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第十四章
654:守るべきもの
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シバノイ、キザシ、ナタバが残っている部屋の扉が開いた。
「すみません、今戻りました。本社からの連絡などはありましたか?」
そう尋ねながら中に入ってきたのは、薄い黄色のスーツに赤のスカーフの長身女性である。
この女性こそECN社広報企画室長、レイカ・メルツその人であった。
同行しているECN社の社員と比較すると社内での職位はかなり上ではあるが、少なくとも彼女は態度や言葉遣いで職位の差を見せることはないようだった。
「今のところ、本社から連絡は来ておりません。他に変わったこともないようです。ヤマノシタとタカジロはまだ戻っていませんが」
シバノイが手短に報告を済ませるとレイカはわかりましたと答え、ヤマノシタとタカジロが戻ったら今後の対応について話をすると伝えてきた。
「後で忙しくなるかもしれない。今のうちに休んでおくといい」
シバノイはキザシとナタバにいったん自室に戻るように指示した。この部屋は作業用に確保してある会議室であり、各自の宿泊している部屋は別にある。
キザシとナタバは自室に戻れというシバノイの言葉に従ったが、若いナタバがどこまでその言葉に応じられるか、シバノイにも不安は残る。
最近、ナタバが落ち着きを欠いている理由をシバノイは知っていた。
発端はECN社幹部の一人、エリック・モトムラから非公式にシバノイに宛てて発信された通信であった。
シバノイは把握していなかったが、それは非公式ながらもミヤハラやサクライがエリックに送信を命じたものであった。
通信では情報の取り扱いはシバノイの判断に任せる、とされていたため、シバノイはエリックと同期で彼と親しいナタバにエリックの真意を尋ねた。
これが結果的にナタバを気負わせる原因となった。
(あそこで彼に話したのは判断を誤ったか……)
エリックと同期で親しい、という部分に気をとられすぎたのではないかとシバノイは考えたのである。
エリックの通信は現在の混乱に乗じてIMPUの転覆を図る者が出てくる可能性があるので、IMPUに関わる事件や事故があった場合早急に本社に連絡して欲しい、という内容であった。
IMPUからレイカに向けて一時離脱の提案があったのは、エリックからの通信の直後である。
危機が迫っているのはIMPUだけではない、とシバノイは考えていた。
ECN社は明確にIMPU支持を打ち出しているわけではないが、現在の上層部がアカシと親しい関係もあり、世間ではIMPU寄りだと判断される傾向がある。
そのため、IMPUを狙って何かコトを起こそうとしている勢力が存在するならば、ターゲットはECN社となる可能性も十分考えられる。
現在、インデストにはECN社の看板ともいえるレイカが滞在している。
狙う側からすれば、これほど狙いやすいターゲットも多くないだろう。
レイカに同行しているメンバーはわずか七人と決して多くないのだ。
七人の中には腕の立つ者も少なくないのだが、数で圧倒されれば打てる手は少ない。
また、ECN社のメンバーについては、IMPU、労働者組合、「勉強会」グループの者が交代で警備に当たっているが、誰が警備していようと、レイカやECN社のメンバーの身に何か起きれば、責任を問われるのはIMPUの上層部となる可能性が高い。
実態は異なるのだが、労働者組合、「勉強会」グループの両者はIMPUの内部組織だと世間は見ているためだ。
すなわち、何らかの手段でレイカを葬り去れば、同時にIMPUにも大きなダメージを与えることができる。仮に葬り去れなかったとしても襲撃されたという事実があれば、それなりのダメージになる可能性が高い。
IMPUの不手際ということになれば、ECN社とIMPUの関係が悪化する可能性も考えられるだろう。
一方で、このままインデストに残留しても当事者能力を十分に持った交渉相手がいない以上、近日中に交渉が進展することも考えにくい。
シバノイは一時撤退すべきだとは考えているが、レイカの安全を守り続けることはそれ以上に重要だと考えている。
どこでレイカの安全を守るか?
レイカにとって最も安全でかつ再交渉に臨むために迅速に動ける場所はどこか?
いくつか候補はあるのだが、これ、という決定的な場所はない。
レイカや本社が何か考えてはいるだろうが、立場上、シバノイにも意見を求められる可能性がある。
意見は求められなくとも、シバノイはレイカや本社が判断するために十分な情報を提供すべき立場にあると考えている。
「シバノイさん、少しよろしいでしょうか?」
不意にレイカがシバノイに声をかけてきた。
「大丈夫です、何でしょうか?」
「トミシママネージャーがお話したいと通信が入っていますが、出られますか?」
「出ます」
シバノイの返事を確認したレイカが通信機の前に彼を案内した。
「すみません、今戻りました。本社からの連絡などはありましたか?」
そう尋ねながら中に入ってきたのは、薄い黄色のスーツに赤のスカーフの長身女性である。
この女性こそECN社広報企画室長、レイカ・メルツその人であった。
同行しているECN社の社員と比較すると社内での職位はかなり上ではあるが、少なくとも彼女は態度や言葉遣いで職位の差を見せることはないようだった。
「今のところ、本社から連絡は来ておりません。他に変わったこともないようです。ヤマノシタとタカジロはまだ戻っていませんが」
シバノイが手短に報告を済ませるとレイカはわかりましたと答え、ヤマノシタとタカジロが戻ったら今後の対応について話をすると伝えてきた。
「後で忙しくなるかもしれない。今のうちに休んでおくといい」
シバノイはキザシとナタバにいったん自室に戻るように指示した。この部屋は作業用に確保してある会議室であり、各自の宿泊している部屋は別にある。
キザシとナタバは自室に戻れというシバノイの言葉に従ったが、若いナタバがどこまでその言葉に応じられるか、シバノイにも不安は残る。
最近、ナタバが落ち着きを欠いている理由をシバノイは知っていた。
発端はECN社幹部の一人、エリック・モトムラから非公式にシバノイに宛てて発信された通信であった。
シバノイは把握していなかったが、それは非公式ながらもミヤハラやサクライがエリックに送信を命じたものであった。
通信では情報の取り扱いはシバノイの判断に任せる、とされていたため、シバノイはエリックと同期で彼と親しいナタバにエリックの真意を尋ねた。
これが結果的にナタバを気負わせる原因となった。
(あそこで彼に話したのは判断を誤ったか……)
エリックと同期で親しい、という部分に気をとられすぎたのではないかとシバノイは考えたのである。
エリックの通信は現在の混乱に乗じてIMPUの転覆を図る者が出てくる可能性があるので、IMPUに関わる事件や事故があった場合早急に本社に連絡して欲しい、という内容であった。
IMPUからレイカに向けて一時離脱の提案があったのは、エリックからの通信の直後である。
危機が迫っているのはIMPUだけではない、とシバノイは考えていた。
ECN社は明確にIMPU支持を打ち出しているわけではないが、現在の上層部がアカシと親しい関係もあり、世間ではIMPU寄りだと判断される傾向がある。
そのため、IMPUを狙って何かコトを起こそうとしている勢力が存在するならば、ターゲットはECN社となる可能性も十分考えられる。
現在、インデストにはECN社の看板ともいえるレイカが滞在している。
狙う側からすれば、これほど狙いやすいターゲットも多くないだろう。
レイカに同行しているメンバーはわずか七人と決して多くないのだ。
七人の中には腕の立つ者も少なくないのだが、数で圧倒されれば打てる手は少ない。
また、ECN社のメンバーについては、IMPU、労働者組合、「勉強会」グループの者が交代で警備に当たっているが、誰が警備していようと、レイカやECN社のメンバーの身に何か起きれば、責任を問われるのはIMPUの上層部となる可能性が高い。
実態は異なるのだが、労働者組合、「勉強会」グループの両者はIMPUの内部組織だと世間は見ているためだ。
すなわち、何らかの手段でレイカを葬り去れば、同時にIMPUにも大きなダメージを与えることができる。仮に葬り去れなかったとしても襲撃されたという事実があれば、それなりのダメージになる可能性が高い。
IMPUの不手際ということになれば、ECN社とIMPUの関係が悪化する可能性も考えられるだろう。
一方で、このままインデストに残留しても当事者能力を十分に持った交渉相手がいない以上、近日中に交渉が進展することも考えにくい。
シバノイは一時撤退すべきだとは考えているが、レイカの安全を守り続けることはそれ以上に重要だと考えている。
どこでレイカの安全を守るか?
レイカにとって最も安全でかつ再交渉に臨むために迅速に動ける場所はどこか?
いくつか候補はあるのだが、これ、という決定的な場所はない。
レイカや本社が何か考えてはいるだろうが、立場上、シバノイにも意見を求められる可能性がある。
意見は求められなくとも、シバノイはレイカや本社が判断するために十分な情報を提供すべき立場にあると考えている。
「シバノイさん、少しよろしいでしょうか?」
不意にレイカがシバノイに声をかけてきた。
「大丈夫です、何でしょうか?」
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