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第十四章
630:ヌマタ、インデスト市街に入る
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検問所の建物の入口に二人、見張り役らしい者が立っている。
「市街へ入られる方ですか?」
一人が近づいてくるヌマタに気付いて声をかけてきた。
ヌマタがそうだと答えると、中に入って受付で書類を提示してくださいと答えが返ってきた。
相手の態度が悪ければ嫌味のひとつやふたつ言ってやろうと思っていたが、そのような感じではなかった。
「何だ、えらくあっさりしているな」
ヌマタは牙を抜かれた体で中に入っていった。
受付で書類を提示すると、いくつかの質問と荷物の簡易的なチェックが行われた。
ヌマタが到着したときには、他にインデスト市街に入る手続きを行っている者はいなかった。
どうやら市街への出入りは、未だそれほど活発にはなっていないようだ。
「外から運送業者とかはあまり入ってこないのか?」
様子を探るためヌマタが受付の者に尋ねてみる。
「そうですね。エフ・ティ・ロジさんは初めてですし、一日にこちらに来る運送業者さんは四、五名ですね」
通常なら二桁の後半か三桁くらいの運送業者が行き来しているはずだから、この数字は極端に少ない、とヌマタは感じた。
二〇分ほどでチェックも終わり、ヌマタは市街へと入っていった。
とりあえず宿にチェックインした後、翌日の朝、指定場所に荷物を届ける予定だ。
書類上、ヌマタがインデスト市街に滞在できるのは三月一二日までである。
今日が九日の夕方なので、荷物を届ける一〇日の午前中まで動けないとすると、アカシと接触を図れるのは一〇日の午後から一二日の夕方までの間となる。
現在の状況で曜日が関係あるかは疑わしいが、一〇日が土曜、一一日が日曜なので、この二日がチャンスになるとヌマタは考えている。
宿にチェックインし、荷物を置いてから、ヌマタは夕食の買出しにと近所の商店街に向かう。
このあたりは鉱山からやや離れた地域で、IMPUの関係者が少ないエリアだ。
ヌマタを知る者もほとんどいないと思われるため、安心して外を出歩くことができる。
万一に備えて多少の変装はしている。
インデストでOP社に勤務していた頃、彼は髪を逆立てるようにしていた。
しかし、フジミ・タウンに逃れて以降は常に短髪にしている。
また、これは運送業者に多く見られるが、サングラスをかけて直射日光から目を守っている。
これもインデスト時代の彼と比較すれば変装の範疇に入るだろう。
ヌマタは街を歩く人々が彼の正体に気づかないか警戒しながら、商店をチェックしていく。
街の噂話なども集められればと期待したのだが、聞こえる声は電力不足に対する不満や愚痴の類が多く、レイカ・メルツが巻き込まれかけたホテル爆発事件や、それに対する捜査に関する話題はほとんど聞こえてこない。
(事件に対する関心はこの程度なのか……?)
そう考えたのだが、商店を回るうちにヌマタは考えを改めた。
ヌマタはあまり外食を好まないので、食事は大抵出来合いのものを購入して自室で済ませることが多い。
そのため最初は気づかなかったのだが、休業している飲食店や、営業時間を短縮している飲食店の数が非常に多いことがわかってきた。
三軒の飲食店が並んだ場所などは、週に二日ずつ交代で営業しているなどという有様である。
ヌマタはある惣菜店で人が好さそうに見える店員を捕まえて、どうなっているのだと尋ねた。
「あ、運送屋さんかい? 電気が足りないってんで店が満足に営業できないのさ。だから話し合って交代で営業してるんだ、困ったものだね」
「そういうことか、すまない。俺はフジミ・タウンの業者なのだが、こっちはそこまでひどくはなかったからな」
店員の窮状を訴える答えに、ヌマタは思わず軽率だったと詫びた。
インデスト郊外にあるピーター・ウェル農場は電力を自家発電でまかなっていたため気がつかなかったが、インデスト市街の電力不足は相当深刻であった。
自宅で調理することが贅沢であるサブマリン島で、飲食店がその機能を十分に果たせないことの影響は大きい。
温暖なインデストとはいえ、今はまだ三月の上旬で、春の訪れまではまだ少し時間がかかる。
こうした時期に暖かな食事をとる機会を大幅に制限されるというのは、ただならぬ事態である。
(生活にここまで影響が出ているとなると、市民の感情は厳しいだろうな。短絡的で物事を知らない連中なら、アカシさんにありもしない責任を押し付けるくらいのことはしかねないか……)
ただ、ヌマタが感心したのは、このあたりではアカシに対して悪い感情を持っている者がさほど多くなさそうなことであった。
むしろ、発電技術者をインデストに戻さないポータル・シティなど島西端部の都市に対する負の感情が強い。
特にOP社本社に対する感情は最悪に近く、親切にも「もし、あんたがOP社の本社の人間なら、ここでは身分を隠したほうが良いよ」と忠告してくれる者さえいる始末だった。
そのようなことは一切明かしていなかったにもかかわらず「OP社の本社の人間なら」と指摘されて一瞬、ヌマタは肝を冷やした。正体を知られたかと思ったのだ。
だが、どうも冗談だったらしく、相手は「あんたは運送屋さんだろ? なら大丈夫だ」とケラケラ笑っていた。
「市街へ入られる方ですか?」
一人が近づいてくるヌマタに気付いて声をかけてきた。
ヌマタがそうだと答えると、中に入って受付で書類を提示してくださいと答えが返ってきた。
相手の態度が悪ければ嫌味のひとつやふたつ言ってやろうと思っていたが、そのような感じではなかった。
「何だ、えらくあっさりしているな」
ヌマタは牙を抜かれた体で中に入っていった。
受付で書類を提示すると、いくつかの質問と荷物の簡易的なチェックが行われた。
ヌマタが到着したときには、他にインデスト市街に入る手続きを行っている者はいなかった。
どうやら市街への出入りは、未だそれほど活発にはなっていないようだ。
「外から運送業者とかはあまり入ってこないのか?」
様子を探るためヌマタが受付の者に尋ねてみる。
「そうですね。エフ・ティ・ロジさんは初めてですし、一日にこちらに来る運送業者さんは四、五名ですね」
通常なら二桁の後半か三桁くらいの運送業者が行き来しているはずだから、この数字は極端に少ない、とヌマタは感じた。
二〇分ほどでチェックも終わり、ヌマタは市街へと入っていった。
とりあえず宿にチェックインした後、翌日の朝、指定場所に荷物を届ける予定だ。
書類上、ヌマタがインデスト市街に滞在できるのは三月一二日までである。
今日が九日の夕方なので、荷物を届ける一〇日の午前中まで動けないとすると、アカシと接触を図れるのは一〇日の午後から一二日の夕方までの間となる。
現在の状況で曜日が関係あるかは疑わしいが、一〇日が土曜、一一日が日曜なので、この二日がチャンスになるとヌマタは考えている。
宿にチェックインし、荷物を置いてから、ヌマタは夕食の買出しにと近所の商店街に向かう。
このあたりは鉱山からやや離れた地域で、IMPUの関係者が少ないエリアだ。
ヌマタを知る者もほとんどいないと思われるため、安心して外を出歩くことができる。
万一に備えて多少の変装はしている。
インデストでOP社に勤務していた頃、彼は髪を逆立てるようにしていた。
しかし、フジミ・タウンに逃れて以降は常に短髪にしている。
また、これは運送業者に多く見られるが、サングラスをかけて直射日光から目を守っている。
これもインデスト時代の彼と比較すれば変装の範疇に入るだろう。
ヌマタは街を歩く人々が彼の正体に気づかないか警戒しながら、商店をチェックしていく。
街の噂話なども集められればと期待したのだが、聞こえる声は電力不足に対する不満や愚痴の類が多く、レイカ・メルツが巻き込まれかけたホテル爆発事件や、それに対する捜査に関する話題はほとんど聞こえてこない。
(事件に対する関心はこの程度なのか……?)
そう考えたのだが、商店を回るうちにヌマタは考えを改めた。
ヌマタはあまり外食を好まないので、食事は大抵出来合いのものを購入して自室で済ませることが多い。
そのため最初は気づかなかったのだが、休業している飲食店や、営業時間を短縮している飲食店の数が非常に多いことがわかってきた。
三軒の飲食店が並んだ場所などは、週に二日ずつ交代で営業しているなどという有様である。
ヌマタはある惣菜店で人が好さそうに見える店員を捕まえて、どうなっているのだと尋ねた。
「あ、運送屋さんかい? 電気が足りないってんで店が満足に営業できないのさ。だから話し合って交代で営業してるんだ、困ったものだね」
「そういうことか、すまない。俺はフジミ・タウンの業者なのだが、こっちはそこまでひどくはなかったからな」
店員の窮状を訴える答えに、ヌマタは思わず軽率だったと詫びた。
インデスト郊外にあるピーター・ウェル農場は電力を自家発電でまかなっていたため気がつかなかったが、インデスト市街の電力不足は相当深刻であった。
自宅で調理することが贅沢であるサブマリン島で、飲食店がその機能を十分に果たせないことの影響は大きい。
温暖なインデストとはいえ、今はまだ三月の上旬で、春の訪れまではまだ少し時間がかかる。
こうした時期に暖かな食事をとる機会を大幅に制限されるというのは、ただならぬ事態である。
(生活にここまで影響が出ているとなると、市民の感情は厳しいだろうな。短絡的で物事を知らない連中なら、アカシさんにありもしない責任を押し付けるくらいのことはしかねないか……)
ただ、ヌマタが感心したのは、このあたりではアカシに対して悪い感情を持っている者がさほど多くなさそうなことであった。
むしろ、発電技術者をインデストに戻さないポータル・シティなど島西端部の都市に対する負の感情が強い。
特にOP社本社に対する感情は最悪に近く、親切にも「もし、あんたがOP社の本社の人間なら、ここでは身分を隠したほうが良いよ」と忠告してくれる者さえいる始末だった。
そのようなことは一切明かしていなかったにもかかわらず「OP社の本社の人間なら」と指摘されて一瞬、ヌマタは肝を冷やした。正体を知られたかと思ったのだ。
だが、どうも冗談だったらしく、相手は「あんたは運送屋さんだろ? なら大丈夫だ」とケラケラ笑っていた。
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