ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

650:かつての権力者の目覚め

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 老女はかつて「有力者」と呼ばれる存在であった。
 ポータル・シティに一〇名ほどいた「有力者」の多くは、現在ここサブマリン島の市民に対して殆ど影響力を持っていない。
 老女はその中では例外的な存在であった。
 彼女が直接市民に対してその影響力を発揮することは、まったくといっていいほどない。
 しかし、彼女が動かす組織の影響を少しでも受ける市民は、ここサブマリン島の人口の過半数に達するのではないかといわれている。だが、彼女の存在は多くの島民に知られていない。
 「有力者」にはポータル・シティの治安維持と、住民の組織化について一定以上の功績があるのは揺るがしがたい事実である。
 ポータル・シティに人類が居住し始めたとき、そこに存在した組織らしい組織はECN社のみであった。
 ECN社は営利企業であることを八割がた放棄し、市民生活の環境整備に努めたが、システム監視とコールセンター業務を専門とする彼らの手に余る部分も多々あった。
 それを埋めたのが彼ら「有力者」である。
 居住用の土地の割り当てや、道路、公園などの公共スペースの配置などは、彼らの存在がなければ、大きな混乱なくなし得なかったと考えられている。
 この場所にいる老女にも、こうした貢献があった。
 彼女の貢献は身寄りのない子供の居場所を確保したこと、そして彼らが教育を受ける場を提供したことであった。
 その点においては現在も変わっていない、といえる。
 だが、それだけではなかった。
 彼女をはじめ多くの有力者は自らの意思に反する者を、自らの法で罰したのだ。
 サブマリン島で恐れられている「海洋調査隊」も、こうした有力者たちの法から生まれたものだ。
 老女の「注意しておきなさい」の言葉は、それを受ける者たちにとって「彼女、すなわち例の記者崩れを利用して私たちの目的を達成するように」という指示という意味を持っているようである。
 テラウチとカノも老女の言葉を同じようにとらえた。
 このことからも、「例の記者崩れ」をかなり意識していることがわかる。
 しかし、かつてのOP社、すなわちエイチ・ハドリと比較すると「例の記者崩れ」を与しやすい、と見ていることも想像に難くない。
 ハドリが相手のとき、彼らは事実上抵抗らしい抵抗を行わず、活動の拠点をポータル・シティからインデストへ移した。
 このとき、既にハドリ率いるOP社はポータル・シティにいる有力者が結集しても太刀打ちできないだけの財力と人員を抱えていたのである。
 老女は勝ち目のない相手と正面きって戦うほど愚かではなかったのだ。
 このことが結果として、彼女が運営する組織、すなわち「EMいのちの守護者の会」に対する評価を向上させた。
 OP社と対決しなかったことで、「EMいのちの守護者の会」の運営する学校や孤児院は、今も変わらず存続しているからだ。
 OP社治安改革部隊に逆らった者は、すべてがその財産や地位を取り上げられる、サブマリン島内ではそう噂されていた。
 「EMいのちの守護者の会」はOP社治安改革部隊に逆らわなかったからこそ、その活動を維持できた、と思われたのだ。
 しかし、これは評価する側の過大評価であった。
 確かにOP社治安改革部隊は、彼らに直接逆らった者を確実に罰していった。
 例外は「タブーなきエンジニア集団」と「OP社グループ労働者組合」のみである。
 しかし、逆らった者が運営していた施設や組織については、危険がないと判断すればハドリはその存続を許していた。正確にはその存続に興味がなかったので、特に対応を取らなかったのだ。
 ハドリをよく知るヤマガタやホンゴウあたりであれば、ハドリが「EMいのちの守護者の会」が運営する学校や孤児院をどうにかするという考えを持つことはないだろうと判断したであろう。
 しかし、老女など「EMいのちの守護者の会」の裏の幹部達たちはハドリのことをよく知らなかった。
 気に入らないものは徹底的に破壊し、その後にはぺんぺん草一本すら残さない残虐な破壊者としてしかとらえていなかった。
 そのため、OP社治安改革部隊がインデストに押し寄せてきた際、「EMいのちの守護者の会」の裏の幹部達は息を潜めて身を隠すことに専念したのだった。

 一方、OP社治安改革部隊と「タブーなきエンジニア集団」および「OP社グループ労働者組合」との戦闘の中で、「EMいのちの守護者の会」の運営する学校や孤児院は、所属する子供たちだけではなく近所の子供や住民などの避難場所となった。
 これは老女などの「EMいのちの守護者の会」の裏の幹部の判断ではなく、あくまで現場の判断であったが、少なくとも老女ら裏の幹部が現場の行動を止めなかったのも事実である。老女たちは結果的にOP社治安改革部隊の侵攻からインデストの子供や近隣住民を守ったことになるのだ。
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