動を起こす計画と、IMPU代表のサン・アカシ氏を暗殺する計画が発見されたからです」
ゴールドの報告に部屋のあちこちで驚嘆の声が挙がる。
トーカMC社にはミア・シトリの名でダイヤが入り込んでいる。
ダイヤはトーカMC社のナンバーツーの立場にある。
トーカMC社は小さな企業であり、ダイヤの立場なら社内全体が十分に見渡せる規模である。
こうした状況で、ダイヤがそのような計画が社内にあることに気づかないとは考えにくい。
「その計画、というのはどうやって見つかったのだろうか? 個人的には見つかることなく成功して欲しかったのだが」
今まで黙って腕組みしていた青年がそうつぶやいた。
さすがに看過できないと、アレクが口を挟む。
「プラチナ、口を慎みなさい。貴方の気持ちはわからないでもないけど、今はアカシ代表より『勉強会』グループを警戒するべきよ」
プラチナがアカシやIMPUに良い感情を持っていないことは、アレクも知っている。
プラチナの置かれた状況ではそれも無理のないことではあるが、アカシやIMPUそのものに矛先を向けるのは、相手が違うのではないか、と思う。
「……でも、確かにダイヤが計画に気づかないのは変ね。そのあたり、ゴールドはどう考えているの?」
「それは……」
アレクの問いはゴールドも想定していたらしく、携帯端末を映写モードにして部屋の壁面に映像を映し出す。
映像では「勉強会」グループの動きが時系列で示されていた。
ゴールドの情報によれば、計画はトーカMC社のコンピュータに記録されていたとのことであった。
「判定者とその支援者」のメンバーには知りえないことであったが、このデータはトーカMC社が運営する簡易宿泊所からジン・ヌマタが抜き出してきたものと同じものであった。
問題のデータが保存されていたコンピュータには、外部のネットワークからも理論上は接続可能とのことであった。
ただし、外部から侵入された形跡は見当たらないという。
また、データそのものにはプロテクトがかけられていた。
しかし、トーカMC社の簡易宿泊所の管理人が通常使用している認証チップで解除可能なものであったため、容疑者は社内の者の可能性が高いとされているようであった。
「簡易宿泊所の管理をやっている連中だけで計画を立てたとしたら、本社に詰めているダイヤさんが計画に気づかない可能性は十分に考えられる。それか……」
「ゴールド、他に何があるっていうの?」
「トーカMC社が誰かに嵌められた、という可能性ですよ、アレク」
「何てこと……」
ゴールドの言葉にアレクが顔をしかめた。
トーカMC社は社長のルマリィ・カイトの経歴からマスコミなどに取り上げられる機会が多いため、インデストでは知名度がある。
それは彼女やトーカMC社に対して、よからぬ感情を持つ者も少なくないことを意味している。
トーカMC社がアカシをはじめとしたIMPU幹部と近い存在とされていることから、現在のIMPUの体制を面白く思っていない者からすれば、絶好の攻撃対象ではある。
「俺もニュースで見ただけだから詳しく知らないが、最近はIMPUの本部の周辺で頻繁にデモが起きているようだからな。トーカMC社までもが反発したとなれば、今の幹部にはとんでもない痛手だぜ」
人の悪い笑みを浮かべてそう言ったのはプラチナであった。
「それは、『勉強会』グループにとっては願ったりかなったりね。『勉強会』グループがどこまで関わっているか判るかしら、ゴールド?」
アレクの問いに対して、ゴールドは「関わっている可能性は高いが、決定的な証拠が得られていない」と答えた。
「インデストの一般の人たちは『勉強会』グループをどう見ているのかしら?」
アレクとしてはインデスト市民の「勉強会」グループに対する評価が気になる。
彼らへの市民の支持が高まると、「判定者とその支援者」の活動が困難になる、と考えているためだ。
ゴールドの知る限りでは、「勉強会」グループの最近の活動に対して否定的な市民は少ないとのことであった。以前と比較して市民の信頼を多く得るようになってきているらしい。
「勉強会」グループに対して否定的なのは、労働者組合のメンバーが中心であり、こちらは少数派とゴールドは見ているようであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる