ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

651:「EMいのちの守護者の会」のもう一つの顔

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「例の記者崩れはヒロトの奴に見張らせている。それと奴と組んでいた何とかという会社は主だった連中を確保してある。やりようはいくらでもあるだろう」
 テラウチがカノに視線を向けた。
 単なる現状の確認にも取れるこの言葉であるが、実際のところこれは命令であった。
 カノは承知しました、と頭を下げてその場を後にした。

「この件はカノさんの息子さんに任せておけばよいでしょう。あとは、ECN社が余計なところに首を突っ込まないとよいのですが」
 老女が「カノさんの息子さん」と言ったのには訳がある。
 先ほどこの場を去った「カノ」の父は、かつてポータル・シティの有力者の一人であった。
 老女とは隣り合う地域を管理することから、互いに親しい間柄でもあった。
 ハドリが有力者たちから権力を取り上げる時期と前後して、有力者であった「カノ」の父は亡くなった。
 「カノ」の父の生前からカノは、老女のもとで修行と称して金貸しに従事していたのである。
 カノは父の死後も老女のもとで働く道を選び、現在に至っている。

「レイカ・メルツのことか? 何かあればECN社の長老たちが黙っていないだろう。あのミヤハラという新しい社長が問題だが、まだまだ長老のほうが多い」
 テラウチはECN社の長老に一定の信頼を置いているようであった。
 ここでいう「長老」は古参の幹部のことで、多くは役員や上級チームマネージャーの地位にある。彼らの社に対しての影響力は強い。
「過去の経緯を知っている者はよいのです。歴史を知らぬ者が大きな顔をすると物事は悪いほうへ悪いほうへと向かっていきます」
「そうでしたな。それは気をつけないと」
「レイカ・メルツ。彼女の歩んできた道がどのように切り開かれてきたのか、それを知れば取るべき行動は数少ないですが」
「……そうですな。考えがある。カノ君にこちらから伝えておく」
「わかりました。後はお任せしますわ」
 そう言って老女はその場を後にした。
 テラウチに対する老女の信頼は厚いようで、テラウチにすべてを任せたのだった。
「それにしても『勉強会』の連中は案外だったな。コガミのところのイオは良くやっているようだが……」
 テラウチにとって、「勉強会」グループ、特にトップのオオバの動きは大いに不満であった。
 IMPUの現体制に反対する者を結集し、現幹部を追い落とすまではそれほど苦労なく実現できると思った。
 だが、現在のところやや揺らいではいるものの、IMPUの幹部はすべてその地位を保っていた。この点が大いに不満である。テラウチなどにとって都合の悪いことに、IMPUの現幹部は「EMいのちの守護者の会」のコントロール下にないからだ。

 電力不足による生産の減少とポータル・シティなど他地域との物流が打撃を受ければ、金に困る者が出てくる。
 彼らに金を融通することにより、彼らの行動を縛り、「EMいのちの守護者の会」にとって都合の悪い勢力や言論などを排除する。
 これがテラウチの仕事であった。
「さて、ここはコガミに動いてもらわないとならないな」
 テラウチは通信機を手に取った。
 コガミとは、「EMいのちの守護者の会」に複数いる副会長のうちの一人の名前である。
 副会長という役職名にも関わらず、実態はテラウチの部下のような立場である。
 役職名がついている者はあくまでも表に出るメンバーであって、彼らが表向きの活動を行っている。
 彼らの多くはテラウチなどの動きを把握していないが、コガミは数少ない例外の一人であった。
 正確にはテラウチは表に出るメンバーの動きを把握するために送り込まれた監視役のような立場である。

 テラウチの連絡から数分でコガミがやってきた。
「何の御用でしょうか?」
「例のトーカなんたら社、の連中はどんな様子だ?」
「なかなか口の堅いというか、厄介な連中ですな」
「どうした?」
「カイトとかいう社長は全然折れる気配がないですな。それに、シトリとかいう小娘も決して例の団体については口を割っておりません」
 コガミが嫌そうな顔をしながら首を横に振った。
 トーカMC社の関係者にはかなり手を焼かされていることが見てとれる。
「どうするつもりだ?」
「正直手を焼いております。例の団体の連中を何人か捕まえて口を割らせようかと考えていますが……」
「いや、待て。下手を打つとあの記者崩れに餌を与えることになるだろう。それよりも……」
 テラウチは不気味な笑みを浮かべながらコガミを手招きした。
「これを参考にするがよい。わかるな?」
 テラウチが指差した書類を見たコガミは、一見人が好さそうに見える笑みを浮かべると、首を二度縦に振った。
 見る人が見れば、その笑みの奥には何かどす黒いものがうずもれているように見えたかもしれない。
「……なるほど、わかりました。やってみましょう」
「方法は任せたぞ。好きにやってみるがよい」
「承知しました。あとはお任せを」
 コガミが頭を下げてその場を去った。
「悪い芽は早めに摘み取るに限る。以前のようなミスは繰り返さぬ……」
 コガミが去り、部屋にただ一人残されたテラウチは苦虫を噛み潰したような顔でそうつぶやいたのだった。
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