237 / 304
第十四章
656:レイカの選択は……
しおりを挟む
今後の対応についてレイカがミヤハラとサクライに相談したいと申し出た。
画面に映るミヤハラ、サクライは意外そうな顔をしている。
「対応については室長に一任している。決定事項を報告してもらえればそれで問題ない」
やや煩わしそうに答えたのは、サクライであった。
「そんな露骨に面倒くさがらないでも……
事態が経営に影響することなら責任を問われるのは社長や副社長ですから、こちらはそれでも構わないですが」
嫌味たっぷりにエリックが割り込んできた。
インデストで通信を受けているメンバーはレイカを除いて皆、驚きを隠せないようであった。彼らはエリックのミヤハラやサクライに対する毒舌のことを知らなかったのだ。
一方、ミヤハラやサクライ、レイカからすれば、ウォーリー・トワが健在だった頃のエリックによくあった言動なので、特に驚いた様子もない。
「……室長の話はどうなった、まずはそこからだ」
今度は顔をしかめながらミヤハラが言う。
サクライとエリックに対して露骨に面倒くさそうな表情を見せたのは、お前らの無駄話を聞く気はない、という意思表示なのだろう。
ミヤハラの言葉を受けて、レイカが最初に現状の報告を行った。
ホテル爆発事件の捜査が優先され、現在は交渉の継続が難しい状況であること。
その中で、OP社本社からインデスト支店へ一千五百名の技術者を派遣する話を先ほど取りまとめてきたこと。
そのうち先発隊の六〇〇名が既にインデスト郊外に到着しているが、検問の関係で市街に入り実際に活動できているのは三割に満たないこと。
インデスト市民の多くが「勉強会」グループ支持に回っており、アカシをはじめとするIMPU幹部が苦境に立たされていること。
一方、ホテル爆発事件とは異なる容疑で「トーカMC」社の幹部が身柄を拘束されているが、何を根拠に拘束されているかが判明していないこと。
そして、彼女らが何らかの事件に関与しているとするには疑わしい点が多く見受けられること。特に、彼女らの尋問は「勉強会」グループの者のみで行われている様子であり、そのやり方には大いに疑問がもたれること。
そして、IMPU幹部よりレイカたちに対して一時退去の要請があること、などである。
ある程度の状況は理解しているのだろう、本社側の三人の表情に殆ど変化はなかった。
「室長、インデストから金属材料が入ってくる見込みは立っているのか?」
サクライがレイカに尋ねた。
本社としては、もっとも興味のある事項なのだろう。
確かに、インデストからの金属材料の供給が止まれば、ECN社の多くの事業が影響を受ける。
特に情報通信機器の製造、および都市インフラの整備の二事業については、致命的ともいえるダメージを受けかねない。
しかし、サクライの問いに対するレイカの回答は、芳しいものではなかった。
「派遣が決まった一千五百名の技術者がすべて稼動して、通常の製造能力の六割を確保するのが限界かと。ただ、検問の影響で物流業者が動けませんのでこちらの解決のほうが急がれると判断しています」
レイカの回答はサクライの予想以上に厳しいものであったようで、サクライは一瞬顔をしかめたが、更に質問を続ける。
「室長、検問の解除の見込みは立っているのか?」
「まだです。爆発事件の主犯の身柄が確保できるまでは解除する意思がないようですので、別の手を打たせてもらっています」
「何だそれは?」
「物流業者は優先的に検問を通過できますが、検査官が不足しているため、通過できる人数の制限が厳しいのです。ですので、検査官を増員し、通過できる人数を増やす方向で話をしてきました。まもなくOP社インデスト支店から『勉強会』グループへ要請が入るでしょう」
検問がすぐに解除できる見込みがない以上、検問による物資の滞留を減らす方向に動くことは間違っていない。
OP社インデスト支店から「勉強会」グループに要請を入れさせるあたり、サクライからすれば「うまくやってくれたな」という気分である。
OP社インデスト支店の立場からすれば、発電技術者および補修部品の早期受け入れは、急務である。
「勉強会」グループとしても、トップのヒロスミ・オオバがOP社寄りの人物であるし、OP社インデスト支店から要請を受けるのは悪い気分にならないはずだ。
「……一定の成果は得られた、ということか。十分とは言わないが、最低限よりは多くのものは得られた、そう判断している、ということか?」
サクライの言葉にレイカは、すみませんが現時点では、と短く答えた。
「で、室長はこれからどうするのだ」
焦れたようにミヤハラがレイカに問うた。
これまでのやり取りに口を挟まなかったのは、単に面倒だったからのようだ。
「はい、早急に。できれば明日にでも本社に向けて全員帰還する予定ですが、本社の受け入れ体制は整いますでしょうか?」
レイカの言葉には本社の三人よりも同行メンバーのほうがより多くの衝撃を受けたようだ。
シバノイやナタバとのやり取りで余裕を見せていたキザシですら、口を半開きにしてレイカのほうを見やっている。
シバノイにしても、インデストに何人か残留させないでよいのですか、と言いかけて口をつぐんだ。
画面に映るミヤハラ、サクライは意外そうな顔をしている。
「対応については室長に一任している。決定事項を報告してもらえればそれで問題ない」
やや煩わしそうに答えたのは、サクライであった。
「そんな露骨に面倒くさがらないでも……
事態が経営に影響することなら責任を問われるのは社長や副社長ですから、こちらはそれでも構わないですが」
嫌味たっぷりにエリックが割り込んできた。
インデストで通信を受けているメンバーはレイカを除いて皆、驚きを隠せないようであった。彼らはエリックのミヤハラやサクライに対する毒舌のことを知らなかったのだ。
一方、ミヤハラやサクライ、レイカからすれば、ウォーリー・トワが健在だった頃のエリックによくあった言動なので、特に驚いた様子もない。
「……室長の話はどうなった、まずはそこからだ」
今度は顔をしかめながらミヤハラが言う。
サクライとエリックに対して露骨に面倒くさそうな表情を見せたのは、お前らの無駄話を聞く気はない、という意思表示なのだろう。
ミヤハラの言葉を受けて、レイカが最初に現状の報告を行った。
ホテル爆発事件の捜査が優先され、現在は交渉の継続が難しい状況であること。
その中で、OP社本社からインデスト支店へ一千五百名の技術者を派遣する話を先ほど取りまとめてきたこと。
そのうち先発隊の六〇〇名が既にインデスト郊外に到着しているが、検問の関係で市街に入り実際に活動できているのは三割に満たないこと。
インデスト市民の多くが「勉強会」グループ支持に回っており、アカシをはじめとするIMPU幹部が苦境に立たされていること。
一方、ホテル爆発事件とは異なる容疑で「トーカMC」社の幹部が身柄を拘束されているが、何を根拠に拘束されているかが判明していないこと。
そして、彼女らが何らかの事件に関与しているとするには疑わしい点が多く見受けられること。特に、彼女らの尋問は「勉強会」グループの者のみで行われている様子であり、そのやり方には大いに疑問がもたれること。
そして、IMPU幹部よりレイカたちに対して一時退去の要請があること、などである。
ある程度の状況は理解しているのだろう、本社側の三人の表情に殆ど変化はなかった。
「室長、インデストから金属材料が入ってくる見込みは立っているのか?」
サクライがレイカに尋ねた。
本社としては、もっとも興味のある事項なのだろう。
確かに、インデストからの金属材料の供給が止まれば、ECN社の多くの事業が影響を受ける。
特に情報通信機器の製造、および都市インフラの整備の二事業については、致命的ともいえるダメージを受けかねない。
しかし、サクライの問いに対するレイカの回答は、芳しいものではなかった。
「派遣が決まった一千五百名の技術者がすべて稼動して、通常の製造能力の六割を確保するのが限界かと。ただ、検問の影響で物流業者が動けませんのでこちらの解決のほうが急がれると判断しています」
レイカの回答はサクライの予想以上に厳しいものであったようで、サクライは一瞬顔をしかめたが、更に質問を続ける。
「室長、検問の解除の見込みは立っているのか?」
「まだです。爆発事件の主犯の身柄が確保できるまでは解除する意思がないようですので、別の手を打たせてもらっています」
「何だそれは?」
「物流業者は優先的に検問を通過できますが、検査官が不足しているため、通過できる人数の制限が厳しいのです。ですので、検査官を増員し、通過できる人数を増やす方向で話をしてきました。まもなくOP社インデスト支店から『勉強会』グループへ要請が入るでしょう」
検問がすぐに解除できる見込みがない以上、検問による物資の滞留を減らす方向に動くことは間違っていない。
OP社インデスト支店から「勉強会」グループに要請を入れさせるあたり、サクライからすれば「うまくやってくれたな」という気分である。
OP社インデスト支店の立場からすれば、発電技術者および補修部品の早期受け入れは、急務である。
「勉強会」グループとしても、トップのヒロスミ・オオバがOP社寄りの人物であるし、OP社インデスト支店から要請を受けるのは悪い気分にならないはずだ。
「……一定の成果は得られた、ということか。十分とは言わないが、最低限よりは多くのものは得られた、そう判断している、ということか?」
サクライの言葉にレイカは、すみませんが現時点では、と短く答えた。
「で、室長はこれからどうするのだ」
焦れたようにミヤハラがレイカに問うた。
これまでのやり取りに口を挟まなかったのは、単に面倒だったからのようだ。
「はい、早急に。できれば明日にでも本社に向けて全員帰還する予定ですが、本社の受け入れ体制は整いますでしょうか?」
レイカの言葉には本社の三人よりも同行メンバーのほうがより多くの衝撃を受けたようだ。
シバノイやナタバとのやり取りで余裕を見せていたキザシですら、口を半開きにしてレイカのほうを見やっている。
シバノイにしても、インデストに何人か残留させないでよいのですか、と言いかけて口をつぐんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる