ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

656:レイカの選択は……

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 今後の対応についてレイカがミヤハラとサクライに相談したいと申し出た。
 画面に映るミヤハラ、サクライは意外そうな顔をしている。
「対応については室長に一任している。決定事項を報告してもらえればそれで問題ない」
 やや煩わしそうに答えたのは、サクライであった。
「そんな露骨に面倒くさがらないでも……
 事態が経営に影響することなら責任を問われるのは社長や副社長ですから、こちらはそれでも構わないですが」
 嫌味たっぷりにエリックが割り込んできた。
 インデストで通信を受けているメンバーはレイカを除いて皆、驚きを隠せないようであった。彼らはエリックのミヤハラやサクライに対する毒舌のことを知らなかったのだ。
 一方、ミヤハラやサクライ、レイカからすれば、ウォーリー・トワが健在だった頃のエリックによくあった言動なので、特に驚いた様子もない。

「……室長の話はどうなった、まずはそこからだ」
 今度は顔をしかめながらミヤハラが言う。
 サクライとエリックに対して露骨に面倒くさそうな表情を見せたのは、お前らの無駄話を聞く気はない、という意思表示なのだろう。
 ミヤハラの言葉を受けて、レイカが最初に現状の報告を行った。
 ホテル爆発事件の捜査が優先され、現在は交渉の継続が難しい状況であること。
 その中で、OP社本社からインデスト支店へ一千五百名の技術者を派遣する話を先ほど取りまとめてきたこと。
 そのうち先発隊の六〇〇名が既にインデスト郊外に到着しているが、検問の関係で市街に入り実際に活動できているのは三割に満たないこと。
 インデスト市民の多くが「勉強会」グループ支持に回っており、アカシをはじめとするIMPU幹部が苦境に立たされていること。
 一方、ホテル爆発事件とは異なる容疑で「トーカMC」社の幹部が身柄を拘束されているが、何を根拠に拘束されているかが判明していないこと。
 そして、彼女らが何らかの事件に関与しているとするには疑わしい点が多く見受けられること。特に、彼女らの尋問は「勉強会」グループの者のみで行われている様子であり、そのやり方には大いに疑問がもたれること。
 そして、IMPU幹部よりレイカたちに対して一時退去の要請があること、などである。
 ある程度の状況は理解しているのだろう、本社側の三人の表情に殆ど変化はなかった。
「室長、インデストから金属材料が入ってくる見込みは立っているのか?」
 サクライがレイカに尋ねた。
 本社としては、もっとも興味のある事項なのだろう。
 確かに、インデストからの金属材料の供給が止まれば、ECN社の多くの事業が影響を受ける。
 特に情報通信機器の製造、および都市インフラの整備の二事業については、致命的ともいえるダメージを受けかねない。
 しかし、サクライの問いに対するレイカの回答は、芳しいものではなかった。
「派遣が決まった一千五百名の技術者がすべて稼動して、通常の製造能力の六割を確保するのが限界かと。ただ、検問の影響で物流業者が動けませんのでこちらの解決のほうが急がれると判断しています」
 レイカの回答はサクライの予想以上に厳しいものであったようで、サクライは一瞬顔をしかめたが、更に質問を続ける。
「室長、検問の解除の見込みは立っているのか?」
「まだです。爆発事件の主犯の身柄が確保できるまでは解除する意思がないようですので、別の手を打たせてもらっています」
「何だそれは?」
「物流業者は優先的に検問を通過できますが、検査官が不足しているため、通過できる人数の制限が厳しいのです。ですので、検査官を増員し、通過できる人数を増やす方向で話をしてきました。まもなくOP社インデスト支店から『勉強会』グループへ要請が入るでしょう」
 検問がすぐに解除できる見込みがない以上、検問による物資の滞留を減らす方向に動くことは間違っていない。
 OP社インデスト支店から「勉強会」グループに要請を入れさせるあたり、サクライからすれば「うまくやってくれたな」という気分である。
 OP社インデスト支店の立場からすれば、発電技術者および補修部品の早期受け入れは、急務である。
 「勉強会」グループとしても、トップのヒロスミ・オオバがOP社寄りの人物であるし、OP社インデスト支店から要請を受けるのは悪い気分にならないはずだ。
「……一定の成果は得られた、ということか。十分とは言わないが、最低限よりは多くのものは得られた、そう判断している、ということか?」
 サクライの言葉にレイカは、すみませんが現時点では、と短く答えた。
「で、室長はこれからどうするのだ」
 焦れたようにミヤハラがレイカに問うた。
 これまでのやり取りに口を挟まなかったのは、単に面倒だったからのようだ。
「はい、早急に。できれば明日にでも本社に向けて全員帰還する予定ですが、本社の受け入れ体制は整いますでしょうか?」
 レイカの言葉には本社の三人よりも同行メンバーのほうがより多くの衝撃を受けたようだ。
 シバノイやナタバとのやり取りで余裕を見せていたキザシですら、口を半開きにしてレイカのほうを見やっている。
 シバノイにしても、インデストに何人か残留させないでよいのですか、と言いかけて口をつぐんだ。
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