ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

627:キース

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 キタヤが各所に連絡を取り終えた時点で、かなり時間は遅くなっていた。
 結局、レイカたちは検問所に宿泊することとなった。
 レイカは同じく検問所に宿泊するキタヤの相手をすることにし、その間にシバノイとナタバがキースなどの組合関係者に話を聞きにいく。
 レイカは女性の話し相手をするのはどちらかといえば苦手なほうだが、キタヤに怪しまれるのは得策ではない。
 そこで仕方なく、シバノイとナタバに組合側の情報収集を託したのである。

 レイカが話好きのキタヤから解放されたのは、夜もかなり更けた頃であった。
 幸いキタヤが勝手に話をするため、「勉強会」グループのメンバーから見た現在のインデストの状況に関する情報は豊富に入ってきた。
 キタヤの所属している「エイジー合成化学」社がIMPUに参加してしないことや、彼女自身が「勉強会」グループの理念に強く賛成していることなどもあっさり判明してしまった。

 キタヤの話を聞く限り、IMPU設立当初と比較して、アカシら幹部の求心力が低下しているのは確かなようだ。彼女が「勉強会」寄りの立場であることを割り引いても、それは明らかなくらいであった。
 「勉強会」グループからは現在のIMPUがOP社や古くからインデストで活動している有力な会社をないがしろにしているように見えている。
 特に理事にこうした有力企業の幹部が一人もいないことを問題視しているようだ。

 レイカから見れば現在のIMPUは加入企業を公平に扱っており、その理事に有力企業の幹部がいないのは有力企業側に原因があると考えている。
 理事に有力企業の幹部がいないのは、アカシらがIMPUへの参加を呼びかけた際、なかなか呼びかけに応じなかった結果でしかない。だが、「勉強会」グループからはそう見えていない。
 (確かに現場レベルではそうでしょう。でも、「勉強会」グループの幹部の狙いはそれだけではないはず……)
 レイカはそう疑っているのだが、「勉強会」グループの幹部の真の狙いまでは把握できていない。

 頭を整理するために、寝室から出てダイニングテーブルのある部屋へと移動する。
 テーブルにはシバノイとモモギの姿があった。
 お疲れ様です、と二人がレイカに向けて頭を下げる。
 レイカが他のメンバーの状況を聞くと、シバノイが休ませたと答えた。
 屋外での潜伏生活は彼らの体力を相当削ったであろうから、悪くない判断だといえる。
 起きている二人は交代で警戒に当たるという。
 シバノイはレイカにも休むよう求めたが、レイカは情報交換を先に済ませたいと答えた。
 盗聴の危険だけは懸念されたが、モモギが調べたところ、そういった様子は見られないとのことであった。
 そこで三人は問題となりそうな言葉については携帯端末の画面を用いて表示させ、声を出さないように情報交換を始めた。

 組合から現在検問所に派遣されているのは、キースとムカイという二人の若者とのことであった。
 彼らによれば、「勉強会」グループは、組合のメンバーに雑用を押し付け、肝心な情報は何一つ教えてこないとのことだった。
 また、組合のメンバーでも現幹部を支持する者と、「勉強会」グループを支持する者とに分かれているらしい。
 組合は資格さえあれば誰でも参加することができる。
「勉強会」に至っては、会の方針に賛同するなら誰でも参加できるので、組合と「勉強会」の双方に参加している者も少なくないのだ
 キースとムカイはどちらの立場かは明かさなかったが、二人とも「勉強会」グループより、組合に対してシンパシーを感じているように見える、というのがシバノイの見解である。
 また、シバノイはキースやムカイの組合内における立場についても情報を得ていた。
 ムカイは二二歳になったばかり、キースに至っては一八歳の若者であり、二人とも平の組合員である。
 「勉強会」グループからの要請で、組合が若手を派遣した結果のようであった。
 組合も考えなく要請に応じているわけではないようで、重要な場所には組合の幹部とコンタクトの取りやすいメンバーを選んで派遣しているらしい。
 例えばキースは、委員長のモチナガと親しいようだ。
 アカシが組合の設立者であることや、モチナガがアカシと親しいことなどから、組合はIMPUの現幹部寄りに見られることが多い。
 しかし、組合は事件解決に対する協力は惜しまないという立場をとっているため、「勉強会」グループがそのための活動を行うならそれに協力する、というスタンスのようであった。
 ただし、このスタンスに対しても組合内では賛否が分かれるようだ。
 ポイントのひとつは、「勉強会」グループとIMPUの現幹部のどちらを支持するか、という点である。
 もうひとつのポイントは「勉強会」グループの事件解決に対する姿勢についての賛否である。
 少なくとも現在「勉強会」グループは、ホテル爆発事件の犯人の捜索、レイカたち行方不明者の捜索のいずれに対しても積極的には動いていない。
 何かを捜索していることは確かなのだが、その内容はキースやムカイにも明かされていないのだそうだ。
 わからないこと、といえば「勉強会」グループのことだけではない。
 検問所に詰めている二人の組合員のうち、ムカイについては本名が「シタン・ムカイ」であることや、所属会社や役職などのプロフィールが明らかになっている。
 一方、キースについてはモチナガと親しいらしいことと、性別、年齢以外の一切がわからない。
「キース」というのが姓なのか名前なのかも判明していないのだ。
 モモギがいろいろ調べてみたのだが、キースについての情報はまったくというほど見当たらないのだそうだ。
 一八歳という年齢で、労働者組合の委員長であるモチナガと親しいというのも、背後に何かあるのではないかと疑われる。
 通常、ここサブマリン島では職業学校を出て一八歳で仕事を始めるのが一般的であり、また、一五歳未満の者の就業は慣習的に禁止されている。
 社会に出てせいぜい三年の若者が何故組合のトップとそこまで親しいのだろうか?
 IMPUもしくは組合幹部の親類縁者の可能性もあったが、レイカの知る限り、少なくともIMPUや組合の幹部に該当しそうな人物が思い浮かばない。

(キースさんが何者かは、早いうちに確かめる必要がありそうね……)
 レイカは口には出さなかったが、目でキースの正体を確認する必要性を訴えた。
 彼女らの味方の可能性も十分に考えられるが、キースが何者かが確認されるまでは迂闊な行動を取ることはできない。
 レイカはそう判断したのであった。
 レイカの無言の訴えに、シバノイとモモギは無意識のうちに肯いていた。
 キースの正体を明らかにする━━
 それがシバノイとモモギに課された任務となった。
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