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第十四章
621:「判定者とその支援者」のねらい
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(このままでは、彼らの罪を明るみに出したところで、市民がこちらの話を聞いてくれなくなる可能性が高いわね……)
市民感情、特にIMPUに関係する企業に勤務する従業員やその家族が持っているそれに対しては、自分自身よりもゴールドの感覚が当たっているとアレクは考えている。
アレク自身はほぼ常にインデスト市街の外に常駐しており、肌で市民の感情に接する機会がほとんどなかった。
このため、街中の生の情報はダイヤとゴールドが、それ以外はアレクとサファイアが中心となって収集を担当するようになっていた。
生の情報の収集を進めていく過程で、インデスト市街と、市街の外とで住民感情が微妙に異なることもわかってきた。
「ゴールド、今私達が持っている情報を公にして、インデストの市民はそれを信じると思う?」
念のためアレクはゴールドに確認を取る。
「判定者とその支援者」の目的は、「判定者」に「ある事件に関与した者達」を裁かせる機会を作ることである。
そして、その機会を得るためには、自分達が持っている情報を世間に認めさせることが重要だとアレクは考えている。
「……今のままでは難しい。組合のメンバーには我々の味方になる人も結構いるでしょうけど、世間は彼らを支持しないでしょう」
ゴールドの答えはアレクの考えに近いものであった。
IMPUが設立された時点では、状況が「判定者とその支援者」に味方するとアレクたちは考えていた。
OP社がインデストの鉱工業の実権を握っていたときはOP社による市民の監視が厳しく、「判定者とその支援者」は、必要な情報を集めることもままならなかった。
しかし、IMPUが立ち上がってからはこうした監視もなくなり、彼らは自由に活動できるようになった。
それによって、彼らが裁くべきとしている、ある事件に関与した者たちの所在が次々と明らかになっていったのだ。
しかし、インデスト各所で次々に事件が発生してから「勉強会」グループが急速に台頭し、今やIMPUの幹部よりも市民の支持を得ている状況である。
アレクから見れば「勉強会」グループは、第二のOP社を目指しているとしか思えない。
ゴールドの報告からも随所にその兆候は見てとれるし、事実、現在のIMPUの幹部に取って代わる意志を明確に表している。
また、「勉強会」グループの動きは、「判定者とその支援者」が裁こうと考えている者の所在を巧みに隠そうとしているようにさえ見える。
このまま「勉強会」グループへの市民の支持が強まれば、「判定者とその支援者」の活動の継続が困難になることも考えられる。
どうしたものか、とアレクが考えていると、部屋の片隅から声が挙がった、
「サファイアさん、それって……」
声の主はリードのコードネームを持つ温厚な青年だ。
声が微かに震えているように聞こえるのは、何か問題となるようなことがあるからだろう。
あまり気が大きい青年ではないので、大したことではないかもしれないが、念のためアレクが確認する。
「サファイア、リード、何が起きたの?」
アレクの問いにリードがサファイアに答えるよう身振りで促した。
サファイアは表情ひとつ変えることなく、事務的な口調で答える。
「『EMいのちの守護者の会』が、シホ・サツガ会長名で『勉強会』グループへの支持を表明しました。
それと同時にIMPUの現在の幹部に対して、『インデストの治安を悪化させ、子供たちの安全を脅かした』という非難声明を発表しました」
サファイアの答えに部屋のあちこちから驚きの声が挙がった。
(……ついに来たわね。肝心のダイヤが動けないこのタイミングで!)
アレクが舌打ちした。不快感を隠そうともしていない。
というのも「EMいのちの守護者の会」こそ、「判定者とその支援者」のターゲットの親玉であったからだ。アレクは苦労して親玉を突き止めたのであった。
IMPUや「勉強会」グループに所属しているのは、親玉の手足となった実行犯がほとんどであると、過去の調査で明らかになっていた。
これが「判定者とその支援者」が、自ら抱えている情報を明らかにしない要因でもあった。
末端の者たちを裁いても、肝心の親玉に逃げられては彼らの本来の目的を達成することはできないからだ。
親玉に裁きを下すことこそ、「判定者とその支援者」が設立された目的なのだから。
ガン! ガン!
不意に部屋のドアが乱暴にノックされる。
ノックの直後、部屋の中からの返答も待たずに勢いよくドアが開かれた。
「ちょっといいか、入るぞ!」
それは部屋の中にいる「判定者とその支援者」のメンバーにとって聞き覚えのある声であった。少なくとも敵ではない。
「……ハイド、どうぞ」
「失礼する」
アレクの声に応じて部屋の中に入ってきたのは、土で汚れた作業着姿の青年であった。
息が上がっているのは、慌ててここに駆けつけてきたからに違いない。
市民感情、特にIMPUに関係する企業に勤務する従業員やその家族が持っているそれに対しては、自分自身よりもゴールドの感覚が当たっているとアレクは考えている。
アレク自身はほぼ常にインデスト市街の外に常駐しており、肌で市民の感情に接する機会がほとんどなかった。
このため、街中の生の情報はダイヤとゴールドが、それ以外はアレクとサファイアが中心となって収集を担当するようになっていた。
生の情報の収集を進めていく過程で、インデスト市街と、市街の外とで住民感情が微妙に異なることもわかってきた。
「ゴールド、今私達が持っている情報を公にして、インデストの市民はそれを信じると思う?」
念のためアレクはゴールドに確認を取る。
「判定者とその支援者」の目的は、「判定者」に「ある事件に関与した者達」を裁かせる機会を作ることである。
そして、その機会を得るためには、自分達が持っている情報を世間に認めさせることが重要だとアレクは考えている。
「……今のままでは難しい。組合のメンバーには我々の味方になる人も結構いるでしょうけど、世間は彼らを支持しないでしょう」
ゴールドの答えはアレクの考えに近いものであった。
IMPUが設立された時点では、状況が「判定者とその支援者」に味方するとアレクたちは考えていた。
OP社がインデストの鉱工業の実権を握っていたときはOP社による市民の監視が厳しく、「判定者とその支援者」は、必要な情報を集めることもままならなかった。
しかし、IMPUが立ち上がってからはこうした監視もなくなり、彼らは自由に活動できるようになった。
それによって、彼らが裁くべきとしている、ある事件に関与した者たちの所在が次々と明らかになっていったのだ。
しかし、インデスト各所で次々に事件が発生してから「勉強会」グループが急速に台頭し、今やIMPUの幹部よりも市民の支持を得ている状況である。
アレクから見れば「勉強会」グループは、第二のOP社を目指しているとしか思えない。
ゴールドの報告からも随所にその兆候は見てとれるし、事実、現在のIMPUの幹部に取って代わる意志を明確に表している。
また、「勉強会」グループの動きは、「判定者とその支援者」が裁こうと考えている者の所在を巧みに隠そうとしているようにさえ見える。
このまま「勉強会」グループへの市民の支持が強まれば、「判定者とその支援者」の活動の継続が困難になることも考えられる。
どうしたものか、とアレクが考えていると、部屋の片隅から声が挙がった、
「サファイアさん、それって……」
声の主はリードのコードネームを持つ温厚な青年だ。
声が微かに震えているように聞こえるのは、何か問題となるようなことがあるからだろう。
あまり気が大きい青年ではないので、大したことではないかもしれないが、念のためアレクが確認する。
「サファイア、リード、何が起きたの?」
アレクの問いにリードがサファイアに答えるよう身振りで促した。
サファイアは表情ひとつ変えることなく、事務的な口調で答える。
「『EMいのちの守護者の会』が、シホ・サツガ会長名で『勉強会』グループへの支持を表明しました。
それと同時にIMPUの現在の幹部に対して、『インデストの治安を悪化させ、子供たちの安全を脅かした』という非難声明を発表しました」
サファイアの答えに部屋のあちこちから驚きの声が挙がった。
(……ついに来たわね。肝心のダイヤが動けないこのタイミングで!)
アレクが舌打ちした。不快感を隠そうともしていない。
というのも「EMいのちの守護者の会」こそ、「判定者とその支援者」のターゲットの親玉であったからだ。アレクは苦労して親玉を突き止めたのであった。
IMPUや「勉強会」グループに所属しているのは、親玉の手足となった実行犯がほとんどであると、過去の調査で明らかになっていた。
これが「判定者とその支援者」が、自ら抱えている情報を明らかにしない要因でもあった。
末端の者たちを裁いても、肝心の親玉に逃げられては彼らの本来の目的を達成することはできないからだ。
親玉に裁きを下すことこそ、「判定者とその支援者」が設立された目的なのだから。
ガン! ガン!
不意に部屋のドアが乱暴にノックされる。
ノックの直後、部屋の中からの返答も待たずに勢いよくドアが開かれた。
「ちょっといいか、入るぞ!」
それは部屋の中にいる「判定者とその支援者」のメンバーにとって聞き覚えのある声であった。少なくとも敵ではない。
「……ハイド、どうぞ」
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