238 / 304
第十四章
657:答えは……「撤退」
しおりを挟む
レイカが全員を一度に撤退させる、という考えを持っていたことは少なくとも彼女に同行していたメンバーの誰一人として把握していなかった。
実際のところ本社側も同じような状況だったのだが、本社側のメンバーは当事者でない分、驚きが小さかったに過ぎない。
インデスト側の驚きを目にしたエリックは振り回されるほうは大変だな、と思いつつも浮かび上がった懸念をぶつけることにした。
「全員で戻るとして、経営企画室、じゃなかった、『リスク管理研究所』あたりが、室長を責める記事とかを書いたりしたら厄介ではないですか?」
エリックの懸念に対し、レイカははっきりと答えた。
「いえ、問題ありません。そう解釈されても問題のない状態ではありますので」
(普段はそう見えないが、室長は時々恐ろしく大胆になるな……)
シバノイは感心した様子でレイカとスクリーンを交互に見やった。
レイカは動じた様子もなく、微かに笑みを浮かべてスクリーンの方を向いている。
その横顔は確かに美人なのだが、悪戯に成功した少年のようにも見えるから不思議だ。
「受け入れは問題ないが、その後はどうするつもりか?」
サクライの問いにレイカは再交渉の予定はあるが、詳細は本社に戻ってから検討したいと答えた。
その答えにサクライは少し考えてからミヤハラの方を向いた。サクライの権限で答えてよい話ではないと判断したのだ。
ミヤハラは腕組みをしたまま画面を見ているだけであった。
その様子に半ば呆れながらも、サクライはミヤハラに発言を促した。
「社長、何かないですか?」
かろうじて敬語を保っていたのは、レイカの同行者七名の姿があったからだ。
もっとも、ミヤハラに話を振ったのは単に面倒になっていたからなので、ある意味サクライの地が出てしまったともいえる。
話を振られたミヤハラは、エリックに何かないかと話を振った。
本社の三人の中で立場が一番下であるエリックは仕方ないですね、と一言嫌味を言ってから、レイカに向けていくつかの質問を投げた。
メンバーの安全を確保するために、迎えをよこす必要はないか?
再交渉の準備として、今から本社で対応しておくべき事項はあるか?
インデストの状勢が改善するまで、どのくらいの期間を要すると見込んでいるのか?
再交渉を行う場合、その相手は今回と同じと見込んでいるのか?
はじめの二つは質問というより申し出であったが、レイカはこれらを謝絶した。
その代わりに「トーカMC」社がメンテナンスを行っていた通信局やアンテナについて、現在メンテナンスが行われていない様子なので、何らかの手を打って欲しいと訴えた。
後半の二つの質問に対しては、ECN社がこの件に対してどの程度関与するかによって対応が異なるという答えであった。
「室長、それは我々に対してこの件にもっと関われ、ということを言っているのか?」
サクライがやや厳しい口調で尋ねた。
ECN社の財務を預かるという立場から、財務状況に影響を与える事項については敏感にならざるを得ないのだ。
今回のレイカのインデスト行きについては、ECN社の企業活動を維持するためにも必要なことだとは理解している。
しかし、インデストの状勢に積極的に関与するとなると話は別だ。
今回は一〇名に満たない人員の派遣で済んでいるが、インデストの状勢に関与するためには相当な人員や資源を割く必要がある。
ECN社本社のあるハモネスとインデストの物理的距離は長く、人員や資源の移動も相当な負担になると考えられる。
ECN社の負担を考えると、サクライの立場では容易に首を縦に振ることができない。
トップのミヤハラは、数字に興味がなさそうに見えるという点で、サクライとしては当てにしにくい。
エリックも技術が本職であり、決して財務に明るいほうだとはいえない。
時々毒舌が見受けられるものの、基本的には人の好い性格で、他人の頼みを積極的に断ることができないというのがサクライのエリックに対する評価である。
そうなると、自分が厳しくするしかない、という結論に達してしまうのである。
「インデストとECN社との関係のあり方をもう一度考えたほうがよい時期かということです。また、モトムラマネージャーが懸念されている問題もあります」
レイカはサクライの言葉に動じた様子もなく、微かに笑みを浮かべているようにさえ見える表情で答えた。
思わずサクライはエリックのほうを向く。
「……それは室長が本社に戻ってからの話になります。そう簡単に結論は出ないでしょう」
エリックがそう答えたので、サクライはいったん矛を収めることにした。
もともとレイカとここで口論する気はなく、懸念を持っていることを彼女に知らしめればこの場は十分と考えていた。
また、エリックの言うとおり、レイカを本社に戻してから話をするほうが望ましい、と思えた。
「室長をはじめとした全員がこれから本社に帰還、ということでいいのか?」
不意にミヤハラが口を開いた。
話が長くなってきたので、早く切り上げたいのであろう。
レイカが短くはいと答えると、ミヤハラはご苦労だった、最後まで気を抜かずに無事帰還するように、と言った。
ミヤハラの行動にサクライも仕方ない、と話を切り上げることにした。
二、三点確認を行った後、最後にミヤハラから次のような言葉が伝えられ、本社とインデストの間の通信は終了することとなった。
「トミシマさんから聞いたが、全員が身体、精神ともに無事そうで何よりだ。そのままの状態で本社に戻れるよう、室長、最大限配慮するように」
レイカのわかりました、という言葉が終わるか終わらないかのタイミングで通信は切れた。
そのため、それが本社に伝わったかどうかはわからない。
(このためにトミシママネージャーは、さっき自分に連絡してきたのか?)
映像の消えたスクリーンを見ながらシバノイが首を傾げた。
実際のところ本社側も同じような状況だったのだが、本社側のメンバーは当事者でない分、驚きが小さかったに過ぎない。
インデスト側の驚きを目にしたエリックは振り回されるほうは大変だな、と思いつつも浮かび上がった懸念をぶつけることにした。
「全員で戻るとして、経営企画室、じゃなかった、『リスク管理研究所』あたりが、室長を責める記事とかを書いたりしたら厄介ではないですか?」
エリックの懸念に対し、レイカははっきりと答えた。
「いえ、問題ありません。そう解釈されても問題のない状態ではありますので」
(普段はそう見えないが、室長は時々恐ろしく大胆になるな……)
シバノイは感心した様子でレイカとスクリーンを交互に見やった。
レイカは動じた様子もなく、微かに笑みを浮かべてスクリーンの方を向いている。
その横顔は確かに美人なのだが、悪戯に成功した少年のようにも見えるから不思議だ。
「受け入れは問題ないが、その後はどうするつもりか?」
サクライの問いにレイカは再交渉の予定はあるが、詳細は本社に戻ってから検討したいと答えた。
その答えにサクライは少し考えてからミヤハラの方を向いた。サクライの権限で答えてよい話ではないと判断したのだ。
ミヤハラは腕組みをしたまま画面を見ているだけであった。
その様子に半ば呆れながらも、サクライはミヤハラに発言を促した。
「社長、何かないですか?」
かろうじて敬語を保っていたのは、レイカの同行者七名の姿があったからだ。
もっとも、ミヤハラに話を振ったのは単に面倒になっていたからなので、ある意味サクライの地が出てしまったともいえる。
話を振られたミヤハラは、エリックに何かないかと話を振った。
本社の三人の中で立場が一番下であるエリックは仕方ないですね、と一言嫌味を言ってから、レイカに向けていくつかの質問を投げた。
メンバーの安全を確保するために、迎えをよこす必要はないか?
再交渉の準備として、今から本社で対応しておくべき事項はあるか?
インデストの状勢が改善するまで、どのくらいの期間を要すると見込んでいるのか?
再交渉を行う場合、その相手は今回と同じと見込んでいるのか?
はじめの二つは質問というより申し出であったが、レイカはこれらを謝絶した。
その代わりに「トーカMC」社がメンテナンスを行っていた通信局やアンテナについて、現在メンテナンスが行われていない様子なので、何らかの手を打って欲しいと訴えた。
後半の二つの質問に対しては、ECN社がこの件に対してどの程度関与するかによって対応が異なるという答えであった。
「室長、それは我々に対してこの件にもっと関われ、ということを言っているのか?」
サクライがやや厳しい口調で尋ねた。
ECN社の財務を預かるという立場から、財務状況に影響を与える事項については敏感にならざるを得ないのだ。
今回のレイカのインデスト行きについては、ECN社の企業活動を維持するためにも必要なことだとは理解している。
しかし、インデストの状勢に積極的に関与するとなると話は別だ。
今回は一〇名に満たない人員の派遣で済んでいるが、インデストの状勢に関与するためには相当な人員や資源を割く必要がある。
ECN社本社のあるハモネスとインデストの物理的距離は長く、人員や資源の移動も相当な負担になると考えられる。
ECN社の負担を考えると、サクライの立場では容易に首を縦に振ることができない。
トップのミヤハラは、数字に興味がなさそうに見えるという点で、サクライとしては当てにしにくい。
エリックも技術が本職であり、決して財務に明るいほうだとはいえない。
時々毒舌が見受けられるものの、基本的には人の好い性格で、他人の頼みを積極的に断ることができないというのがサクライのエリックに対する評価である。
そうなると、自分が厳しくするしかない、という結論に達してしまうのである。
「インデストとECN社との関係のあり方をもう一度考えたほうがよい時期かということです。また、モトムラマネージャーが懸念されている問題もあります」
レイカはサクライの言葉に動じた様子もなく、微かに笑みを浮かべているようにさえ見える表情で答えた。
思わずサクライはエリックのほうを向く。
「……それは室長が本社に戻ってからの話になります。そう簡単に結論は出ないでしょう」
エリックがそう答えたので、サクライはいったん矛を収めることにした。
もともとレイカとここで口論する気はなく、懸念を持っていることを彼女に知らしめればこの場は十分と考えていた。
また、エリックの言うとおり、レイカを本社に戻してから話をするほうが望ましい、と思えた。
「室長をはじめとした全員がこれから本社に帰還、ということでいいのか?」
不意にミヤハラが口を開いた。
話が長くなってきたので、早く切り上げたいのであろう。
レイカが短くはいと答えると、ミヤハラはご苦労だった、最後まで気を抜かずに無事帰還するように、と言った。
ミヤハラの行動にサクライも仕方ない、と話を切り上げることにした。
二、三点確認を行った後、最後にミヤハラから次のような言葉が伝えられ、本社とインデストの間の通信は終了することとなった。
「トミシマさんから聞いたが、全員が身体、精神ともに無事そうで何よりだ。そのままの状態で本社に戻れるよう、室長、最大限配慮するように」
レイカのわかりました、という言葉が終わるか終わらないかのタイミングで通信は切れた。
そのため、それが本社に伝わったかどうかはわからない。
(このためにトミシママネージャーは、さっき自分に連絡してきたのか?)
映像の消えたスクリーンを見ながらシバノイが首を傾げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる