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第十四章
652:インデスト市民の不満
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LH五二年も四月に入った。
インデストでは「勉強会」グループが市民の支持を固めつつあった。
IMPUや労働者組合も、ホテルの爆発事件の捜査や電力供給の改善のため懸命な活動を続けていたが、マスコミを味方につけている「勉強会」グループと比較して著しく不利な状況にあった。
マスコミが「勉強会」グループの活動を評価しているのは、裏で「EMいのちの守護者の会」が動いているためであった。
資金を握られているマスコミが「勉強会」グループに有利な情報とIMPUに対して批判的な情報とを流し続けたからだ。
しかし、そのことを知る市民はごく少数であった。
一方、インデストの市民生活は厳しさを増していた。
電力の供給状況は徐々にではあるが、悪化の一途をたどっている。
現場の発電技術者達は懸命の活動を続けており、かつわずかではあるが、技術者の増員は実現できている。
しかし、開いた穴が大きすぎたため、穴を塞ぐのに十分な人員や物資を確保できていなかった。
物資の方の状況はさらに深刻である。
インデスト市街への出入りに対する検問を行った関係で、人や物の出入りが減少した結果であった。
レイカなどが巻き込まれたホテルの爆発事件はこのようなところにまで影響を及ぼしていた。
電力の大部分を海流を用いた発電に依存しているここサブマリン島では、発電技術者の質と数が発電能力に大きく影響する。
刻一刻と変化する海流の状況に応じて発電機を適切な姿勢に保ち続けるためには、熟練した技術が必要である。
一方で、海流の凄まじい力による部品類の破損や損傷については、迅速にそれを発見し交換や修理を行う必要がある。
前者には主に発電技術者の質が、後者には発電技術者と部品類の数がものをいう。
発電技術者の質については、熟練の技術者をOP社本社に多く取られたものの、残された技術者が経験を積むことで回復基調にある。
数については、検問の影響で技術者のインデストへの流入が制限されており、検問所や近くの宿で少なくない数の技術者が待機を余儀なくされている。
また、他都市との人の行き来が減った結果、発電所に必要な部品類の供給にも支障をきたしている。
発電所に必要な部品については、インデストで殆ど生産されていないものもあり、こうした部品の入手にも苦労している有様である。
こうした状況を反映してか、IMPUやOP社インデスト支店には、苦情を訴える人が絶えなかった。
電力供給事業者であるOP社はともかく、IMPUは本来電力の供給に責任や権限を持ってはいないのだが、かつてのOP社の取引先が多いことから、OP社と同じように考えられているようであった。
一方、「勉強会」グループにも数多くの陳情者がやってきていた。
こちらは彼らへの支援を申し出る人々や、IMPUやOP社に対する苦情を持ち込む者が殆どで、「勉強会」グループに対する苦情はまったくといってよいほどなかった。
これは「EMいのちの守護者の会」がマスコミを通じて行っている巧みな世論の誘導と、「勉強会」グループがIMPUに反対する立場を明らかにしていることによるものであった。
IMPUの泣き所は中心となって活動しているメンバーの多くが、その所属企業においてそれほど高い地位にないことであった
トップのサン・アカシが労働者組合の設立者ということもあり、参加企業の多くの経営陣がIMPUに参加しながらも積極的な関与を避けたことがこうした結果を招いている。
このためIMPU参加企業の多くも現在の幹部を積極的に支援することはなく、ますますIMPUは苦境に立たされることとなった。
特にアカシをはじめとしたIMPU幹部が頭を悩ませたのは、市民などがIMPUや労働者組合に対して暴力的な方法で苦情を訴えることを参加企業の経営陣が止めなかったことであった。
仲間に足を掬われる状況では、現場のメンバーも安心してIMPUとしての業務に従事することができない。アカシなどの幹部はこうした状況への対応にも追われていた。
甚だしい事例としては、次のようなものがある。
IMPUへ電力不足の苦情を訴えているうちに興奮した者がIMPUのメンバーにつかみかかった。これを制止しようとした組合員が「苦情に対して暴力で応戦してきた」とされ、組合やIMPUがマスコミや市民などから糾弾されるような事態に発展した。
IMPUが事実関係を調査し、これを公表したが、マスコミなどは「事実の捻じ曲げ」などと評価するか、公表の事実を報じないという手段で応じたのだった。
日に日にこうした暴力の被害を受けるIMPUや労働者組合のメンバーは増加傾向にあり、病院の世話になる者こそごく少数であったが、被害を無視できない状況になりつつあった。
そこでIMPUの幹部は会談のためインデストに滞在しているECN社のレイカ・メルツ広報企画室長らに、彼女らの身の安全のためいったんインデストから退去することを提案した。
「勉強会」グループからも同様の提案があったが、レイカはインデストから退去する際の道中の安全確保および本社の意思確認が必要であるとして、いったん回答を保留していた。
インデストでは「勉強会」グループが市民の支持を固めつつあった。
IMPUや労働者組合も、ホテルの爆発事件の捜査や電力供給の改善のため懸命な活動を続けていたが、マスコミを味方につけている「勉強会」グループと比較して著しく不利な状況にあった。
マスコミが「勉強会」グループの活動を評価しているのは、裏で「EMいのちの守護者の会」が動いているためであった。
資金を握られているマスコミが「勉強会」グループに有利な情報とIMPUに対して批判的な情報とを流し続けたからだ。
しかし、そのことを知る市民はごく少数であった。
一方、インデストの市民生活は厳しさを増していた。
電力の供給状況は徐々にではあるが、悪化の一途をたどっている。
現場の発電技術者達は懸命の活動を続けており、かつわずかではあるが、技術者の増員は実現できている。
しかし、開いた穴が大きすぎたため、穴を塞ぐのに十分な人員や物資を確保できていなかった。
物資の方の状況はさらに深刻である。
インデスト市街への出入りに対する検問を行った関係で、人や物の出入りが減少した結果であった。
レイカなどが巻き込まれたホテルの爆発事件はこのようなところにまで影響を及ぼしていた。
電力の大部分を海流を用いた発電に依存しているここサブマリン島では、発電技術者の質と数が発電能力に大きく影響する。
刻一刻と変化する海流の状況に応じて発電機を適切な姿勢に保ち続けるためには、熟練した技術が必要である。
一方で、海流の凄まじい力による部品類の破損や損傷については、迅速にそれを発見し交換や修理を行う必要がある。
前者には主に発電技術者の質が、後者には発電技術者と部品類の数がものをいう。
発電技術者の質については、熟練の技術者をOP社本社に多く取られたものの、残された技術者が経験を積むことで回復基調にある。
数については、検問の影響で技術者のインデストへの流入が制限されており、検問所や近くの宿で少なくない数の技術者が待機を余儀なくされている。
また、他都市との人の行き来が減った結果、発電所に必要な部品類の供給にも支障をきたしている。
発電所に必要な部品については、インデストで殆ど生産されていないものもあり、こうした部品の入手にも苦労している有様である。
こうした状況を反映してか、IMPUやOP社インデスト支店には、苦情を訴える人が絶えなかった。
電力供給事業者であるOP社はともかく、IMPUは本来電力の供給に責任や権限を持ってはいないのだが、かつてのOP社の取引先が多いことから、OP社と同じように考えられているようであった。
一方、「勉強会」グループにも数多くの陳情者がやってきていた。
こちらは彼らへの支援を申し出る人々や、IMPUやOP社に対する苦情を持ち込む者が殆どで、「勉強会」グループに対する苦情はまったくといってよいほどなかった。
これは「EMいのちの守護者の会」がマスコミを通じて行っている巧みな世論の誘導と、「勉強会」グループがIMPUに反対する立場を明らかにしていることによるものであった。
IMPUの泣き所は中心となって活動しているメンバーの多くが、その所属企業においてそれほど高い地位にないことであった
トップのサン・アカシが労働者組合の設立者ということもあり、参加企業の多くの経営陣がIMPUに参加しながらも積極的な関与を避けたことがこうした結果を招いている。
このためIMPU参加企業の多くも現在の幹部を積極的に支援することはなく、ますますIMPUは苦境に立たされることとなった。
特にアカシをはじめとしたIMPU幹部が頭を悩ませたのは、市民などがIMPUや労働者組合に対して暴力的な方法で苦情を訴えることを参加企業の経営陣が止めなかったことであった。
仲間に足を掬われる状況では、現場のメンバーも安心してIMPUとしての業務に従事することができない。アカシなどの幹部はこうした状況への対応にも追われていた。
甚だしい事例としては、次のようなものがある。
IMPUへ電力不足の苦情を訴えているうちに興奮した者がIMPUのメンバーにつかみかかった。これを制止しようとした組合員が「苦情に対して暴力で応戦してきた」とされ、組合やIMPUがマスコミや市民などから糾弾されるような事態に発展した。
IMPUが事実関係を調査し、これを公表したが、マスコミなどは「事実の捻じ曲げ」などと評価するか、公表の事実を報じないという手段で応じたのだった。
日に日にこうした暴力の被害を受けるIMPUや労働者組合のメンバーは増加傾向にあり、病院の世話になる者こそごく少数であったが、被害を無視できない状況になりつつあった。
そこでIMPUの幹部は会談のためインデストに滞在しているECN社のレイカ・メルツ広報企画室長らに、彼女らの身の安全のためいったんインデストから退去することを提案した。
「勉強会」グループからも同様の提案があったが、レイカはインデストから退去する際の道中の安全確保および本社の意思確認が必要であるとして、いったん回答を保留していた。
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