ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

661:共犯者を得る

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 ヌマタは息を搾り出すようにして自分のアイデアをジンダイに向かって口にした。
 さすがに気が引けるのだが、テロリストのなりそこないに堕ちた身だと自身に言い聞かせ続けた。やはり自分にはこれがお似合いだとヌマタは考えている。
「おい、ジンダイ。家を探すのは少し待ってくれ。俺の方が落ち着いたら家探しのほうを手伝うから、ひとつ頼まれてくれないか?」
 テロリストのなりそこないに堕ちた者の頼みを記憶を失った者に聞かせるとは、俺は根っからの出来の悪いテロリストなりそこないらしい、とヌマタは苦笑した。
 その表情に気づいたのかヌマタにはわからなかったが、ジンダイは表情を変えることなく、自分にできることなら構いませんよ、と答えた。

 ヌマタは表情を引き締め、いつにない真剣な顔を見せる。
「いいか、ジンダイ。俺がECN社で話をする。通信で音声を流すから、その間どこかで聞いていてくれ」
「わかりました」
「もし、俺がECN社か他の誰かに身柄を拘束されるようなことになれば、悪いがIMPUのアカシさんにそのことを伝えてくれ。キースという組合の若い奴でもいい。拘束した相手がECN社の関係者でなければ、エリック・モトムラ氏あたりでも大丈夫なはずだ」
「……あまりその手のことに自信はないですが、やってみます」
 OP社治安改革部隊にいたらしいが、先ほどの話から後方支援役だったのだろう、とヌマタは推測していた。
 それでも最低限の訓練は受けているであろうから、そこらの素人よりは上手に役割を果たすことができるはずだ。
 ただ、ヌマタはこの時点でECN社が自分に敵対的な対応を取る可能性は殆どないと考えていた。
 IMPUをどの程度支援するか、という点については確証がないが、少なくともかつて手を組んでいた相手である。
 「タブーなきエンジニア集団」のかつてのトップ、ウォーリー・トワは義理堅い人間であった。
 現在のECN社のトップツーはウォーリーの補佐役であったし、面識のあるエリック・モトムラも信頼を置くのに値する人間であった。
 そのためヌマタが気をつけるのは、いかにしてIMPUを救うためにECN社を引っ張り出すか、という点に尽きる。ECN社の関与が大きければ大きいほど良い。
 ミヤハラと話をする機会が得られれば、インデストの情勢にECN社を関わらせることだけに注力すればよい。
 しかし、そこにたどり着く前に身柄を拘束される可能性もある。
 ECN社内にも元「タブーなきエンジニア集団」のメンバーに好意的ではない者がいるとは聞いているし、もしかしたら他にヌマタの行動を妨害する者が存在するかもしれない。
 通信を通じて外にいるジンダイに会話の内容を伝えるのは、この手の相手に身柄を拘束されたときの保険の意味が大きい。
 ヌマタが拘束されたとき、ジンダイがIMPUにそれを伝えればアカシが動くだろう。

 ヌマタとジンダイは翌日の段取りについてその後数時間話し合った。
 段取りが決まったところで、ヌマタは脇に置いてあった茶を一気にあおった。
 時計を見ると日が変わって、四月三日の午前一時を回っている。
「さて、そろそろそっちが気になる話もしたいところだが、明日のことを考えると寝ておいたほうがよさそうだ。悪いが、肝心な話はECN社との話が終わってからにしてくれ」
「わかりました。明日が肝心ですからね」
 こういうときジンダイの奴は聞きわけがよくて助かる、とヌマタは思う。
 しかし、何も伝えずにこのまま待たせるのも何となく寝覚めが悪いとヌマタは思い直した。
「詳しいことは後で話すが、俺は重大な事件に関わっちまった。それにとある行方不明者の所在を知っている」
「……なるほど。今は詳しく聞きません。少なくとも、これから罪を犯そうという行動を取るわけではない、と思っていますので、行動を止める気もないですよ」
 ジンダイの答えは淡々としていた。さすがに今日は何度も重要なことを話しており、その都度ジンダイは同じような反応を示していたので、ヌマタも驚くことはない。
「ああ、助かる。でも、明日やろうとしていることは罪になるかも知れんぞ。そうしたら、ジンダイ、お前も共犯者になるが」
 ヌマタが冗談めかして言った。
 言っていることはヌマタにとって事実なのだが、ジンダイの表情を見ていると冗談の成分を混ぜたくなるから不思議だ。
 かなり重大な話をしていることには間違いないのだが、ジンダイには重大なことをそう感じさせない能力のようなものがあるのかもしれない、とヌマタは考えた。
「今まで同行したことで共犯者、になっているかも知れませんね。もっとも、どっちが罪が重いのかわかりませんが」
 そう答えてジンダイが自嘲気味に笑った。
 このような表情をジンダイが見せるのは珍しい。
 ヌマタはジンダイの「どっちが」という言葉を「今までのジンダイの行動」と「これからジンダイが取るであろう行動」の二者を示しているものだと思っていた。
 少し気になる表現であるのだが、自らの解釈で間違いあるまい、とヌマタは敢えてその点についてジンダイに突っ込むことをしなかった。
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