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第十四章
653:退くか、残るか
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「一度退くか、ここに残るか、一体どうなるのでしょうか?」
レイカに同行していたECN社の社員、ホシミ・ナタバは同じ部屋にいる先輩社員に尋ねた。
タイセイ・チタムラ、ザライ・モモギの二名がレイカに同行し、OP社インデスト支店で技術者の派遣について今後の対応を協議している。
また、ミツヒロ・ヤマノシタとバップ・タカジロの二名が、物資の調達のため外に出かけている。
現在、レイカたちは爆発事件の起きたホテルとは異なるインデスト市街のホテルに滞在している。
爆破されたホテルからは歩いて一〇分ほどの距離で、OP社インデスト支店のある「サウスセンター」の近くになる。
レイカが自ら手配した宿であるが、OP社インデスト支店の目が光っているから、ここなら不届き者も手を出せないだろうと「勉強会」グループもレイカたちがここに滞在することに賛同した。
現在ホテルに残っているのはレイカに次ぐ立場にあるジンゴ・シバノイ、リョウ・キザシとナタバの三名である。
彼らはECN社本社からの連絡を待っていた。
インデストの現在の状況はECN社本社でも問題になっていた。
広報企画室長という役員に次ぐ立場のレイカを長期間拘束される形となっており、今後の業務に支障をきたす可能性がある、というのがその理由であった。
また、インデストの状況を考慮すれば、彼女の安全を確保できない可能性がある、というのも問題となっている。
特にミヤハラに批判的な幹部達が現状を問題視しており、ミヤハラとしても彼らの声に耳を傾けざるを得ないようだ。
レイカも現在の状況は理解しており、インデスト市街からの撤退も考えていた。
すぐに撤退を選択しなかったのは、一度本社に状況を伝えた上で、本社の考えを参考に今後の対応を判断するつもりであったからだ。
「本社と室長の考え次第だ、我々がここで議論したところでどうこうなるものでもないだろう」
キザシは窓の外を向いてコーヒーをすすりながらそう答えた。
今自分自身がすべきことは、いざというときに動けるよう身軽になっておくこと、と割り切っているようにも見える。
「ならばナタバさんなら、この場面でどう考える?」
その様子を見ていたシバノイがナタバに声をかけた。
ナタバがキザシの答えに満足していない様子を見て、気になったようであった。
「社がどう判断するか、ですか?」
「それも悪くないが……ナタバさん、君が経営陣だったらどうするか、を聞いてみたい」
「自分が、ですか?」
「そう。ナタバさんが、だよ」
ナタバは少し考えてから、自分ならレイカを一時撤退させる、と答えた。
理由を尋ねられると、レイカの安全確保が難しい状況であり、かつレイカの身に何かあった場合、ECN社のイメージに与える負の影響が大きすぎる、と答えた。
また、現状交渉しているIMPU、OP社インデスト支店、「勉強会」グループの三者ともに十分な当事者能力があるとは思えず、かつECN社が直接介入するとインデストの住民に悪い印象を与える可能性があることも理由として挙げた。
「室長が交渉を纏められず撤退することによる、室長のブランドへの影響はどう考える?」
いつの間にキザシが話に割り込んできた。
「社としてはインデストの金属材料が手に入らなくなれば、そのうち事業に影響が出るでしょう。そうしないためにも、何らかの手を打つ必要があります。そうなれば、室長には次の機会が回ってくる。室長ならそれで十分、だと考えます」
「なるほど……」
キザシはナタバの回答に興味を持ったようであった。
そして、シバノイの方を向いて尋ねる。
「シバノイさん。今後の担当分けはどうなるのだろうか?」
「……室長の承認がもらえれば、二チームに分けるつもりでいる」
「チーム分けは難しそうですね」
キザシはシバノイの答えに対して、まるで他人事のように言った。どのチームに所属しようと自分にはあまり影響がないと考えているようであった。
「そうでもないさ、キザシさん、私と室長は別のチームになる。そして室長のチームにモモギさん、私のチームにチタムラさんが入るかな」
シバノイの答えに自分の名前が入っていないことに気づいたナタバは、思わず自分はと言いかけて口をつぐんだ。
一方、キザシは落ち着いた様子で、シバノイにこう尋ねた。
「好きな方を選んでいい、ってことですよね」
シバノイが言葉を発することなく静かにうなずいた。
「ところで、チームを二つに分けてどうするのですか?」
ナタバが恐る恐る、といった様子を見せながら尋ねた。
「何だ、わからないのか?」
キザシが意地の悪い表情を見せた。
「室長の警備をするチームと、もうひとつは何なのですか?」
キザシの嫌味にも負けず、ナタバがシバノイに向かって尋ねた。
「再交渉までの間、交渉に必要なインデストの情報は誰が集めることになるのだろうか?」
シバノイが質問の形でナタバに答えを返すと、ナタバは納得した様子でうなずいた。
大丈夫か、とキザシがナタバに問いかけようとした瞬間に、部屋の扉が開いた。
レイカに同行していたECN社の社員、ホシミ・ナタバは同じ部屋にいる先輩社員に尋ねた。
タイセイ・チタムラ、ザライ・モモギの二名がレイカに同行し、OP社インデスト支店で技術者の派遣について今後の対応を協議している。
また、ミツヒロ・ヤマノシタとバップ・タカジロの二名が、物資の調達のため外に出かけている。
現在、レイカたちは爆発事件の起きたホテルとは異なるインデスト市街のホテルに滞在している。
爆破されたホテルからは歩いて一〇分ほどの距離で、OP社インデスト支店のある「サウスセンター」の近くになる。
レイカが自ら手配した宿であるが、OP社インデスト支店の目が光っているから、ここなら不届き者も手を出せないだろうと「勉強会」グループもレイカたちがここに滞在することに賛同した。
現在ホテルに残っているのはレイカに次ぐ立場にあるジンゴ・シバノイ、リョウ・キザシとナタバの三名である。
彼らはECN社本社からの連絡を待っていた。
インデストの現在の状況はECN社本社でも問題になっていた。
広報企画室長という役員に次ぐ立場のレイカを長期間拘束される形となっており、今後の業務に支障をきたす可能性がある、というのがその理由であった。
また、インデストの状況を考慮すれば、彼女の安全を確保できない可能性がある、というのも問題となっている。
特にミヤハラに批判的な幹部達が現状を問題視しており、ミヤハラとしても彼らの声に耳を傾けざるを得ないようだ。
レイカも現在の状況は理解しており、インデスト市街からの撤退も考えていた。
すぐに撤退を選択しなかったのは、一度本社に状況を伝えた上で、本社の考えを参考に今後の対応を判断するつもりであったからだ。
「本社と室長の考え次第だ、我々がここで議論したところでどうこうなるものでもないだろう」
キザシは窓の外を向いてコーヒーをすすりながらそう答えた。
今自分自身がすべきことは、いざというときに動けるよう身軽になっておくこと、と割り切っているようにも見える。
「ならばナタバさんなら、この場面でどう考える?」
その様子を見ていたシバノイがナタバに声をかけた。
ナタバがキザシの答えに満足していない様子を見て、気になったようであった。
「社がどう判断するか、ですか?」
「それも悪くないが……ナタバさん、君が経営陣だったらどうするか、を聞いてみたい」
「自分が、ですか?」
「そう。ナタバさんが、だよ」
ナタバは少し考えてから、自分ならレイカを一時撤退させる、と答えた。
理由を尋ねられると、レイカの安全確保が難しい状況であり、かつレイカの身に何かあった場合、ECN社のイメージに与える負の影響が大きすぎる、と答えた。
また、現状交渉しているIMPU、OP社インデスト支店、「勉強会」グループの三者ともに十分な当事者能力があるとは思えず、かつECN社が直接介入するとインデストの住民に悪い印象を与える可能性があることも理由として挙げた。
「室長が交渉を纏められず撤退することによる、室長のブランドへの影響はどう考える?」
いつの間にキザシが話に割り込んできた。
「社としてはインデストの金属材料が手に入らなくなれば、そのうち事業に影響が出るでしょう。そうしないためにも、何らかの手を打つ必要があります。そうなれば、室長には次の機会が回ってくる。室長ならそれで十分、だと考えます」
「なるほど……」
キザシはナタバの回答に興味を持ったようであった。
そして、シバノイの方を向いて尋ねる。
「シバノイさん。今後の担当分けはどうなるのだろうか?」
「……室長の承認がもらえれば、二チームに分けるつもりでいる」
「チーム分けは難しそうですね」
キザシはシバノイの答えに対して、まるで他人事のように言った。どのチームに所属しようと自分にはあまり影響がないと考えているようであった。
「そうでもないさ、キザシさん、私と室長は別のチームになる。そして室長のチームにモモギさん、私のチームにチタムラさんが入るかな」
シバノイの答えに自分の名前が入っていないことに気づいたナタバは、思わず自分はと言いかけて口をつぐんだ。
一方、キザシは落ち着いた様子で、シバノイにこう尋ねた。
「好きな方を選んでいい、ってことですよね」
シバノイが言葉を発することなく静かにうなずいた。
「ところで、チームを二つに分けてどうするのですか?」
ナタバが恐る恐る、といった様子を見せながら尋ねた。
「何だ、わからないのか?」
キザシが意地の悪い表情を見せた。
「室長の警備をするチームと、もうひとつは何なのですか?」
キザシの嫌味にも負けず、ナタバがシバノイに向かって尋ねた。
「再交渉までの間、交渉に必要なインデストの情報は誰が集めることになるのだろうか?」
シバノイが質問の形でナタバに答えを返すと、ナタバは納得した様子でうなずいた。
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