ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

623:レイカ、インデスト市街への帰還を決断す

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「『EMいのちの守護者の会』ですか。アカシ代表の立場も苦しくなりましたな」
「そうですね。シバノイさん、そろそろ私たちも姿を見せたほうがよさそうですね」
 LH五二年三月二日、「EMいのちの守護者の会」は、二つの声明を発表した。
 ひとつは、数々の事件の解決が進まないことでインデストの治安を悪化させ、子供たちの安全を奪ったことに対するIMPU幹部への非難である。
 そしてもうひとつは、最近発生している数々の事件について、「勉強会」グループが積極的に捜査していることについての支持である。

「EMいのちの守護者の会」は、子供の生命と教育の機会を守ることを目的に約二〇年前に設立された団体で、サブマリン島内に約二万人の会員がいるとされている。
 この団体は島内に孤児院や保育所、そして学校をいくつも設立・運営しており、比較的安価な学費で教育の機会を提供している。
 そのため特に小さな子供を持つ親年代から支持されている。
 会長はシホ・サツガという三〇代半ばの女性で、彼女が二代目の会長である。
 レイカや彼女に同行している者たちが「EMいのちの守護者の会」について知っていることはそのくらいであるが、アカシの立場が厳しいものになっていることは容易に想像できる。
 アカシの立場が厳しいものとなっている原因のひとつとして、ホテルの爆発事件から約二週間が経過しても、犯人はおろか行方不明となっているレイカたちを見つけ出せてないことが挙げられる。
 せめてレイカたちが姿を現すことで、少しでもアカシの立場を守る。
 これが彼女らが下した決断であった。
 ただし、この場合も配慮が必要である。
「勉強会」グループが彼女らを見つけた場合、「勉強会」グループの得点となり、アカシの立場はより悪くなるであろう。
 ここはアカシに近い立場のIMPUのメンバーに彼女らを発見させる必要がある。
 レイカたちはそう考えたのであった。

 約二週間、姿を隠していたことにより、いくつか判明したこともあった。
 特にレイカが重要視したものが、ふたつあった。
 まずは「勉強会」グループが執拗に街道沿いの建物を調べていること。
 次に彼らが行方不明となったレイカやその同行者、そしてホテル爆発事件の犯人を真剣に捜してはいないと思われることである。
 彼らがレイカらが巻き込まれた二週間前のホテル爆発事件について調べていないとしたら、他に何を調べているのか?
 それについての答えはいまだ出ていないのだが、これ以上レイカたちが姿を隠していると、アカシをはじめとしたIMPUの現幹部の立場が取り返しのつかないレベルで不利になりかねない。
 また、レイカたちが姿を現しホテル爆発事件の捜査に協力すれば、「勉強会」グループへの牽制にもなる。

「そろそろ潮時ですね。社長に連絡して、インデストへ戻りましょう」
 レイカはそう言って、ミヤハラへの連絡の手はずを整える。
 約二週間、屋外で潜伏生活を続けていたにも関わらず、その姿は優雅であり、美しさを少しも損ねていない。
 大したものだ、と脇にいるシバノイが感心する。
 彼女への評価は真っ先にその美貌からなされるが、それは彼女にとっては非常に重いハンデとなっているのではないかとすら思える。
 潜伏している間、レイカが音を上げたことは一度としてなかったし、この厳しい条件の中でもっとも活発に動いていたのが彼女だったからだ。
 インデストへ戻る、正確には皆の前に姿を現す方法についても、彼女は準備に余念がなかった。
 「最悪でも『勉強会』グループ単独で、彼女らを発見させることはしない」というのがレイカの方針であった。
 これ以上の「勉強会」グループへの得点は、アカシにとって致命傷になりかねない、と判断したためだ。
 アカシはレイカたちが敢えて姿を現さずにいることをエリックから伝えられている。
 その上で自らの立場が不利になる可能性が高いにもかかわらず、レイカたちの行動を容認しているのだ。
 これには「タブーなきエンジニア集団」としてアカシとともに戦ったミヤハラ、サクライ、エリックが関与しているという事情もある。
 しかし、そうだからといって、アカシにこれ以上迷惑をかけるのは得策ではないだろう。
 また、彼女らが抱えている物資の量からも、補給なしで長期間潜伏を続けられる状況ではなかった。
 潜伏を開始した当初の予定でも二週間が限度であったから、今が潮時というレイカの言葉に偽りはない。

 レイカが準備を始めてから一〇分ほどで、本社へと通信が繋がる。
 エリックは不在であったが、ミヤハラとサクライの姿があった。
 レイカがこれから姿を現す予定だと説明すると、二人は「わかった」とだけ答え、彼女の計画を受け入れたのだった。
 「受け入れた」というよりも、彼らの場合は単に反対するのが面倒だったから、かもしれない。
 ただ、こうすることでミヤハラ、サクライといった経営陣がレイカの行動を把握していない、という事態は避けられるし、レイカにとっても自らの行動が経営陣の承認を得たものになる。
 このため、経営陣とレイカの双方にメリットがあるといえる。
 レイカはそれを狙って、敢えて事前に本社と連絡を取ったのだ。
「さて、皆さん。準備はよろしいでしょうか?」
 レイカのその言葉を合図に一行がインデスト市街へ向けて出発した。
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