ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

622:明かされたターゲット

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 部屋の中に作業着姿の青年が入ってきた。彼にはハイドのコードネームが与えられている。
 息を切らせているところを見ると、走ってここまで来たのであろう。
「『勉強会』の連中な、この辺りで何か嗅ぎまわっているぞ。連中の狙いがわからんが、ここも危なくなるかも知れねえ!」
 ハイドは「判定者とその支援者」の活動に直接的には関わっていないが、資金や活動場所の提供という形で彼らに協力している。

 現在、メンバーが集まっているレッドの拠点も彼が保有している建物を無料で借り受けているのだ。
「彼らが我々の所在を知っているとは思えないけどな」
 プラチナがそう指摘した。
 所在を知らない者を追いかける理由がないじゃないか、とその表情は訴えていた。
「プラチナ、それはないと思う。アレクさんがいるのを知られたらアウトだ」
 そう言ってゴールドが表情を曇らせた。
「……まあいい、危なくなったら俺ん家の倉庫の地下が空いているから、そこに逃げてこい。そこならしばらくは大丈夫だ。じゃあな」
 必要なことを伝えると、ハイドは部屋から足早に出ていった。
「……ありがとう。危なくなったら使わせてもらうわね」
 アレクは去っていくハイドの背中に感謝の言葉を伝えた。

「俺はアレクの昔の仕事のことはよく知らないが、『勉強会』の連中が我々の存在を知っている、というのはその絡みなのか?」
 プラチナの質問にアレクは、そうだと答えた。
「『EMいのちの守護者の会』は、私が昔、追いかけて取材していた相手。彼らに救われた子供も多いし、善良な人たちが多くいることも知っている……」
 アレクはそこでいったん言葉を切って、呼吸を整える。
「……けど、限りなく危険で、彼らによって破滅の道を歩むことになった人も少なくないわ」
 そしてアレクはサファイアの方にちらり、と目をやる。
 しかし、サファイアはそれに対して何の反応も見せなかった。
 続けて今度はシルバーのコードネームを持つ青年の方にも目をやった。
 シルバーは強く肯いた。
「……私達が追いかけているのは、そうやって人生を狂わされた人たちが引き起こした事件なのよ」
 ついに話してしまった、とアレクは息をついた。

 ダイヤやサファイアが巻き込まれた事件に「EMいのちの守護者の会」が関与しているという話は「判定者とその支援者」のメンバーでも知らない者が多い。
 これは「EMいのちの守護者の会」が、インデストだけではなく、ポータル・シティやハモネスなどサブマリン島各地で市民に強く支持されていることから、アレクが敢えて話さなかったことだ。
 話したことで、「判定者とその支援者」を離脱する者が出ても仕方ない、とアレクは開き直った。「EMいのちの守護者の会」は、その活動目的や内容から熱心な支持者が少なくない。
 アレクの調査では公表されている活動は聞こえがよいものだけで、裏に隠されている活動は危険極まりないものばかりであることが判明している。「EMいのちの守護者の会」の支持者が多いのは、こうした裏の活動がほとんど知られていないためだとアレクは考えている。
 「EMいのちの守護者の会」の暗部を知ったことでここから抜ける者であれば、今後「判定者とその支援者」としての活動を続けていくのは難しいだろう。
 アレクは覚悟を決めて皆の反応を待った。

 沈黙がしばらく続いた。
 誰もが言葉を発することが憚られる状況で、沈黙を打ち破ったのはプラチナだった。
「……わかった。俺にとって『EMいのちの守護者の会』はどうでもいい相手だが、それで協力を止めることはしない。少なくとも会社を、俺の親父を裏切った連中と俺は違う、ということは証明してみせる」
「助かるわ。貴方の目的も達せられるよう、こちらも協力するわ」
 アレクの返答にプラチナは、うむ、と肯いた。
 プラチナはゴールドに誘われて「判定者とその支援者」に協力している。
 プラチナの目的は「判定者とその支援者」が目指すものと少し異なるのだが、彼が参加した頃は一人でも協力者が必要な時期であった。
 彼の目的は、彼の父親や彼を裏切ってIMPUに走った者とサン・アカシへの復讐だった。
 彼の父はOP社の関連企業の社長であったが、OP社が鉄鋼事業から撤退した際にOP社からの取引を打ち切られたため、経営が立ち行かなくなった。
 彼の父はそれを苦にして自ら命を絶ち、会社は残された従業員が引き継いだ。
 残された者たちは、会社を設立したばかりのIMPUに参加させる道を選んだ。
 IMPUに参加したこと自体、プラチナは気に入らなかったのだが、それ自体は許容できる。
 しかし、その際、ありもしない給与の不払いや不正蓄財、従業員への暴力までもをアカシに訴えたのは、どうしても看過できることではなかった。
 また、アカシは彼の父親のことを「心が弱い」と評価したとされていた。
 残念ながらこれは事実であり、確かに不用意な言葉でもあった。
 この「心が弱い」という言葉は、むしろ生き残って共にIMPUを盛り立てて欲しいという激励の言葉の言葉尻を捉えられただけのものである。
 ただ、その真意はプラチナを含めた多くの者には伝わらなかった、それだけのことであった。

 「奪いし者には相応の報いを」というのは、ダイヤが考えたスローガンであったが、プラチナはこれを気に入っていた。
 父から名誉を奪った者に相応の報いを与える、それでよいのだ。
 そう思ったところでプラチナとアレクの目が合う。
「いずれ貴方が『判定者』となる機会が来るわ」
 アレクの目はそう語っているようであった。
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